幽助たちが熱い闘いを繰り広げた『幽☆遊☆白書』。もし、すべてが「ウソ」だったとしたらどうでしょう? 原作者・冨樫義博先生が描いた「とある作品」によって、私たちの知る『幽☆遊☆白書』のすべてが覆されることになるかもしれません……。
◆すべてを覆す同人漫画『12人のおびえる者たち』とは?
『12人のおびえる者たち』とは、『幽☆遊☆白書』の連載終了後となる1994年に出版された同人誌『幽遊終了記念 ヨシりんでポン!』の中に収録されていた同人漫画です。
「12人」とは、『幽☆遊☆白書』に登場した主要人物たちをさしていますが、問題はそのストーリーにありました。
夜のとある屋敷で、連載終了を記念したと思しきパーティーが開催され、そこへ幽助、桑原らが招かれていますが、読み進めていくと何やらセリフがおかしなことに気づきます。
会話の中で「契約」、「役柄」、「イメージ」といったワードが飛び交っており、実は彼らは俳優で、『幽☆遊☆白書』という漫画自体が「作中劇」であったことが判明するのです。
当然、我々の知っている登場人物たちには俳優としての別の名前があり、幽助役の俳優が女好きであるなど、わずかなコマ数しかない本編にもかかわらず、これまで『幽☆遊☆白書』に抱いていたイメージは音を立てて崩れ去っていきます……。
本作の読者の中には、あまりの唐突な内容に理解が追いつかない人も少なくなかったでしょう。鬼才・冨樫義博先生が執筆した数々の作品の中でも、ある意味群を抜いて「問題作」といえるかもしれません。
◆桑原役・鶴岡信国はまさかの無口なインテリ!?
きわめて短い本編の中でも、明らかに『幽☆遊☆白書』のキャライメージとのギャップが際立っていたのが桑原役の俳優です。
役者の名前は「鶴岡信国」。メガネをかけたいかにも「インテリ」といった佇まいで、「にひひ 金髪のオネーチャンとお近づきになるチャンス。」と浮かれる幽助役・新庄陽平に対し、「全く ナンパもいいが節度はわきまえろよ。」と大人らしくたしなめます。
続けて「契約にうたってあるだろう。アニメ終了まではキャライメージを壊すような言動はつつしめとな。」と、原作は終了したもののTVアニメがまだ放送中であることに配慮しており、お調子者で単細胞のイメージが強い桑原の印象はどこにもありません……。
それを見たぼたん役の俳優に「あの2人…役柄と本人の性格大違いだもんねー。」と突っ込まれる描写も、『幽☆遊☆白書』ファンの喪失感に拍車をかけることになりました。
登場人物の紹介ページでは、鶴岡信国は熱心に台本のような書物を読んでおり、12人のキャスト陣の中でも特に演技に対して熱心であったことがうかがえます。
桑原役はせめて一般レベルのユーモアや隙がある人物であってほしかったものですが、彼が一番のインテリ俳優だった点は、『幽☆遊☆白書』ファン最大の衝撃となったことは間違いないでしょう。
◆イメージとのギャップ……ぼたん役・大石田なを「火ィかして。」
作中で全体を俯瞰していたのが、ぼたん役の俳優・大石田なをと、蔵馬役・天童悟志です。
屋敷に入るなり小競り合いをはじめた新庄陽平と鶴岡信国を見て、読者に普段の彼らの人柄が分かるように説明を入れる様子からは、2人とも『幽☆遊☆白書』でのキャラと大きな差を感じません。
しかし、雪村螢子役の俳優・寒河江利華が全員にその後のスケジュールのアナウンスをはじめた背景で、大石田なをがタバコを吸おうと天童悟志に「火ィかして。」とライターを要求しています。
『幽☆遊☆白書』の脇役の中では最古参であり、何かと幽助たちを気にかけ、献身的に行動するなど母性あふれるイメージだったぼたん。もちろん悪いことではありませんが、「あぁ、彼女はタバコを吸うのか……」と、読者にうっすら違和感を抱かせたでしょう。
どんな状況や要求も受け入れる蔵馬役は何となくイメージ通りですが、ぼたん役にもあえて何ともいえない「違和感」を、わずか1コマで入れ込んできた冨樫義博先生には、「さすが」の一言しかありません。
◆人間界ver.コエンマ役の俳優は、妖狐・蔵馬と2役の掛け持ち!
登場する12人のうち、セリフがあったのは幽助役、桑原役、蔵馬役など一部のキャラのみでした。その他の役者は登場人物紹介ページで俳優名と役名が明かされたのみでしたが、中でもひときわ目を引くのが「コエンマ役」の舟形直人です。
コエンマは『幽☆遊☆白書』の中で本来の子供の姿、人間界ver.の青年の姿と2つの容姿を使い分けており、当然それを演じる役者は2人いました。
子供役は米沢辰也という子役俳優で、コエンマのトレードマークであるおしゃぶりを外し、大きな帽子を被る様はもはやただの子供です……。問題は、人間界ver.を演じていた舟形直人の配役名に「コエンマ(人間界) 妖狐蔵馬 2役」と書かれていたことです。
しかも、目立たないようあくまで配役名の一文だけで、恐るべき事実を伝えるあたり「そうきたか……」と、唸ったファンも多かったことでしょう。
映画やドラマにおいて、まったく違う2役を1人の俳優が演じることは稀にありますが、コエンマと神秘的なキャラである妖狐蔵馬を、まさかの同一の役者が演じていたというトンデモ設定は、冨樫義博先生の才能が強烈に光る点だといえます。
──少年漫画でありながら、特有の狂気や奇抜な展開が特徴で、現在では名作として語り継がれる『幽☆遊☆白書』。本来であれば、自身の作品を大切にするはずの原作者が、自ら世界観をぶち壊すのは異例中の異例です。『幽☆遊☆白書』はただの名作ではなく、もはや「伝説」なのかもしれません……。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
※サムネイル画像:Amazonより 『「幽☆遊☆白書」第12巻(出版社:集英社)』