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 妖怪に転生してまで「強さ」を求めた戸愚呂弟(以下、戸愚呂)と、境界トンネル開通を画策した仙水忍には、ある決定的な違いがあります。また、戸愚呂は強い相手を求めて幽助を暗黒武術会に出場させましたが、仮に境界トンネル開通後に生きていたとして、それを歓迎したでしょうか?

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◆戸愚呂が求めていたのは、ただの「強敵」ではない!?

 自身が強くなるのはもちろんのこと、強い相手を求めて幽助を暗黒武術会に招待するなど100%の力を出して戦える相手に飢えていた戸愚呂。境界トンネルが開通し、A級、S級など強い妖怪が人間界に来られるようになることは「渡りに船」のように思われますが、実はそうではなかったかもしれません。

 戸愚呂は、まだ人間だったころに「潰煉」という妖怪によって仲間全員の命を奪われたことがきっかけで妖怪に転生しています。

 彼は、強さを求めると自分を偽って妖怪に転生し、自分を倒してくれる「強い相手」が現れるのを50年間待ち続けていました。また、自分こそが最強だと思っていたにもかかわらず、潰煉にまったく歯が立たず仲間たちを守れなかったことへの「償い」でもありました。

 そう考えると、戸愚呂がただの戦闘狂ではなく、自分が倒されるにふさわしい「理想の相手」を求めていたと言い換えることもできます。

 戸愚呂の人生の幕を引くに相応しいのは、ただ強いだけの見ず知らずの妖怪ではなく、正義感にあふれ、当時の自分のように実力を過信することなく、仲間を守れる強さを兼ね備えた「人間」でなければならなかったと考えることができそうです。

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◆仙水と戸愚呂の決定的な違いとは?

 ともに幽助たちを苦しめた戸愚呂と仙水ですが、彼らには決定的な違いがあります。戸愚呂は、妖怪でありながら過去に仲間を手にかけられたことから、心の底では妖怪に憎悪を抱き、強い人間が現れるのを待っていました。

 一方、仙水は人間でありながら、人間が妖怪に対して行っていた残酷な所業を目の当たりにしたことで価値観が逆転し、以降は人間に憎悪を抱き、妖怪の棲む魔界に憧れるようにさえなりました。

 つまり、彼らは妖怪と人間に対する価値観がまるっきり逆なのです。仙水は息を引き取る間際、「魔界で死ぬこと」が本当の目的であり、境界トンネルの開通は魔界へのほんの手土産だと考えていたと明かしました。

 純粋さや、命が尽きるまで苦悩しつづけていたという点では、戸愚呂と仙水は共通しているものの、根本的には「人間を信じたかった」戸愚呂と、「人間に失望した」仙水では、境界トンネル開通への見解もまるで違ったでしょう。

 もし魔界の扉編に戸愚呂が生きていたなら、人間を守りたいという強い意志から、仙水の計画を阻止するために幽助たちとともに戦っていたかもしれません。

◆戸愚呂が向かった「冥獄界」とは?

 戸愚呂が死後に霊界で選んだ「冥獄界」について、原作では「あらゆる苦痛を1万年かけて与え続け それを1万回繰り返す その後に待っているのは完全な“無”だ」と説明されています。

 つまり、1億年もの間想像もできない地獄の苦痛を与え続けられ、それを終えたあとは、魂すら完全に消滅するということを意味しています。

 戸愚呂が冥獄界を選ぶと予想していた幻海は、彼に対して「あんたはもう十分償いをしたじゃないか」と諫めており、コエンマも「全く不器用な男だ」と言っています。

 コエンマの推測どおり、潰煉に襲われた当時の戸愚呂が自身の力について“おごり”があったせいで仲間を守れなかったのが事実だったとしても、すべてが彼の責任ではありません。それでも戸愚呂は「もっと自分が強ければ……」「もっとひた向きに修行していれば……」と、後悔してもしきれないという自責の念が消えなかったのでしょう。

 仮に、幽助が同じ立場だったら、そこまでできたでしょうか? 後悔や贖罪の気持ちはあれど、霊界に行ってもなお自分を戒める道を選ぶ者は少ないでしょう。もしかすると、戸愚呂は『幽☆遊☆白書』史上もっとも愛情深かったキャラクターなのかもしれません。

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◆戸愚呂はあくまで「強い人間」に倒されたかった?

 戸愚呂は、仲間たちの仇である潰煉を倒した時点で、既に自分の命などどうでも良いと思っていたでしょうが、一つだけ心残りだったことがあったと考えられます。

 それが、「自分と同じような思いをする人間が今後出てほしくない」ということです。人間は人間のままで、妖怪よりも強くなって仲間を守り抜けるのか? という点が気がかりだったため、幽助のように強い人間が現れるのを50年も待ち続けました。

 妖怪に転生し、さらに鍛錬を積んで人間界にいる妖怪の中では最高レベルに強くなった自分自身を倒せるか? それをまるで最終審査として準備していたかのような最期でした。

 自分が100%の力を出し切れたこと、そして幽助が仲間のために120%の力を出せることを確認し、「礼を言うぞ」と感謝の言葉を口にして息を引き取った戸愚呂は、ある意味では本来の目標を完璧な形で達成することができたといえるでしょう。

 霊界での幻海との別れ際、幽助の今後を心配していたのも、幻海の言葉どおり若かりしころの彼自身と幽助を重ねていたのかもしれません。

 結論として、境界トンネル開通時に戸愚呂が生きていたとしても、彼は「魔界には行かなかった」と考えて良いでしょう。

 

 ──敵役の妖怪でありながら、愛情深いゆえに人間以上に苦悩していた戸愚呂は、敵味方の垣根を超えた唯一無二のキャラクターだったといえます。魔界統一トーナメントで彼が強敵相手に闘う姿や、人間界に混乱を招こうとしていた仙水を相手に幽助たちと共闘する姿を、ぜひ見てみたかったものです。

〈文/lite4s

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「幽☆遊☆白書」完全版 第8巻(出版社:集英社)』

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