『幽☆遊☆白書』のキャラクターの中には、浦飯幽助をはじめとする主役側と、彼らを脅かす“悪役”の妖怪が多く登場しますが、中には人間顔負けの深い愛情を持っていたキャラクターも存在します。

◆愛深きゆえ妖怪に転生した男──戸愚呂弟

 幽助たちの最初の脅威となった戸愚呂弟(以降:戸愚呂)。暗黒武術会編の黒幕・左京に雇われ、元は人間でしたがより強力な力と永遠の若さを求め、過去の同大会優勝時の褒賞として自ら妖怪に転生した経緯を持ち、全力を出せる相手を探して幽助たちを同大会に誘い出した張本人です。

 幽助との壮絶な死闘の末、全力を出し切ることができた戸愚呂は、幽助に感謝しながら力尽きます。

 その後霊界裁判で、戸愚呂は若い頃に目の前で弟子や仲間を妖怪・潰煉(かいれん)に皆殺しにされた過去があり、その凄惨な経験によって人格が変わり、妖怪への転生を望んだことが判明。

 彼は潰煉への復讐のために力を求めたのではなく、守れなかった弟子や仲間への償いと自分への戒めのために、まさに“拷問”のような人生を選択したのだろうと作中でコエンマも推察しています。

 過去の経緯や彼が殺した相手が凶悪な妖怪ばかりだった点から、軽い地獄行きで済んだところを、自ら最も過酷な冥獄界を選択したこともそれを裏付けているでしょう。

 そして、かつての戦友であり友人以上の関係にあった幻海には、冥獄に赴く際に過去の“潰煉事件”について「あんたはもう十分償いをしたじゃないか」と、真意を問いただされます。

 幻海の推察に対し戸愚呂は「違うね」と否定しましたが、彼は自分を屠った相手・幽助が自分のように道を踏み外さないよう幻海に託すのでした。

 そして「世話ばかりかけちまったな……」とサングラスを外し、まるで人間のように澄んだ目で幻海に詫びるという最期を迎えます。

 戸愚呂は弟子や仲間を誰よりも愛し、彼らを守れなかった自責の念から妖怪へ転生し50年間自分を責め続けました。まさに誰よりも深い愛情の持ち主であり、幻海にだけは愛情の一端を垣間見せたのではないでしょうか。

◆歪ながら仙水忍と深い愛情で繋がっていた──闇撫の樹

 樹は、人間であり元・霊界探偵で幽助の“先輩”にあたる仙水忍の相棒で、魔界と人間界を繋ぐ「境界トンネル」を開けるという計画に協力していました。

 作中で桑原に「仙水のどこが気に入ったのか?」と尋ねられると「彼の強さも弱さも 純粋さ 醜さ 哀しさ 全て」と答えており、危険な計画を止めることもできたと蔵馬に糾弾された際も、「オレは彼が傷つき汚れ堕ちていく様をただ見ていたかった」と、何とも猟奇的で歪んだ愛情を見せます。

 幽助に仙水は破れ、余命いくばくもない身体で戦っていたことが明かされましたが、息絶えた仙水を案じて近付こうとしたコエンマに、樹は「近寄るな」とけん制。「お前らの物差しで忍を裁かせはしない。忍の魂は渡さない」と、仙水の遺言を忠実に守り、「これからは二人静かに時を過ごす」と言い残し、彼の亡骸とともに時空の彼方へと消えていきます。

 仙水への樹の愛は歪(いびつ)ながら、彼の死後も意志を貫いた点からも、ある種“純粋無垢”なものだったといえるのではないでしょうか?

◆惚れた女に生涯を捧げた幽助の父──雷禅

 雷禅は妖怪の遺伝子上、幽助の祖先にあたる父親的な存在で、人間を栄養源とする食人鬼の一族。かつては魔界でも圧倒的な強さを誇り「闘神」との異名を持っていましたが、人間界で“狩り”をしていたところ、ある人間の女と出会って一目惚れし一夜を共に……。

 その後、再会の約束もせず別れましたが、雷禅は自分の中で「再会するまで人は食べない」と誓いを立てます。

 しかし、女は雷禅の子を出産したのち亡くなり、再会は叶わずその後700年にわたって断食を貫いた末、息子・幽助の前で餓死するのでした。

 たった一夜のできごとで心底その女に惚れ込み、その後のすべてを失うと分かっていながら、直接交わしたわけでもない「再会するまで人は食べない」という約束を貫き通した根底にあるものは、その女への“純愛”に他ならないでしょう。

 

 ──3人(妖怪)に共通して言えるのは、愛情の対象となる相手が死去した後も、その想いを一途に貫き自らの命も顧みず行動している点にあります。

 戸愚呂は救えなかった弟子や仲間を想い、自ら妖怪に転生して未来永劫の枷を。樹は仙水の「死んでも霊界へは行きたくない」という遺言を守り、2人で時空の狭間へ。雷禅は惚れた女にその後の人生を“断食”という形で捧げました。

 主役側のキャラクターも“影”を持つこの漫画ですが、そんな中で主要キャラクターに勝るとも劣らない信念を持ち、愛を貫き通す彼らの姿こそ、『幽☆遊☆白書』が永く愛され続ける理由なのかもしれません。

〈文/lite4s〉

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