ここ最近『名探偵コナン』のアニメシリーズが新たな分野へと挑戦しているのをご存知でしょうか? それがスピンオフ作品のアニメ化です。
これまで『名探偵コナン』のTVアニメ放送枠で、コナンにも登場する怪盗キッドが主人公の『まじっく快斗1412』を放送することはありました。
しかし、2021年末からは『名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story』を放送し、名探偵コナンというタイトルを冠していながら、コナンたちが活躍した時代よりもずっと前の、安室透らの警察学校時代を描いた作品となっています。
スピンオフ作品の登場は『名探偵コナン』という作品にとって実は意味が大きいです。というのも、長らく『名探偵コナン』は“推理物”というジャンルを大きく逸脱することができないでいました。それがスピンオフ作品の登場により、推理物という従来の要素以外のコナンの魅力を押し出していくことができるようになったわけです。
2022年4月より放送がスタートしたスピンオフ作品『名探偵コナン ゼロの日常(ティータイム)』もそんな一本。名探偵コナンというタイトルを持っていながらも、従来の名探偵コナンでは絶対にできなかったドラマがそこには描かれていました。
◆『名探偵コナン ゼロの日常』とは?
『名探偵コナン ゼロの日常(ティータイム)』とは、名探偵コナンシリーズに登場する準レギュラーキャラクターの一人・安室透を主人公としたスピンオフ作品。
原作となる漫画が存在しており、原案や監修という形で『名探偵コナン』の作者である青山剛昌先生が携わっており、新井隆広先生が作画を担当しているシリーズです。
本作では、安室透が普段どんな生活を送っているのかを描いた内容となっています。安室透といえば毛利探偵事務所の下の階の喫茶店ポアロで働く私立探偵という顔の他に、公安警察に所属する警察官の「降谷零」の顔、そして黒ずくめの組織に潜入捜査のため潜入しているコードネーム「バーボン」の顔という、二面性ならぬ三面性のある特徴を持ったキャラクターです。一体どんな生活をしたらそんな状態が成立するのか、と想像ができませんでしたが、本作を観ることで謎に包まれていた安室の日常生活がはっきりと分かります。
◆『名探偵コナン』だから際立つ“日常系”アニメ
『名探偵コナン ゼロの日常』が面白いのは、『名探偵コナン』で日常系アニメというジャンルに踏み込んでいるところにあります。
日常系アニメとは、登場キャラクターの平凡な日常を描くことで、癒しをもたらしたり、そんななんの変哲も無い日常の機微を表現する作品のことを指して、使われるくくりなのでしが、『名探偵コナン ゼロの日常』ではそれを『名探偵コナン』でやろうとしているのだから、すごいのです。本来の『名探偵コナン』であれば、コナンが現れる先々でなにかしらの事件が起こることが定番なわけですが、今作ではそのセオリーが成立しません。『名探偵コナン ゼロの日常』では主人公が安室であるせいなのか、必ずしも事件が起こらないで終わることもままあります。
それどころか、ただ部下の風見とお店のカレーを食べにくるだけだったり、小さな子供に補助輪の取れた自転車の乗り方を教えてあげたりと、日常系アニメでもなかなか無いぐらいの平凡なエピソードも登場します。ただ、あれだけ事件が頻発する『名探偵コナン』の世界でなんの変哲もない日常が存在するというだけでも、シュールさが伴うのが本作のすごいところ。『名探偵コナン』という枠組みからはみ出したこの作品を良しとできるところが、スピンオフという体裁の強みと言えます。
◆まだまだいけるコナンスピンオフ
こうして『名探偵コナン ゼロの日常』で描かれる安室の穏やかな日々を眺めていると、次に観てみたくなるのはやはり他のキャラクターたちのなんの変哲もない日々。
四半世紀以上もの間、殺伐とした事件に遭遇し続けるキャラクターたちのことを思うと、安室だけでなく、コナンたちにも休息があってしかるべきではないでしょうか。推理ものという宿命を背負ってしまった以上、コナンが事件に遭遇し続けるという運命から逃れるためには、物語が終わりを迎えるしかありませんでした。そんな中で、今回『名探偵コナン ゼロの日常』が生み出した“日常系”という路線は、コナンたちに救いを与えることができます。
ぜひ、今後は『ゼロの日常』ならぬ、多くのキャラクターたちの日常にも、その可能性を広げていってくれることに期待したいです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996