7月20日(火)都内にて、中国史上初の年齢制限付きのアニメとして注目を集め、過激な暴力描写で熱狂的な支持を得たバイオレンスアニメ映画『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』(23日公開)の公開を記念した、トークイベント付き特別先行試写会が開催された。

 トークイベントには、映画ジャーナリスト/上海国際映画祭プログラミング・アドバイザーの徐昊辰(じょ・こうしん )氏と、映画評論家/ライターの森直人氏が登壇。本作の見どころや、中国における表現規制についての現状などが熱く語られた。

<左から森直人氏、徐昊辰氏>

 トークイベントは、『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』(以下、『DAHUFA』)を初めて観たときの感想についてという話題からはじまる。

「『DAHUF』をはじめて観たときはかなり驚きましたね。今までの中国アニメ作品と全然違い、中国アニメならではの表現が見えて、今後の中国アニメの可能性が感じられた一本なので、いまだに印象に残っています」と徐昊辰氏は本作を絶賛。

 森直人氏が、『DAHUFA』公開の2年前、2015年に公開された同じく中国アニメ映画『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』の大ヒットについて語ると、徐昊辰氏は「『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』は大ヒットして、その興行収入は中国で10億元、日本円に換算すると160億円くらいでした」と話す。さらに『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』は、当時、中国においてアニメは子供向けコンテンツという根強い考えをくつがえしたとも語った。

「『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』は、キッズムービーの体であるファミリームービーというような感じで、どぎつい感じはないですよね。だから大人でも楽しめる」と森氏。

 森氏のコメントに対して徐昊辰氏はうなずき「そうですね。大人も観れますし、大々的には『西遊記』っていうみんなが知っている物語でもありますので、そこで口コミ操作で一気に広まった。ちょうど中国の映画市場は急成長している時期ですので」と話した。

 徐昊辰氏曰く、90年代、中国のテレビではアニメの放送に対して今のように厳しい規制などがなく、夕方の時間帯に『聖闘士星矢』や『北斗の拳』が放送されていたそうだ。

 徐昊辰氏は『DAHUFA』や『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』のヒットについてこう推測する。

「中国では、日本のアニメに対する親近感や憧れを持って、将来アニメ業界に入りたいという方がたくさんいたのではないのかと思います。だからそういった方たちの活躍で、2010年代に成果が出てきたのだと思います。中国の国の経済力も成長した時期でもあったので」

 徐昊辰氏の意見に対し、森氏は「『DAHUFA』を観たとき、最初は山水画風のクラシックな作画ではじまりますが、話が展開していくにつれ、日本の漫画アニメ、特に「ジャンプ」(「週刊少年ジャンプ」)が出てくる。『ドラゴンボール』のような雰囲気がある」と賛同。 

 また、徐昊辰氏は『DAHUFA』には、オマージュ的な要素がしばしば登場すると語る。その言葉を受け、森氏はこのように語る。

「確かにオマージュに近い。だからそれが面白くて、そもそも日本のアニメーションって、戦時中の戦意高揚の部分と、有名ですけど、藪下泰司監督の1958年の『白蛇伝』ですね。あれは中国の四大民話の『白蛇伝』を東映アニメーションが制作していますが、この作品の登場を機に、日本の戦後アニメーションの歴史が始まっている。要するに、宮崎駿監督も、高畑勲監督も『白蛇伝』の影響をかなり受けたという流れがあるのに対して、今逆に中国の現代アニメーションが、ジブリやジャンプをベースにして自国の民話的要素と組み合わせて、発展させているのがすごく面白いなと思いました」

 そして話題は、中国における創作作品の表現規制についての話に。

「中国の映画界には規制というものがまだないです。だから、何が規制の対象になるのかルールが明確になっていない。上映できないのはだいたい不適切って書かれることが多いです。『DAHUFA』が自主規制っていうことを当時発表されたときは、本当にいろんな意味が入っているんじゃないかなと個人的に思いました。

 おそらく検閲にて、これはカットしてくださいっていう部分もいっぱいあるじゃないかな」と徐昊辰氏。さらに彼はこのように続けた。

「暴力に関しては、首を切ることは『DAHUFA』の中にはたくさん出てくるんですけど、血の色も赤じゃない緑になっていて、アニメならではの表現が見られます。中国の実写映画でも、こういった露骨な暴力シーンが普通に流れているので、本当に単純に暴力シーンだけで規制されるっていうことじゃないと私は思っています。

 だから本作の中国の上映に対して、ある意味評価したいと思います。なぜかというと、こういう作品を作るのはリスクがあるじゃないですか。もし作って上映できないと言われたら、もう全ての投資がなくなるっていうこともありますし、自分の表現したいことをガッツリ作品の中で全部気持ちを込めて入れることも現在の中国の監督でも、こういうことをしっかりやる方は本当に少なくなってきたので。」

 また、徐昊辰氏は、中国における表現規制に対して中国の映画監督、婁燁(ロウ・イエ)氏を例に出しこのように語る。

「婁燁監督は、民間的なテーマでエロいシーンや、政治的なものを撮っていて、中国政府とちょっと揉めた時期があります。作品を作ることを禁止されたりとか、そういったことはたくさんありますし、本人に聴いたらやはり今はすごい厳しい検閲があるとのことで、多くの方が、自分が作りたい作品を作るっていうよりは、どうやって検閲を通るかという検閲を通れる作品を作るようになりました」

 そして「本当にある意味、不思凡(ブースーファン)監督が『DAHUFA』というアニメを作ることができて、すごく良かったなと思います」と本作の監督、不思凡氏へ称賛のコメントを述べた。

「ギリギリのラインで戦うということは、作家性の強いクリエーターにとっては一つの命題でもあると思います」と森氏。そして彼は「2017年に『DAHUFA』は公開されましたが、今だったら通ると思いますか?」と徐昊辰氏に問いかける。

 この問いに対し、徐昊辰氏は「今は厳しいと思う」とコメント。さらに、

「私は、『上海国際映画祭』のプログラミングディレクターもやっているので、検閲についてもいろいろと関係者の方とも話しましたけど、実は中国の政府関係の方々は、新しい表現とか、『DAHUFA』のように面白い作品を作ることに対して、そこまで制限したくない。ですが、例え政府がOKだとしても一般の声の中から敏感的な部分が出てしまうと、上映禁止とか、上映中止になるケースも少なくないです。だから、そういったことを防ぐために最初から上映禁止っていうことをよくやります」と話した。

「上映途中で、禁止になることもあるんですか? 一回区切られても」と森氏がさらに徐昊辰氏に尋ねると、徐昊辰氏は「それは滅多にないんですけど、ただそういったことももしかしたら起こるかもしれないので、これは事前にやった方がいいんじゃないかということもあります。

 面白い例をあげると、先日日本で公開された『少年の君』という作品では、いじめの問題などの敏感的な社会問題が登場、一応最初は、検閲を通りましたが、やはりいろいろな人が心配してるので、結局公開日決定の3日後に公開するというとんでもないことが起こりました。

 マーケット自体はまだまだこれからだと思いますけど、こういった規制の大きいマーケットだからこそある意味面白いことが起こりましたね」と話す。

 その後、徐昊辰氏は近年の中国映画の流行についてこのように語った。

「もともとミュージカル文化がそこまで浸透してないということもあるんですけど、正直、『アナと雪の女王』は中国においてそんなに興行収入は良くなかったです。ですが『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』をきっかけに中国においてアニメに対する抵抗感が弱くなって大人も普通にアニメを観るようになりました。

 さらに、2019年は『哪吒 (ナタ) 之魔童降世』という作品が、中国国内で800億円ぐらいの興行収入を記録して、それ以外でもこれから日本で公開されるの『白蛇:縁起』(7月30日公開)は、一日で興行収入が70億円、去年日本で話題になった『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』も50億円というように、3Dアニメや、2Dの日本風アニメ、あとはディズニーのようなアニメがどんどん出てきたことで、アニメに対する好奇心が上がっているんじゃないかなと思います。ですが、コロナがあって今後どうなるかは様子を見ないとわからない状態です」

 最後に、森氏は「2017年っていうある種その時代でここまで攻めたものは生まれなかったということを考えると、それを今見て確かめるというのは非常に重要だなと思います」

 続いて徐昊辰氏は「今、中国のアニメーターやアニメ監督たちは、本当にものすごく頑張って良い作品を作りたいという気持ちを持っています。日本の観客の方々から感想を聞きたいという気持ちにすごく共感できます。『DAHUFA』は4年前の映画にも関わらず、こうやって日本国内で上映できてすごく嬉しいです。多分、人によって意見が全然違う作品でもありますから、日本の方の感想を楽しみにしています」とそれぞれメッセージを残し、トークイベントは幕を閉じた。

 バイオレンスアニメ映画『 DAHUFA -守護者と謎の豆人間- 』は、明日7月23日(金祝)〜池袋HUMAXシネマズ、7月30日(金)〜アップリンク吉祥寺・アップリンク京都、8月13日(金)〜センチュリーシネマ・出町座ほかにて全国順次公開される。

〈取材・文・撮影/水野ウバ高輝〉

◆作品情報

<ストーリー>

王宮から失踪した皇太子を捜すため、奕衛(イーウェイ)国の守護者であるダフファーは国境を越え、とある謎の村に辿り着いた。

ここの住民は自らの意志を持たず、喋らず、見た目も皆そっくりで、村中には不気味な気配が漂っていた。やがてダフファは、この村に隠された秘密へと徐々に近づいていく…。

<スタッフ>

監督:不思

製作光線彩条屋影業好傳動画

提供:面白映

配給:Atemo

▼「DAHUFA -守護者と謎の豆人間-」本編映像 7月23日(金祝)公開

⇒オリジナルサイトで全ての写真を見る(全17枚)

ⒸEnlight Pictures. ⒸFACEWHITE PICTURES.

2017|中国語音声・日本語字幕|5.1ch|DCP|97分

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