未だかつてここまで“静かな大冒険”は観たことがないかもしれない。
そんな不思議な感覚にさせてくれたのがラトビアのクリエイターであるギンツ・ジルバロディス監督の『Away』でした。
2020年12月に日本でも劇場公開を果たした『Away』は、飛行機事故である島に不時着した青年が、偶然見つけたバイクに跨り、不思議な黒い生き物に追われながらも、港町を目指す冒険譚でした。この映画では一切、登場人物のセリフはなし。圧巻のビジュアルと音楽だけでその旅路を描いていきます。
そんなギンツ・ジルバロディス監督の新作アニメーションが、ついにその姿を明らかにし始めました。その名も『Flow』。前作『Away』に負けず劣らず、体験したことのない冒険を思わせる映像となりそうです。
◆黒ネコの冒険譚『Flow』
2022年3月16日、ギンツ・ジルバロディス監督が自身のYouTubeチャンネルを更新。現在製作中であることが発表されていた『Flow』のティザームービーがお披露目となりました。
映像の中では、小さな船に乗った黒ネコの姿や、犬や鳥、そしてカピバラらしき動物たちが登場し、人間らしき生き物の姿は一切確認できません。この映画の物語は、洪水によって大混乱がもたらされた世界で、黒ネコが他の動物たちと小さなボートを共有せざるを得なくなってしまうというもの。洪水に見舞われた世界を生き残るよりも、共に生きていくことが大きな挑戦となっていくことが描かれるそうです。
本作は長編映画として2024年の完成を予定しています。
◆『Flow』のベースとなった短編『Aqua』
今回の映像で驚かされたのが、黒ネコ以外に別の動物たちが多数登場している点にあります。
実は過去にも映画祭などで、主人公となる黒ネコがボートごしに島を眺める映像が披露されていたこともあり、イメージとしてはかつてギンツ監督が手がけた短編アニメーションに近いものになると想像していたからです。
その短編というのが、2012年にギンツ監督が発表した短編アニメーション『Aqua』です。
この『Aqua』という短編は、洪水によって住処を追われた猫がボートに乗ることで生きのび、そこで嵐に巻き込まれたり、鳥から狩りを学んだり、そしてついには新たな新天地を見つけるという内容でした。あらすじからも明確ですが、『Flow』はこの『Aqua』をベースにした作品であることはすでに監督も明言しています。だからこそ、驚かされたのは黒ネコ以外のキャラクターが登場したこと。『Aqua』には登場しなかった犬やカピバラたちがどういった役割を担っていくのかが気になります。
◆孤独じゃなくなったのは黒ネコだけではない
登場人物が黒ネコ一匹だけでなくなったことは、実は制作体制ともシンクロしている要素でもあります。
前作の『Away』はその制作過程のほとんどをギンツ監督が一人で担った作品であり、日本での公開時の惹句にも“たった一人ですべてを作り上げた”というフレーズが使われました。単独で制作されたことも、『Away』の注目されたポイントの一つでしたが、続編となる『Flow』では、前作とは違い、複数人で制作することを発表しています。さすがに急に大人数での制作体制ではなく、少数精鋭での制作となるそうですが、なおのこと、かつては一匹で荒波を乗り越えてきた黒ネコに新たなメンバーが加わるという映画の内容と一致しているのが面白い点です。
一人じゃなくなったギンツ監督が果たしてどんな旅路を描くのか。2年後に見せてくれるであろうそのゴールが今から楽しみです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
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