8月17日〜8月21日にかけて、「ひろしまアニメーションシーズン」の第1回が開催され、『犬王』の音楽を担当したギタリストの大友良英さんと、琵琶奏者の後藤幸浩さんのトーク企画と生演奏付きの“狂騒”応援上映や、『平家物語』で監督を務めた山田尚子さんや脚本の吉田玲子さん、美術監督の久保友孝さんによるトークショー付きのセレクション上映などが実施されました。
「ひろしまアニメーションシーズン」は、広島県のJMSアステールプラザを中心に環太平洋・アジア地域を中心に全世界のアニメーションが集うアニメーションの映画祭。広島のアニメーション映画祭といえば、2020年まで短編アニメーションを中心とした映画祭である「広島国際アニメーションフェスティバル」が2年おきに開催されていたのですが、今年からリニューアルが実施され「ひろしまアニメーションシーズン」として新たなスタートを切りました。
今回から「ひろしま国際平和文化祭」のイベント内の一環としての開催となっていたり、これまでずっとASIFA-JAPANこと国際アニメーションフィルム協会の公認であったことが解けていたりと、不穏な雰囲気もあったのですが、今回の催しが実際どういったものだったのか、今回初めて広島の現地へ実際に足を運んできました。
◆『犬王』や『平家物語』が上映!制作スタッフのトークショーも
「ひろしまアニメーションシーズン」ではJMSアステールプラザ、ひろしま映像文化ライブラリー、横川シネマ、サロンシネマといった施設で、アニメーションの上映やアニメーションの制作陣や有識者のトークイベントを多数実施するというもの。
日本でも同様の映画祭は複数あるので、プログラムで差別化していくことになるわけですが「ひろしまアニメーションシーズン」は、“環太平洋・アジア地域の作品を中心”という方針のもと“ゴールデン・カープスター”というアワードを新たに設け、それに準ずるプログラムを多く実施しています。
この“ゴールデン・カープスター”とは会期の間隔である2年間の間に、環太平洋・アジア地域で特筆すべき成果を残したと思われる個人や団体、組織を対象に授与されるもの。今年はアニメーション制作会社のサイエンスSARUや、台湾のアニメーション作家である謝文明(ジョー・シェー)監督らが選ばれました。
ゴールデン・カープスター2022 | ||
---|---|---|
クリスティン・ベルソン | ソニー・ピクチャーズ・アニメーション | |
サイエンスSARU | 制作会社 | |
謝文明 | アニメーション作家 | |
Documentary and Experimental Film Center | 制作会社・映画祭運営 | |
フェイナキ北京アニメーションウィーク | アニメーションイベント | |
水尻自子 | アニメーション作家 |
中でも直近でTVアニメや劇場公開作品のあったサイエンスSARUを取り上げたプログラムは、イベント内でも目玉企画となっていました。
2022年5月に公開されたばかりの『犬王』は、映画の音楽を担当したギタリストの大友良英さんと、琵琶奏者の後藤幸浩さんのトーク企画と生演奏付きの“狂騒”応援上映を実施。
さらに今年1月にTV放送されたアニメーション『平家物語』は、監督の山田尚子監督や脚本の吉田玲子さん、美術監督の久保友孝さんによるトークショー付きのセレクション上映が実施され、アニメの第3話、第5話、第11話が上映されました。
メジャーな作品を上映する一方で、日本でも限られた回数しか上映されていない香港の『No.7 Cherry Lane』のディレクターズ・カット版も上映。ゴールデン・カープスターに選ばれた謝文明監督が美術で参加しているという縁もあり、今回ピックアップされました。
◆アヌシー受賞作も上映!欧州作品もしっかりノミネート
注目地域の括りがあるため、ヨーロッパなどの地域の作品にライトが当たらず、出品国の偏りが顕著に出てくるのでは? という想像もしていたのですが、意外と環太平洋・アジア地域以外の作品にもしっかり見応えのあるプログラムが用意されていました。
例えばコンペティション。
ワールド・コンペティションとして、全世界で製作された作品を対象にした部門も設けられ、欧州作品もしっかりノミネートされています。
中でも、コンペティションのグランプリに選ばれたのはスイスのアニメーション作家であるジョルジュ・シュヴィッツゲーベル監督の『ダーウィンの手記(Darwin’s Notebook)』でした。
また、長編作品では審査員として呼ばれているフランスのフローランス・ミアイユ監督が2021年に制作した初の長編アニメーション映画『The Crossing』が上映されました。
本作は2021年のアヌシー国際アニメーション映画祭で審査員栄誉賞を受賞したり、2022年のザグレブ国際アニメーション映画祭のスペシャルメンションを受賞したりと高い評価を得ていた作品。日本でも数少ない劇場上映の機会となりました。
また「ひろしまアニメーションシーズン」の特徴として、JMSアステールプラザでの上映では暴力描写や性描写が含まれる作品がある場合はアナウンスや、入り口に作品別に注意喚起が掲示されているなどの配慮がされていました。
短編プログラムでは、短編作品終了毎に照明を明るくし、監督が来場している場合はアナウンスをして、拍手の時間を設けるなど、プログラム以外の部分の配慮も充実していて感心しました。