◆6期の劇場版と思いきや、それも少し違う?
細かな描写でいえば鬼太郎たちのビジュアルにも細かな調整が施されています。
登場人物の鬼太郎や猫娘たちは、最新のTVアニメシリーズである第6期のデザインを踏襲しおり、同様のキャストが起用されてはいるのですが、鬼太郎は微妙に頭身が上げられて描かれています。
目玉の親父のかつての姿も、TVアニメシリーズ第6期第14話「まくら返しと幻の夢」で先行登場してのですが、この映画のために改めて調整が施されていて、大まかな特徴は寄せつつも実はデザインが違ったものになっています。作品の雰囲気や狙いに合わせてしっかり細部にまでこだわっていることが分かる部分です。
この目玉の親父になる前の鬼太郎の父親の姿については、原作の鬼太郎に詳しい人ほど違和感を感じる部分かもしれません。原作漫画ではこのような父親の姿のデザインは登場しておらず、大病を患っていて肉がただれて包帯で全身が巻かれている姿でしか登場していませんでした。その姿はTVアニメ『墓場鬼太郎』シリーズで登場しているので、そちらで知っているという人もいるかもしれません。
ただ実はこちらのデザインに馴染みがある人にもしっかり納得がいくような映画にもなっているところがまた見事。今回の映画はTVアニメ第6期の映画化というよりも、やはり原作者の水木しげる先生生誕100周年作という意味合いが大きいのか、映画のオリジナルエピソードが描かれながらも、しっかり既存の鬼太郎の出生に関わるエピソードを補完していくような作りになっています。
もちろんそれらを知らずとも楽しめるのですが、鬼太郎に詳しいという人ほどよりグッとくるような目配せがあるという意味でもよくできた映画になっています。
「恐怖描写」や「昭和30年代再現」、さらには「原作漫画との擦り合わせ」とさまざまなベクトルで今までにない徹底ぶりが見られる『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。この絶妙なバランス感で描かれた本作は鬼太郎の誕生だけでなく、鬼太郎映画の新たな金字塔を生み出したと言っても過言ではないかもしれません。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi