◆足を変形させる風習・纏足とは?
実際に中国で存在した風習が描かれたといえば第9話「自殺か他殺か」でも言及された“纏足(てんそく)”という文化も実在します。
作中では「足が小さいほど美しいとされる風習」と説明され、纏足の状態の女性が外壁に登って自らの命を絶つのは不可能だろう、という文脈で登場しました。簡潔に足が小さいと表現されていましたが、実際の纏足はその小ささも極端なものだったといいます。
纏足は幼い頃から足の成長をわざと阻害することで成立する風習です。ある程度成長した女性の足の骨をわざと砕いたり強引に曲げ、さらにその状態で縛りつけることで小さな足を人為的に形成させます。
想像の通り、実際の工程では激痛や事故を引き起こすこともあり、重症やひどい場合はこの施術をきっかけに死に至る例もあったといいます。施術に成功しても足は不自然に小さい状態となるので、歩行するのにも一苦労な状態になります。
そんなことをしてまでなぜ纏足という文化が広がったかといえば、当時の中国では纏足が一つのステータスとされ男性に強い支持を受けていたから、とされます。
そのため、女性が生まれた場合に親が率先して纏足を施し、結婚しやすくするという考え方があったようです。また、女性を不自由にさせることで男性側としては支配しやすくさせるという思惑もあったとされます。
結果的にこの纏足はたびたび禁止令が出されているような風習となるのですが、完全に廃れるのは20世紀に入ってからで、中華人民共和国建国された後の1950年にも“纏足禁止令”が出されているほどでした。
この頃にはわずかな地域で残っているのみだったとはいえ、つい最近まで残っていた風習ということには驚きも大きいでしょう。
──あくまでも『薬屋のひとりごと』は架空の中国ですが、作品の随所に実在の文化などが再現されています。
猫猫が宮中で起きる“毒”にまつわる事件を、私たちにも身近な症例である食物アレルギーや塩分の過剰摂取などと照らし合わせていく面白さはもちろんのこと。
登場する聞きなれない言葉や習慣についても追っていくと、意外と知らなかったお隣の国の文化を知るきっかけになりそうです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi