『薬屋のひとりごと』には、現実の中国の世界ではないものの、その文化の多くが実際の中国で実際にあったものが取り入れられています。中には作中でこそあっさりと説明されていましたが、「それって本当にあったんだ」と日本人には驚かされる文化もあります。
◆“大切なもの”を捧げた宦官とはどんな人たちなのか?
『薬屋のひとりごと』の舞台となっている後宮は、帝(みかど)が子を成すための施設とされ、男性の侵入が一切禁止されていると冒頭で説明されています。
唯一入れるのは、最も高い身分の者やその血縁者。そして大切なものを失った元男性である宦官(かんがん)だけとされています。実はこの宦官という役職は実際に中国でも存在した役職です。
作中でこそ冒頭で軽く説明されるだけでしたが、“大切なものを失った”というのはいわゆる男性器を切り取られて去勢させられた、ということ。罪人に対する刑罰として行われた場合もあれば、皇帝の権威に近づくべく自ら望んで手術を受けたものもいたそうです。
日本でこそあまり馴染みのない文化ですが、中国だけでなくエジプトやローマといった古代から宦官にあたる役職は存在しており、中国だけの特例の文化ではないというのも面白い点です。宦官にあたる役職の人たちはたびたび国を統べる立場の側近となったり、実際に政治を担うなどしばしば歴史を動かす立場にもなっています。
中国の歴史に詳しい人は、秦の国を滅ぼす結果を招いた趙高であったり、紙を発明したとされる蔡倫という人物の名前を知っていると思いますが、彼らも宦官にあたる人物です。帝に位置する立場ではなくとも歴史に名を残すほどの人物を数多く輩出した役職でした。
ということは『薬屋のひとりごと』に登場する壬氏様も去勢を受けているの!? と驚く人も多いと思いますが、おそらくそれについても今後の展開で言及されていくのではないでしょうか。