2021年6月18日は『あの夏のルカ』の劇場公開日!
……と喜んでいたのも今は昔。その公開日が明らかになってからまもなく、海外でのリリース形態と足並みを合わせるように、ディズニー・ピクサー最新作『あの夏のルカ』はDisney+での配信限定作品となってしまいました。
<画像引用元:https://disneyplus.disney.co.jp/program/luca.html より引用掲載 ©Disney>
映画館での鑑賞が好きな身としては、まだ配信作品であることが発表される前に、『あの夏のルカ』を紹介する記事で楽しそうにしていた姿を見ると、とても感慨深いです。
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https://anigala-rew.jp/luca20210321/
とはいえ、配信作品となってしまったことで観られなくなってしまったわけではありません。いったん解約状態にあったDisney+に再契約をして『あの夏のルカ』を早速観てみたわけですが、いやはや驚きました。
『あの夏のルカ』、本当によくできている。
世界の美しさに何度も驚かされて、登場人物たちの言動にたくさん笑わせられて、そして最後には心にじんと染みる思い出として残るーーまさにタイトルのような、ひと夏の経験となるような映画でした。
感動させられたポイントは数多存在するのですが、中でも見事だと思わせられたのは、人間とシーモンスタの関係性でした。
◆分断された人間とシーモンスターの世界
『あの夏のルカ』のテーマの一つに“分断”があります。
主人公のルカは、海中に住む半魚人のような姿のシーモンスター。親の言いつけから、海上に暮らす人間たちを恐れながらも、興味を持って生活をしています。
一方で人間たちもシーモンスターのことを恐れて生活をしています。その存在に怯える人もいれば、懸賞金がかけられて、意欲的に殺そうとしている人たちまでおり、完全に人間とシーモンスターの世界には壁が存在している世界が描かれています。
◆絶妙なシーモンスターの設定
この映画のおもしろいのは、その超えられない壁を突破するある設定が設けられているところ。その設定というのが、このシーモンスターたちは、身体の表面の水分が乾くことによって、見た目は完全に人間に扮することができるという仕掛けです。
この仕掛けを生かして、ルカやそのルカが出会い親友になったアルベルトは、人間になりすまして、二人の夢である“ベスパ”を手に入れようと画策するのが大筋のストーリーとなっています。
水に濡れるとシーモンスターになってしまうせいで、思わぬピンチに迫られたり、それを絶妙なファインプレーでかわしたりといった様子が、コミカルで楽しく、気持ちのいい作品になっていました。明らかに人間ではない姿のシーモンスターが、一瞬で人間へとメタモルフォーゼしていく姿には、アニメーションの面白さのようなものも詰まっています。
◆『あの夏のルカ』が描いた分断の姿
さすがピクサーと思わせられるのが、やはり人間とシーモンスターの分断に対して、一味違った切り口のメッセージが用意されているところです。
昨今アニメーション映画界でも、異種族同士の対立、そして融和を描いた映画は多く、昨今では人間とビッグフットの隔絶した種族が遭遇する『スモールフット』や、民族や思想の対立を音楽文化になぞらえた『トロールズ ミュージック★パワー』などただ“分断”を描くだけでなく、そこに踏み込んだメッセージや描き方の工夫が込められています。
そして、『あの夏のルカ』もそれらの作品と同じく“分断”を描きながらも、新しい視点が用意されていたところに感心させられました。
『あの夏のルカ』が描いていてハッとさせられたのが他者は実はすぐそばに居るということ。シーモンスターが人間の姿になれるという設定から、同じ仲間だと思っていたような人たちの中にも、実は分断や疎外感を感じている人が居ることが描かれていて、分断は目に見えているものばかりではなく、むしろ実は見えないまま身近に点在していることを教えてくれるようでした。
そして、そんな分断に悩みながらも、健気にルカが夢を見ているからこそ、『あの夏のルカ』の最後に見せるルカの表情には、これからの子供達の未来に一筋の希望を照らしてくれるシーンとして、思わず涙が溢れてしまいました。
映画館でこそ、『あの夏のルカ』を観ることはできなくなってしまいましたが、ディズニープラスのおかげでこの夏は繰り返し何度もルカの冒険を観ることができるのは、今になって見るとものすごい恩恵と思うばかり。すっかりお気に入りの映画になったので、この後も繰り返し、ルカの冒険を見返して噛みしめることになりそうです。
きっと後年、『あの夏のルカ』の“あの夏”は、2021年の夏として私は思い出すことになりそうです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
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