まんきつさん

<まんきつさん>

 エッセイ漫画『アル中ワンダーランド』(扶桑社)や、ドラマ化が決まった『湯遊ワンダーランド』(同)の著者、まんきつさんの最新刊『犬々ワンダーランド』(同)が66日に発売された。

 この漫画では、保護犬だった雑種のポテトと、ペットショップにいた黒柴の銀との日常が面白おかしくつづられているほか、保護活動家や、犬の学校への取材エピソードも描かれている。

 『アニギャラ☆REW』では、まんきつさんへインタビューを行ったところ、特に注目してほしいエピソードは保護活動をしている荻原さんの話だと彼女は語っていた。

 そもそもなぜ、まんきつさんは、『犬々ワンダーランド』を描こうと思ったのだろうか?

◆ポテちゃんの表情は自分の好きなキャラの顔をモデルにしている

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 ──『犬々ワンダーランド』の発売おめでとうございます。この本が発売されたときの心境を教えていただけますか?

 

まんきつさん:正直、いつもふざけた感じの作風で漫画を描いていましたが、『犬々ワンダーランド』は保護犬がテーマの漫画で真面目に描いているので、急になんか落ち着いた作風になって「まんきつ、どうしちゃったのかなぁ?」みたいな人がいるんじゃないかなと思いました。

 この漫画は、犬を飼うとき、これから飼うとき、ペットショップ以外に「そういえば、まんきつの漫画で保護犬っていう選択肢があったな」と、ほんのりと思い出してくれたらいいなという気持ちで描いているので、真面目に取り組むべきだなとも思いました。

 

──真面目な作風の中にも、やはりコミカルな部分がありますよね。たとえば、ポテちゃん(ポテト)の顔が人みたいに描かれていて、とても面白かったです。

 

まんきつさん:私、『うしろの百太郎』(講談社)が大好きなんです。この漫画の中に霊能犬ゼロっていう人の顔をした犬が出てきて、犬がお金を請求してくるんですよ。「いくら出す?」って。その霊能犬ゼロの顔が面白かったので、人の顔をした犬を描きたいなって、ちょっと人の顔を匂わせるようなテイストでポテちゃんのことを描いています。

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──本が発売されて1週間ほど経ちましたけど(インタビューが行われたのは614日)反響はいかがでしたか?

 

まんきつさん:犬を飼っている書店員さんが応援してくれて、犬好きの人には「この漫画いいな」って少しは思ってもらえているのかな? と感じています。あと古い読者の方が、思っていたのと違うけどすごく良かったって言ってくれたので、嬉しかったです。

 

──いつもと違う真面目なテーマの漫画でも、「すごく良かった」と言われるのはとても嬉しいことですよね。『ananweb』(マガジンハウス)で連載中の『そうです、私が美容バカです。』では、いつもの“まんきつワールド”が展開しているので、ここまでギャップがあるのはすごいなと思いました。

 

まんきつさん:そうですね、『美容バカ』はいままでの感じでやっているので、たぶん私、どんなものでも案外描けるんだなと思いました。

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──何か描いてみたいジャンルとかってありますか?

 

まんきつさん:本当はフィクションとかやりたいんですよ。でも、『ハルモヤさん』(新潮社)というフィクションの漫画を描いていたとき『まんきつはエッセイの方が面白いよ』っていう意見があって……。

 私としては、『ハルモヤさん』ってすごく好きな作品なので、もう一度フィクションがやれたらいいなって思っています。

 

──そもそも『犬々ワンダーランド』をなぜ描こうと思ったんですか?

 

まんきつさん:サウナ室でぼーっとテレビを観ていたら、夕方のニュースが始まり、ペットショップで売れ残った犬を引き取る業者っていうコーナーがあって、引き取られた犬たちがケージの敷き詰められた薄暗い倉庫に閉じ込められていたんです。

 犬や猫を引き取る業者って、1匹に対して1万円くらいお金がもらえるんです。ブリーダーさんが、もう繁殖ができなくなった犬をその引き取り業者にお金を払って引き取ってもらう。引き取り業者は、引き取るだけでお金がもらえるから引き取って、犬や猫を閉じ込めっぱなしにするんです。

まんきつさん

──保護活動をしている荻原さんの取材エピソードの中で、悪徳な業者の話が出てきましたけど、まさしくそういった現状をテレビで目撃してしまったわけですね。

 

まんきつさん:そうなんです。それを見た瞬間に、うちは既に家に銀ちゃんがいたんですけど、こういうペットの生体販売の裏側をぜんぜん知らずにペットショップで購入してしまったっていう、負い目を感じてしまったんです。

 きっと自分以外にもこの現状を知らない人がたくさんいると思ったので、自分には何もできないけど、その実情を漫画に描いて1人でも多くの人にとにかく知ってもらえたらいいなと思って『犬々ワンダーランド』を描くことにしました。

 

──僕も実家で犬と猫を飼っていたので、そういった話を聞くと心が痛みます。

 

まんきつさん:そういった現状を伝えたいだけで、誰かを助けたいというような大それた気持ちはぜんぜんなくて、本当に。

 なんとなくこの本を読んだ人が「あっ!? こういう業者がいるんだ!」ってなって、ペットショップだけじゃなくて「保護犬を引き取るっていう選択肢があるんだ」というのを頭の片隅にでも残してくれたらいいなって気持ちがあります。

まんきつさん

──そうですね。もともと僕の中には保護犬を引き取るという考えはなかったのですが、この漫画を読んだとき、いままんきつさんがお話したように、保護犬、保護猫を飼うっていう選択肢があるんだなと学びがありました。そんな『犬々ワンダーランド』ですが、制作するうえでこだわった部分などはありますか?

 

まんきつさん:登場する動物は、みんなかわいく描こうと思いました。

 

──登場する動物はポテちゃんや銀ちゃんはもちろん、序盤に登場するハムスターや猫のクロちゃんもかわいく描かれていましたが、かわいく描こうと思って工夫したところとかってありますか?

 

まんきつさん:本当に動物を描くのって難しくて。YouTubeとかで、たくさん動物の動画を観ました。あと犬の画像も参考にしています。毎日犬といるんですけど、いざ銀ちゃんを描くときって「あれ、銀ちゃんの白いところどこだっけ?」みたいになって覚えていないんですよね。なので、それからよく気をつけてポテちゃんと銀ちゃんを見るようになりました。毎日顔を合わせているのに、意外と分かっていないんですよね。

 

──確かに! 動物でなくても「親父の顔のほくろ、どこにあるっけ?」とかなりますよね。

 

まんきつさん:ですよね! お父さんとかお母さんの顔とかあまりまじまじと見ないですよね。自分のお母さんのほくろのある場所とか分かりますか?

 

──ぜんぜん分からないです。

 

まんきつさん:そう、分からないんですよね! それと一緒なんだと思います(笑)。

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◆ポテちゃんの飼い方で後悔しているところがある?

まんきつさん

──『犬々ワンダーランド』で、イチバン印象に残っているエピソードを教えていただけますか?

まんきつさん:印象に残っているエピソードは、やっぱり保護活動をしている荻原さんのお話です。結局それを伝えたかったのかなと思っていて、あれをイチバン描きたかったです。

 実際に保護活動をされている方の話を聞いてみて、自分にはぜんぜん覚悟が足りなかったなって思いました。本当に動物に人生を捧げているので。私も将来、犬や猫を数匹引き取って、里親みたいなことをできたらいいなって少し考えていたこともあったんですけど、「やりたいな」くらいでは続かないだろうと思って。

 

──荻原さんは、動物の病院代も自腹だし、それこそ猫のために家を買ってしまうくらい人生を捧げていますもんね。あと、自分が高齢なので、自分の寿命を計算して新しく迎える犬や猫でも年をとった子を中心に引き取っていますよね。

 

まんきつさん:「もう若い動物は自分では保護できない」「自分が先に死ぬかもしれないから」って自分の寿命まで逆算しているんですよ。ちゃんと先のことまで考えていらして、そういう姿を目撃してしまうと自分には覚悟が足りなかったなと思いました。

 

──『犬々ワンダーランド』を読んでいると、荻原さんからいただいたポテちゃんはすごくまんきつさんに愛されていて良かったなって思いました。

 

まんきつさん:実はポテちゃんの飼い方で後悔しているところがあって、ポテちゃんはものすごく臆病なんです。テレビがつくだけで震えるくらい。

 はじめは外にも出られなかったので……、本人があまりにも嫌がっているから、ほかの犬とも触れ合わせなかったし、「ポテちゃんが嫌がっているからいいや」みたいになっていたので、子犬のころにもっとほかのワンちゃんとふれあわせたら、ポテちゃんの臆病さもマシになっていたんじゃないかなみたいな。そういう後悔はすごくあります。

まんきつさん

──ポテちゃんも荻原さんのところにいたときは、ほかの犬にいじめられていて、別の場所で飼われていたそうですから難しいところですよね。でも、この本を読んでいるとポテちゃんと銀ちゃんの仲の良さが伝わってきました。ポテちゃんにとって唯一心を許せる犬が銀ちゃんなんだと。

 

まんきつさん:そうですね。銀ちゃんはポテちゃんの中で特殊な存在だと思います。ポテちゃんは、基本的に犬がすごく苦手なんですけど、銀ちゃんだけは平気ですね。

 

──ポテちゃんは人間に対しても体を触らせないみたいですが、作中では2人の方に体を触らせていましたが、その2人はやはり動物が好きだったり、犬を飼っていたりしたのでしょうか?

 

まんきつさん:その方たちはやはり動物が大好きですね。ずっと犬を飼っていたっていうおばちゃんなんですよ。ただ年なので、飼いたくてももう犬が飼えないと話していました。2人ともそういうおばちゃんでした。

 

──やっぱ動物って分かるんでしょうかね、そういう動物好きの人の気持ちとか。

 

まんきつさん:どうなんですかね。2人の方は犬のあつかいがうまいというか、どう犬と接すればいいのか分かっています。いきなり触るとかしないで、本当によく犬を見てゆっくりと距離を縮めていく感じなんです。

まんきつさん

──この漫画に描いてありましたが、まんきつさんのワンちゃんを見て昔飼っていた犬のことを思い出す人がいるそうですね。僕も実家で飼っていた子たちのことを思い出してしんみりしてしまいました。

 実は『犬々ワンダーランド』を赤羽(東京都北区)のファミレスで読んだんですけど、特に最後のほうを読んでいたとき、本当に泣きそうになって、ここで泣いたら隣の席の20代前半くらいの女の子たちに「なんだこいつ!?」と思われるんじゃないかと思って、涙をこらえていました(笑)。

 

まんきつさん:(笑)。赤羽に住んでいらっしゃるんですね。

 

──アニギャラ編集部は赤羽にありまして。

 

まんきつさん:清野とおるさん(漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン双葉社)の作者)と赤羽に数年前行ったことがあるんですけど、赤羽もずいぶん変わりましたよね。本当にきれいになっちゃって。

 

──分かりますか。きれいという言葉よりもクリーンという言葉がふさわしいようになっちゃって。

 

まんきつさん:赤羽には最近ぜんぜん行ってなくて。

 

──清野さんと赤羽でお飲みになったエピソードを以前、清野さんの漫画で読んだことがあります。

 

まんきつさん:あ! ありました! 弟も出ていましたよね。

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──ああ、それです! で、話がかなり脱線してしまいましたが(笑)、ポテちゃんと銀ちゃんを飼いだして、どのように生活が変わったのか教えていただけますか?

 

まんきつさん:犬を飼うのってお金がかかるんですよ。だから、犬を養うためにとにかく働かなくちゃと思っています。もし、犬がいなかったらたぶんずっと寝ちゃって、生活もひどくて相当荒れたんだろうなと思っています。本音を言えば、働かずにずっと寝ていたいんです。でも犬を養わなきゃいけないので、本当に仕事だけはめちゃめちゃしてます。

 

──毎日、ポテちゃんと銀ちゃんとふれあうことで、ワンちゃんたちの優しさを感じることはあると思いますが、「ワンちゃん優しい!」って強く感じた瞬間ってありますか?

 

まんきつさん:手とかケガすることってあるじゃないですか。そうするとたぶん、血の臭いがして分かるみたいで、ずっとその傷口を舐めてくるんですよ。だから足とかでもちょっとぶつかって切り傷とかできると、すごく舐めてくれるんです。治そうとしてくれているのかな。ちなみに、猫はそういうことはなかったです(笑)。

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──保護活動家の荻原さんのところには、ものすごく人を怖がって威嚇してくるルンちゃんという犬がいたと思うんですけど、取材で荻原さんのところをたずねて12年ぶりにルンちゃんと再会したときどのように感じましたか?

 

まんきつさん:ポテちゃんを引き取ってから、ずっとルンちゃんのことを忘れられなかったんですよ。すごい子がいたなと思って。ちょっと人が近づくだけでずっと唸り声を上げて威嚇しているくらい人間が苦手な子だったから、さすがにあの子はもらわれるのが難しいんじゃないかなと思っていたら本当にまだいて。しかも17歳というけっこうな年でびっくりしました。ずっと気になっていたから、会えて良かったなと思いました。

 そしたら、その1週間後くらいに萩原さんから「ルンちゃんがお星様になりました」とLINEがきて……。亡くなる直前にルンちゃんに会えたっていうすごく奇跡みたいな体験でした。

 

──もしかしたら、まんきつさんのことを待っていたのかもしれませんね。

 

まんきつさん:どうでしょうかね。

 

──先ほども少しお話をしましたが、僕の実家には犬がいて、たまたま実家に行く機会があって、僕が実家から帰ったその1週間後に虹の橋を渡ったから、僕のことを待っていたのかなと、いまでも思うことがあります。だからルンちゃんも漫画に登場したかったから、ずっとまんきつさんのことを待っていたのかなと思いました。

 

まんきつさん:「描いたほうがいいよ」ということで、ルンちゃんは私のことを待っていたのかな……。描けて良かったです。ルンちゃんのこと。

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