2020年11月20日より毎年恒例の『新千歳空港国際アニメーション映画祭』が今年も開催されました。
新型コロナウイルス感染症により参加者が現地に足を運んだり、世界各国のクリエイターたちを招待したりといったことがなかなか難しい状況の中、第7回を迎えた今回は、本映画祭史上初のオンライン上映を並行して実施。家にいながら映画祭を楽しめるという、新たな試みに挑戦しました。
毎年、挑戦的なアニメーションがいくつも上映されるこちらのイベント。今年もぜひ紹介しておきたい作品がいくつも発見できたのですが、中でもアニメーション作品の概念を大きく覆す面白い中編作品があったので、今回それを紹介します。
◆ゲームの映像をそのまま使っている!?『How to Disappear』
私が驚かされたアニメーションが21分ほどの中編作品『How to Disappear』。
オーストリアのTOTAL REFUSALというグループによる作品です。『How to Disappear』の驚くべきポイントは、なんとゲーム『BATTLE FIELD V』の映像をそのままアニメーションとして使ってしまっているところにあります。
『BATTLE FIELD V』はFPS(First-Person-Shooter)と呼ばれる一人称視点のシューティングであり、第二次世界大戦を舞台にプレイヤーは一人の兵士として戦争を体験するというゲームになっています。
『How to Disappear』では、この『BATTLE FIELD V』のキャラクターを操作している映像に、実際の戦争における脱走兵の歴史に関する解説と、この『BATTLE FIELD V』のゲーム内で果たして戦闘を放棄することはできるのか、をテーマにした内容がナレーションで語られるものとなっています。
◆『How to Disappear』のすごいところ!
ゲームの映像にナレーションを乗せただけでは、一見、実況映像のようになりそうな内容ですが、その語られる内容の高等さのせいか、ゲーム映像がたちまちドキュメンタリー映像のように見えるのが衝撃的。
アニメーションの制作といえば、手描きやCGなどで描くことが通常ですが、ついにそういった“描く”という工程を省略したアニメーションが登場したことは、画期的と言えます。
本作はその革新さもあって、見事短編部門の審査員特別賞を受賞しました。
ゲームのプレイ映像に別の音声を乗せて、一つの映像作品にすることは、それこそニコニコ動画やYoutubeなどで、実況に限らずMADなどでも発展してきた文化でしたが、ついにそれが一つの映像作品を作る手段として成立し、映画祭などで受賞ができる時代が来たわけですよ。
◆ゲームを使った反戦的アート政策集団・TOTAL REFUSALに注目
『How to Disappear』を制作したTOTAL REFUSALというグループ。実はこの映像作品の他にも、多くの作品を発表しており、その作品の多くでゲームを題材にした作品を発表しています。
例えば『Circumventing the Circle of Death』という作品では、第二次世界大戦を舞台にしたミリタリー系リアルタイムストラテジーゲーム『サドンストライク4』を使用しています。
このゲームに登場する戦車などは、本来敵と相見えることで自動的に敵を攻撃するように設定されているのですが、敵と直面しないように操作することで、二つの軍の激突を避けることができます。その平和的な行動による操作の跡が円形を描く......といったアート作品を作っています。
TOTAL REFUSALの作品はメンバーの一人であるLeonhard Müllner氏のWEBサイトで紹介されており、そのいくつかはネット上でも見ることができます。
▼Leonhard Müllner氏のWEBサイト
――アニメーション制作といえば「絵が描けなければいけない」とか「CGソフトを使えなければいけない」といった制限があるように思っていましたが、アイディア次第でその壁をも超えて、アニメーション作品を作ることができてしまう。TOTAL REFUSALの作品にはそんな学びがありました。商業アニメとは別のアニメーション界の新たな世界が、TOTAL REFUSALの作品の先にありそうです。
(Edit&Text/ネジムラ89)