観たことない映像体験。なんて謳い文句が映画などでは度々使われるわけですが、まさにそんな惹句がふさわしいアニメーション映画が2018年夏、ついに日本に上陸します。
観たことない体験を味合わせてくれるその映画のタイトルは、『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』。
CMがガンガン流れるような大手広告代理店がつくような映画とは異なるため、正直それほど知名度がない作品かもしれません。ですが、私、この映画を声を大にして推しておきたいのです。
TAAF2017長編コンペティショングランプリ作品というマチガイなさ
私が『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』に出会ったのは、2017年の春に開催された東京アニメアワードフェスティバル、通称TAAF。世界のアニメーション作品が集うこのイベントの長編コンペティションに、同作品もノミネートされていた縁で、一足先に劇場で本編を観ることができました。
このTAAFというイベント、歴史こそ浅いもののコンペティションの受賞作品は特にレベルの高いものが多く、信頼に足る箔のある賞だと思っております。そんな賞において、本作は2017年の長編コンペティションの最高賞であるグランプリを見事獲得。ライバルの『僕の名前はズッキーニ』(こちらも大傑作)を抑えて、トップに君臨しました。まさに折り紙付きの一作なのです。
驚くべきはその画期的なビジュアル
TAAFが信頼に足ると言っても、初鑑賞時はグランプリ作品と分かりながら鑑賞したわけではありません。それでも『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』を私が初めて観た際、かなりの衝撃を与えられたことは今でも忘れられません。
その衝撃とは、この映画のビジュアル。まさに「こんな映画観たことない」という、映像体験がそこにありました。
予告編を観ると分かるのですが『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』は全編が筆でササッと描かれたような、簡素なタッチのアニメーションで描かれています。似ている日本の作品として『かぐや姫の物語』などが水彩のタッチが残っていて、近いと思うのですが、『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』はタッチの残り具合でいえば、それ以上。最小限と言わんばかりにディフォルメされた線でキャラクターや風景、そして物語を描いています。短編アニメーションであるならまだしも長編アニメーションで、ここまで削ぎぬいた作品はちょっと今まで観たことがありませんでした。
このビジュアルでも魅せてくれる重厚な物語
ここまで削ぎぬいたビジュアルだと、どうしても観にくい印象を持たれるかもしれません。ですが、そんなことありません
私、本編中、終始見入っておりました。なぜなら、そもそもの原作となるグリム童話の『手を失くした少女』という話自体がまたすごく面白いのです。
グリム童話といえば『赤ずきん』や『白雪姫』など時代を越えて親しまれる物語が数多く存在しますが、やはりその物語のインパクト自体が強いからこそ。ドラマティックな物語のおかげで、大人になった今でも大筋の物語が頭の中に残っています。そして、この『手を失くした少女』もそんなインパクトを兼ね備えた物語となっています。
―主人公は、父母と暮らす少女。ある日、悪魔と出会った父親は、富と引き換えに、「水車の裏にあるもの」を差し出してしまったために事態は一変します。父親は「水車の裏にあるもの」を林檎の木だと思い込んでいたものの、実は「娘の命」だったから大変。それ以来、少女は命の危険にさらされてしまうことになります。少女は父のために両腕を切り落とす羽目になってしまったり、逃げ延びても尚、悪魔によって不幸に陥れられそうになります。果たして少女がどんな顛末を迎えるのか。重なる衝撃の展開の数々は実に見応えのある物語となっています。
衝撃の展開の数々を簡素なビジュアルで描くからこそ、逆に想像力を掻き立てられるもの。私はまんまと夢中させられてしまいました。
――『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』は夏休みシーズンのビックバジェット群に紛れて、見逃してしまう人が出てきてしまうのには非常に惜しい一作です。あなたのひと夏の体験の一ページに、ぜひこの映像体験を加えて欲しいです。
(Edit&Text/ネジムラ89)