◆オトナは「都合の悪いこと」は知らん顔するのに……

 本来は働けないはずの子どもたちが、働いてお金を手に入れている姿は、大人ほど違和感を感じるのではないでしょうか。

「ちゃんと学校に行って義務教育を受けてほしい」「身分を偽ってまで働く状況はおかしい」といった、そもそも子どもたちがこの状況に陥っていることに対するマズさや危なさが浮かび上がります。

 そんなとき、『天気の子』に登場する大人の立場が警察です。警察たちは陽菜や帆高の存在は間違いだよね、とたびたび補導します。クライマックスには銃を構えて多勢に無勢で帆高を取り囲み、その姿は頭ごなしに制度に当てはめていくように映ります。

 そして、実はそんな警察とも対照的な存在として描かれる大人が圭介です。一度は警察側に回り、帆高たちを大人しく警察に連れていこうとする彼でしたが、懸命な帆高の姿や事情も知らないで一方的に捕らえようとする警察の姿を見て、ついには警察を抑えてまで、帆高を陽菜のもとへと向かわせようとします。

 圭介はかつて帆高と同じく10代で東京に家出してきて、奥さんと出会い、そして奥さんとは事故で死別した過去を持っています。そんな圭介だからこそ、陽菜に会いにいこうとする帆高に自分を重ねたのでしょう。思わず帆高の味方をして、警察を引き止める役を担うのでした。

 そんな彼も、お金に満たされているわけでもないのが、また陽菜と帆高と重なるところです。圭介は半地下に位置した小規模なオフィスを開いており、決して儲かっているようには見えない様子がうかがえます。そんな大人だからこそ、陽菜や帆高に寄り添うことができ、次世代の背中を押す立場になり得たのでしょう。

 警察に囲まれた帆高は叫びます。

「ほっといてくれよ。なんで邪魔すんだよ。みんな何も知らないで。知らないふりして。俺はただ、もう一度あの人に、会いたいんだ」

 このセリフの“知らないふりして”という部分が、警察と圭介を分かちます。帆高は多くを望んでおらず、ただ愛する人に会いに行きたいと訴えます。それを一切聞き入れず、頑なに社会の型に当てはめようとする警察に対して、圭介はそこで知らないふりができず、帆高を勝手にさせようとします

 こうして、圭介が帆高を送り出したことにより、陽菜は地上に帰って来て、東京は雨に沈みます。

◆その「大丈夫」を聞いた子どもたちに“未来”を……

 そんな世の中で大人から子供にできることはなんなのか。警察のように、従来の型にはめて子どもを導いていくのか。否。『天気の子』では、そこで圭介を使って、陽菜や帆高に対して、好きにさせるという選択肢を取らせます

 その真意は、水没後の圭介の最後のセリフにメッセージが詰まっています。

「まぁ気にすんなよ青年、世界なんてさ、どうせもともと狂ってんだから」

 この悲惨な日本の責任は若い世代にはない。だったら、好きにさせたっていいじゃないか。それが大人の役目じゃないのか──。

 そんな、メッセージにも受け取れます。停滞する日本の経済が果たしてどうなるのかは分からないけれども「僕たちはきっと、大丈夫だ」で締めるこの映画は、若者たちがやろうとしていることに精一杯の背中を押してくれるエールとなっているでしょう。

 そして、そんなエールを送る立場の圭介も、すっかり事業が成功しているのも、この映画のまた一つのエール大人だって「大丈夫」にできる未来はまだあるのです。

〈文/ネジムラ89 編集/水野ウバ高輝〉

 

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレターを配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

映画『天気の子』公式サイト

©2019「天気の子」製作委員会

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