映画 『ゆるキャン△』(2022)は、今の時代の「労働の在り方」を見つめ直すのに最適なアニメ映画です。
この映画には、労働の秘訣がたくさん詰まっていながらも、実は、給料などの「報酬」についての情報が描かれていません。
◆本格お仕事アニメ?問題が起きたときの打開策などが描かれている
映画 『ゆるキャン△』では、社会人になった各務原なでしこたちが、キャンプ場作りに取り組む様子を描いており、プロジェクトの進め方などの参考に役立つ場面もたびたび登場しています。
主人公の各務原なでしこはアウトドア洋品店の店員、志摩リンは出版社の編集、大垣千秋は山梨県の観光推進機構、犬山あおいは小学校の教員、斎藤恵那はペットサロンのトリマーへと就職。
大人になった彼女たちは、日本の各地でバラバラに生活をしていましたが、千秋が数年前に閉鎖された施設をキャンプ場として再開発する計画を発足したため、彼女たちは再び集結。キャンプ場を作り上げていくことになります。
キャンプ場を作っていくうえで、土地の開発や設備の準備などさまざまな壁にぶつかっていくなでしこたちですが、地元の人たちの協力を得たり、実際にキャンプをしてみて課題を発見したりと協力や工夫、そして対話を経て乗り越えていきます。
それぞれが本職を持つかたわらで、このプロジェクトに取り組んでおり、時にはその職業で得た知見や物資がキャンプ場の開発に活きてくる瞬間なども見られます。
仕事における難しい状況をいかに打破するか、というアイデアなども劇中では見られ、仕事で壁にぶつかった際、この映画を参考にしてみると解決の糸口がひらめくかもしれません。
◆報酬に関しては「うやむや」にされている?
困難なプロジェクトを円滑に進める方法が描かれている一方、この映画では、なでしこたちがキャンプ場の開発に取り組んだ分の報酬に関しての描写がないです。
ボランティアの必要性や資金繰りについては作中で言及されている一方、これだけ労働しているなでしこたちに報酬は支払われているのか? メンバーによってはキャンプ場を作ろうとしている山梨まで距離があるけど交通費とかどうしているのか? といった経済的な負担についてははっきりと描かれていません。
そんな中で精神的な部分での労働の意義は説かれていくので、各メンバーに本業がありながら、休日を返上してキャンプ場の開発に取り組む様子は、少しいじわるな見方をすると「やりがい搾取」のように映ってしまってもおかしくないでしょう。
たとえ、しっかりと報酬が与えられていたとしても、そもそもあおいに関しては教員という公務員職についているので、どのような業務形態でこのプロジェクトに携わっているのかという別の問題も否めません。
しかし、経済的な負担の具体的な描写はなくとも、キャンプ場開発のための“時間的な負担”や“体力的な負担”については、志摩リンのエピソードでそれとなく触れられています。
キャンプ場の開発に取り組むリンの業務を、本人が知らないうちに上司がサポートしてくれていたことが途中で判明。それを知ったリンは一度本職の編集者としての業務に注力し、自主的とはいえ、時には会社で夜を明かすまで働いてしまうという描写が登場しています。
この場面からも、キャンプ場の開発がそれなりに負担の多い取り組みで両立が大変だったことが分かります。
やりがい搾取とも言えなくもない状況下で、なでしこたちが働けたのは、やはりキャンプが好きだったからではないでしょうか。よって、彼女たちにとって報酬は二の次だったと考えられます。
報酬のことを気にしないというボランティア的な考え方は、本業やプライベートが充実しているからこそ生まれる考え方で、そうでなければ心にも金銭的にもそんな余裕は生まれないでしょう。
多くの人が、なでしこたちのように、恵まれた環境でプライベートや仕事時間を過ごしているわけではありません。
自分の好きなことだから報酬は二の次という考え方は果たして、順当な考え方なのでしょうか?