2021年5月26日より、海外からは少し遅れて日本でも『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』のデジタル配信がスタートしました。この映画は、2017年に劇場公開された映画『ジャスティス・リーグ』のディレクターズカット版。当時監督を降板したザック・スナイダー監督が本来想定したとされるバージョンとなっています。
元の『ジャスティス・リーグ』は2時間の映画でしたが、今回のザック・スナイダーカットは4時間にも及ぶ長尺となっており、結末や展開も大きく異なる内容となっています。
そもそも映画は、本来の上映時間よりも遥かに多い時間の撮影を行なうもの。そこから抜粋したものが、上映用にパッケージングされて我々のもとに届くわけです。
ザック・スナイダーカットも追加撮影を行なったわけではありますが、2017年に公開された『ジャスティス・リーグ』よりも、厳密には本来想定していた今回の『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』の方が“元”という表現にふさわしい存在と言えそうです。
そして、これだけ『ジャスティス・リーグ』の話をしておきながら、実はここまでが前置き。『ジャスティス・リーグ』が短く編集される過程を体験するかのように、2021年6月に映画制作における編集に関してクローズアップして、その様子をまじまじと体験することができるアニメーション映画が登場したのです。
その映画というのが6月4日に劇場公開をスタートした『映画大好きポンポさん』。
本作は、どのように映画が編集されていく過程を描いているのでしょうか。
◆『映画大好きポンポさん』とは?
『映画大好きポンポさん』とは、杉谷庄吾(別名義:人間プラモ)先生が手がけた同名漫画を原作に、『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』や『劇場版 空の境界::第五章 矛盾螺旋』を手がけてきた平尾隆之さんが監督を務めて長編アニメーション映画化した作品です。
物語の主人公は、映画の制作アシスタントをしていた青年・ジーン。凄腕映画プロデューサーであるジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネットこと通称ポンポさんのもとで、映画作りのノウハウを学んでいた彼が、あるきっかけからポンポさんが手がけた脚本をもとに映画監督デビューを果たしていくという物語です。
監督経験がないながらも、学生時代から数多くの映画を観て学んできたジーンは、監督としての手腕を発揮し、観ているこちらも気持ち良くなれるぐらいに、撮影を順調に進めていきます。ただし、中盤のある制作行程を迎えるまでは......。
◆映画オリジナル要素である“編集”パート
今回長編アニメーション映画化するにあたって、原作の漫画にはないある映画制作のパートの物語にアレンジが加わっています。それが、“編集”のパートです。
ポンポさんのプロデュース作品はできるだけ、監督に編集作業も担ってもらいたいという方針のもと、ジーン自身も編集作業を好むことから、撮影が完了した長時間に及ぶ映像素材をジーン自身が映画に仕上げる姿が描かれます。
漫画では、この編集作業のシーンはかなり簡潔に描かれているのですが、今回のアニメーション映画では、編集のパートをより重視して描いており、アニメーションならではの表現で、視覚的にジーンが行う編集の作業が体験できるような演出が施されています。
編集前の撮影のシーンではいくつもの感動の場面や撮影中のドラマが生まれているのを観せておきながら、観客ですら思い入れが強く感じられたシーンを、編集で削除しようとする姿には、悲しさや切なさ、そして編集の世界の厳しさを思い知りました。いざシーンの削除をしようする瞬間は、未だかつてここまで重いエンターキーはあったであろうか、というほどに胸が詰まります。
◆以前のようには観られなくなってしまった映画の○○
編集の先にどんなカタルシスがあるのか?
そもそもその編集は正しいのか?
そういった答えの見えない世界で葛藤を続けるジーンの姿には、これまで自分の観てきた数多くの映画にも、日の目を見なかった名シーンが存在していたであろうことを想像させます。
思えば実写映画のDVDやBlu-rayのボーナストラックとして、未公開カットなどが収録させれているケースがよくあります。なんとなく“オマケ”程度の認識で眺めていたものですが、『映画大好きポンポさん』を観た後では、その映像こそ数多くの使用されなかった映像の片鱗であり、本当はもっと多くの映像がその映画の完成のために犠牲となっていたことを容易に想像させる存在となりました。
編集の工程で削除された無数の映像たちに対する実感が生まれてしまい、すっかり以前のような感覚で、未公開カットを眺めることはできなくなってしまいました。時に気持ちよく、時に厳しく“編集”の世界を描いた『映画大好きポンポさん』は、自身にとんでもない感覚を植え付ける強烈な映画だったのです。
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◆“編集映画”のススメ
編集による作品の変化を実感させてくれる『ジャスティス・リーグ』。そして実際にそんな映画の編集に関してピックアップした『映画大好きポンポさん』。
両作品がほぼ同じタイミングでリリースされることになったのも、どこか運命的なものを感じます。映画の制作といえば、カメラを持って撮影する姿ばかりを想像してしまいがちですが、この2作品、もしくは一方を観るだけでも、その映画作りに対する印象すらも変えてしまうかもしれませんね。編集に馴染みがなかったり、そもそも編集の存在すらも知らなかったという人こそ、これらの“編集映画”が映画の見え方をまた一味違うものにしてくれます。
ちなみにここで挙げられているのは、実写映画制作における編集作業です。アニメーション映画の場合は1シーンを制作するのに踏んでいく行程が実写映画とは違うので、アニメーション映画がどう作られていくのかを体験するのには、アニメ『SHIROBAKO』もとい『劇場版SHIROBAKO』でも垣間見ることができるでしょう。
畑が違うと、また違った編集の世界が存在するわけで身の回りにもいろんな“編集”が行われているであろうことを想起させます。そんなことを考え出すと、映画どころか、世界の見え方すらも変わっていきますよね。そんな気づきが得られるところも、“編集映画”の魅力でしょう。
ちなみに、この文章も“編集”を経て掲載に至っています。もしかするとディレクターズカット版が存在するのかもしれません......。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi