読書の秋ですね。この時期になると「そうだ、本を読もう!」と書店で様々な本を探してみるものの、結局行きつく先は漫画。そして、いつもは本棚の手前にある作品を読んでしまいがちですが、久々に奥の方にしまい込んだ昔の漫画に手を伸ばしたくなります。

 そして読み始めてふと気づく……同じ恋愛物でも昔と今じゃ随分設定が違うんだな、と。

僕に花のメランコリー01<画像引用元:僕に花のメランコリー 7 (マーガレットコミックス) 出版社:集英社>

 1930年代に発表された作品が先駆けと呼ばれ、それ以降長い歴史を積み重ねながら、時代時代の乙女たちを魅了してやまない「少女漫画」。ですがその登場人物やストーリー展開、特に“恋愛事情”は時代と共にガラッと様変わりしていきます。

 ここではピックアップした作品を例にあげながら、少女漫画の恋愛事情がどう変わっているのか、その今昔物語を紐解きたいと思います。

◆片思い至上主義の昔

 昔の少女漫画の特徴、それは……、圧倒的な熱量で描かれる「片思い至上主義」
  一に片思い、二に片思い、三、四がなくても五に片思い。例えば単行本が6巻刊行されるならば、最終巻までその想いが成就することがないほど、とにかく延々と片思い展開が続きます。

 例としてご紹介するのは、1985年から1989年にかけて集英社「りぼん」で連載された、『星の瞳のシルエット』

星の瞳のシルエット 1 <画像引用元:星の瞳のシルエット 1 (フェアベルコミックス) 出版社:フェアベル>

 主人公・沢渡香澄と彼女の初恋の相手「すすき野原の男の子」である久住智史、久住に片思いをしている香澄の親友の森下真理子。この3人を軸として、香澄と真理子の共通の親友・泉沙樹、久住の親友で沙樹の幼なじみの白石司、高校編で登場し香澄と仲良くなる吉祥寺啓子たちが絡み、複雑な恋愛模様が繰り広げられます。

 ・香澄と久住は幼い頃に出会っていて二人だけの大切な思い出がある。
 ・香澄の好きな人は久住。
 ・久住の好きな人も香澄。

 これだけの素材があれば、1巻が終わる頃には両想いになれそうなもんですが、昔の少女漫画はそんな近道恋愛を許しません!

 香澄と久住はビックリするほどすれ違います。

 そう、例えるなら、目の前にドアがあるのにメガネを忘れてその扉が見えず、いつまでたっても開けることが出来ないレベルのすれ違いっぷり。その原因はひとえに真理子にあります。

 香澄は親友の真理子が久住のことを好きだと知っているので恋と友情の狭間で葛藤しており、それだけでもかなりな障害なのですが、友情を壊したくない香澄が真理子を思って取った行動が全て裏目に出てしまうのです。

 真理子に久住のことを聞かれ、「友達としか思っていない」と言ったところを久住本人に聞かれてしまったり、高校編で久住に告白された時もその告白を拒絶、真理子には「久住にフラれた」と嘘をついて二人の仲を取り持ったり、散々久住と真理子を振り回した挙句、最終的には香澄に想いを寄せている司の気持ちさえも踏みにじる行為に及びます。

 ……こうして羅列してみると一番悪いのは香澄のような気さえしてきました。久住なんて最初から最後まで一貫して香澄のことが好きなので、完全なる被害者ですよね。だがしかし、そもそも真理子が久住に横恋慕して香澄の心を惑わせなければこんな事態にはならなかった訳で。

 真理子が悪いんです、全部真理子の所為なんです! ……と思うことにします。

 お互いに惹かれ合いながらも中々通じ合えない香澄と久住。そして真理子は久住に、沙樹は司に、司は香澄に、啓子は司に想いを寄せていて(見事なまでの一方通行……道路標識でもあるんでしょうか?)それぞれのキャラクターの感情・思いが狂おしいまでの熱量で描かれます。

 時には登場人物に感情移入し、第三者としてその恋の行方をハラハラドキドキしながら見守り、すれ違いにヤキモキし、恋が成就した際にはホッと胸を撫でおろす。昔の少女漫画は、そんな視聴者型の作品が目立っていました。

◆ライバルキャラの恋愛事情

 そしてここから少し路線変更、ヒロインの恋敵となるライバルキャラの恋愛事情について。

 恋愛物には欠かせないライバルキャラですが、ヒロインの親友の他に、あざと系女子や意地悪キャラなど、個性的な人物がキャスティングされるこのポジション。よほど最悪な人物でない限りはヒロインとの対決が終息すると仲良しになることが多く、そういった場合、ご褒美として彼女にも新しい恋のお相手が配布されます。

 今でこそ、その対象はヒロインの恋人に負けず劣らずのハイスペック男子と相場が決まっていますが、先に紹介した『星の瞳のシルエット』は一味違います!

 香澄と久住の仲をこれでもか! と引っ掻き回し、私を始め日本中の乙女に嫌われまくった真理子ですが、最終的には久住への想いに終止符を打ち、香澄との友情も復活します。そんな真理子にも新たな恋の予感! きっと久住を凌駕するほどのイケメンを選ぶと思いきや……

 真理子の恋人ポジションに収まったのは、日野誠。

 高校編から登場したキャラクターで、久住の友人です。類まれなる包容力でいつも優しく真理子を見守り、デートをすっぽかされてもいつまでも待ち続けるという強靭な忍耐力の持ち主ですが、素朴で地味、冴えない、言動が少々貧乏くさいというまさに絵にかいたような地味メン。見た目も久住や司に比べるとかなり素朴に描かれており、決してイケメンの部類ではありません。

 文武両道でイケメンの久住と比べると、お世辞にも勝っているとは言い難い日野。でも久住への想いを吹っ切った真理子はあっさりと彼に落ち着きます。

 真理子よ、なぜ日野に着地した!?

 と、疑問を禁じえませんでしたがその問いは直ぐに解決しました。何と日野くん……大豪邸に住まう御曹司だったのです。

 ……そこだったか!!

 転んでもただでは起きない真理子様、流石です!

◆両想いが当たり前の現在

 昔の少女漫画は片思いの期間が長いのが特徴で、思いが通じるまでに重点が置かれるため、やっと恋人同士になった! と思った途端、殆どがその余韻もないまま終了します。

 続きがあったとしてもエピローグでちらっと見せてくれる程度。『星の瞳のシルエット』には大学編などの後日談があったので香澄と久住のその後は補完されていますが、それ以外の作品を読み終わるたびに、片思いが実った二人のその先が気になっていたものです。

 では、現在の少女漫画の特徴は何か? それはズバリ……

 気持ちが通じ合っているのが当たり前の「両想い天国」

 そう! 現在の少女漫画ではヒーローとヒロインが結ばれることはほぼ確約されています。なので「二人はどうなってしまうの?」というハラハラ感は抑えめ、その分安心してキャラクターの魅力やときめきの展開にどっぷり身を任せることが出来ます。

 幾つか鉄板パターンをあげてみると、

 ・お互い口には出さないけど相手に対する行為が態度から駄々洩れている。

 ・親の再婚で出来た兄(弟)が超絶イケメンで一目ぼれする。そして相手も自分に好意を持っている。
 ・幼い頃に離れ離れになってからずっと想い続けていた幼馴染が、イケメン男子に成長して戻って来る。しかもヒロインにベタ惚れ。
 ・貧乏ながらも前向きに生きる女子高生をなぜか見初める大企業の御曹司。

 相手がアイドルでも超人気俳優でも、大企業の社長であっても! そんなことは関係なく、出会った瞬間にもれなく恋に落ちることが可能なのです。

 こちらで紹介する作品は、現在もマーガレットで絶賛連載中の『僕に花のメランコリー』

僕に花のメランコリー<画像引用元:僕に花のメランコリー 1 (マーガレットコミックス) 出版社:集英社>

 主人公は家庭的で癒しのオーラを身にまとった母性全開の高校生・雨宮花。彼女と幼い頃に離れ離れになった幼馴染・高槻弓弦が再会するところから物語が始まります。

 幼い頃の思い出を大切にしていた二人は再び交流を持ち始めますが、花も弓弦もお互いを好きなことははたから見ていてもバレバレ。弓弦に至っては花と再会するまでかなり荒れた生活を送っていたのにそれもすっかりなりを潜め、花への好意を恥ずかしげもなくまき散らします。イケメンで無駄な色気を兼ね備え、花とは幼馴染という間柄の弓弦はまさにキングオブ鉄板!

 1巻から好き同士なのに中々進展しないまま話数が進み、6巻でやっと恋人同士に。昔の作品ならここで『僕に花のメランコリー 完』となるところですが、むしろ現在の少女漫画はここからが本番です。

 そう、読者が欲しているのは片思いが終わったその先、見たいのは、恋人同士になってからのイチャイチャやラブラブなのです!!

 昔はキャラ同士のスキンシップも控えめで、手を繋ぐのが精一杯、キスなんかしようものなら……発狂レベルの展開でしたが、それが今では、キスは日常生活における挨拶のようなもの。

 学校だろうが道端だろうが店の中だろうが、手を繋ぐくらいの軽いノリでキスを繰り返します。何なら激しめのキスだって、キスのその先にだって進んじゃいます。

 『僕に花のメランコリー』でも両想いになる前から弓弦は花に度々キスをしており、ことある毎に彼女に触れる描写も出てきます。それが恋人同士になったあとはさらにエスカレート! 道端でキスしたり、独占欲をむき出しにしたり、自宅や旅先ではその先に進もうとするなど、思わすキュンとする暴走行為が目白押し!!

 片思いの段階からお互いの好意が透けて見えている二人なので、両想いになってからの破壊力は抜群です。花は片思いの時とあまり大差ないですが、とにかく弓弦のデレ具合が半端ないので、二人のイチャラブを存分に味わうことが出来ます。

 弓弦の言動、行動にキュンキュンしながら花の立場で疑似恋愛を楽しむ……時代は「見る」作品から「感じる」作品へ。今どきの乙女たちはこういった体感型アトラクション系の作品に惹かれる傾向があるようです。

 近年では「ティーンズラブ」というキス以上の行為を中心として描いた作品も登場し、片思いのその先は着々と進化を遂げています。

 「今日は純愛の気分」
 「ドS王子に愛されたい」
 「いっそ不倫に走るか!」
 「そうだ、生死をかけたデスゲーム中に恋しよう」

 古き良き純愛を継承したものから、「いや、あり得ないでしょ!?」っていうジャンルまで選び放題。現実ではまっぴらごめんな世界だって漫画ならリスクなしで飛び込むことが出来ちゃいます!

 物語で選ぶもよし、好みのキャラクターを探求するもよし! ぜひ日替わりで、めくるめく恋愛シチュエーションを楽しみましょう。

文/彩乃 編集/スタッフの乙矢〉

※この記事は2018年9月24日に配信した記事の再編集版です。

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