『SING/シング:ネクストステージ』を観ていて、私は『ショムニ FINAL』を思い出した。

 ……と、私の中で起こったことを簡潔に文にすると、全く脈絡のないことになってしまうのですが、何故なのかをお伝えしたいのです。

 『SING / シング:ネクストステージ』は2022年3月18日(金)より上映をスタートしたミニオンでおなじみのイルミネーションエンターテインメントが制作した映画の最新作であり、大ヒットとなった前作『SING / シング』の続編です。

 『ショムニ FINAL』は安田弘之先生によるコミックを原作に、フジテレビがドラマ化した『ショムニ』シリーズの2002年放送の第3期にあたるTVドラマ作品。満帆商事の総務部庶務二課に所属するOL達の奮闘を描いた人気シリーズでした。

 一見、全く繋がりがない2つの作品なのですが、なぜ『ショムニFINAL』を思い出したかといえば、『SING / シング:ネクストステージ』の主人公バスタームーンにその理由があります。

◆『SING / シング:ネクストステージ』にある引っかかり

 『SING / シング』シリーズは、ざっくり説明するとそれぞれ悩みや問題を抱えた動物のキャラクターたちが、その問題を克服していき、パフォーマーとしてお客さんを沸かせるという作品です。その内容からもキャストのみんなが主人公とも言える作品なのですが、あえて主人公をあげるとすると、支配人のバスター・ムーン(声:内村光良)という存在が居ます。

 ムーンは幼い頃に舞台に魅了され、大人になり念願の劇場の支配人となるものの、興行が振るわず再起を図ろうとする、そんなエピソードがシリーズ第1弾『SING / シング』で描かれます。

 続く第2弾となる今回の『SING / シング:ネクストステージ』は、すでに成功者側となったムーンが、エンターテイメントの聖地であるレッド・ショア・シティでの公演に挑むといった物語となっています。

 ムーンの性格を端的に言えば、ショーのことを心の底から信じている野心家。負けず嫌いでもあり、いざという時は機転を効かせて思わぬアイディアをひねり出せるところは、アクターを率いるという点では適任と言えます。

 ただ、一点致命的に思える性格が、“つい嘘をついてしまうところ”。『SING / シング』では、手違いとは言え賞金10万ドルという用意のできないお金を餌に、オーディションを実施してしまったり、今回の『SING / シング:ネクストステージ』でも、アポも取れていないロックスターのクレイ・キャロウェイと繋がりがあると咄嗟に嘘をついてしまうことをきっかけに、レッド・ショア・シティでの公演を担うことになります。

◆ハッタリの割り切り方

 この嘘がどうなっていくのかは、ぜひ映画の本編を追っていただくとして、何にしても主人公でありながら、パフォーマーを取り仕切るムーンがこんな嘘つきで良いのか?というのは、前作の頃から気になっていた疑問でした。ムーンのこの嘘で仕事を手に入れていくやり方って、有りなのでしょうか?

 そんな時、私の中で思い出した作品というのが『ショムニFINAL』なのです。

 思い出したのは第5話『満帆査定ボウル!?』というエピソード。このエピソードでは、かつて海外事業部に所属していたことを鼻にかける人事部の岡野というキャラクターにスポットが当たった回でした。岡野はエリートぶっていながらも、立て続けに仕事でミスを重ねてしまうのですが、自分を人事部に異動させたことが要因だと一向に反省しません。そしてついに上司から、人事部に異動させられたのは海外事業部で使い物にならなかったからだと打ち明けられます。

 それで終わりだと、「皆、自分の身の丈を理解して正直に生きよう」という着地なのですが、『ショムニFINAL』のすごいのはそこで終わりではない所。自分の無能ぶりを痛感し、辞表まで用意する岡野に対して、主人公の坪井千夏はこのように啖呵を切ります。

 “気に入らないね!そう簡単にかましたハッタリ引っ込めないでくれるかな?男だったら自分の言った言葉に責任を持つ!努力してハッタリに追いつけばいいじゃない!言ったからには実行する。それが男のプライドってもんでしょ?”

 男か女かみたいな話になると、前時代的に聞こえるかもしれないですが、これを言い放つ千夏は女性ですし、実はこれを言い放つ千夏自身も、自分のことをボーリングの名人と吹聴していながら実は全くの下手くそ。そんな中、皆の前でボーリングを披露しなければいけないという窮地に追いやられており、ボーリングを猛練習しているという状況だったりします。岡野はそんな千夏の姿を知って、仕事での挽回に臨むというエピソードになっていました。

 このエピソードを思い出した瞬間、バスターの嘘はまさにこの“ハッタリ”として受け取ればいいのかと思えるようになりまして、急に『SING/シング:ネクストステージ』の見え方がグッと軽くなりました。

◆ムーンが口にするのは嘘ではなくハッタリなのだ

 人間誰しも、見栄を張ってしまうことはあるもの。ムーンのように、ついつい口からでまかせを言ってしまうことを、この映画ではそこまで悪としては描いてないのかもしれません。嘘と考えると、途端に悪質ぶりが増しますが、ムーンの健気な所は、自分の言ってしまったことを後からでもどうにか本当のことにできるように奮闘する所にあります。千夏の言葉を借りれば、努力してハッタリに追いつこうとしているということ。『SING /シング』ではムーンの度々の嘘も、ハッタリとして寛大に受け取った方が良いのかもしれません。

 もちろん、人を騙すことは良くないことなのだけど、それによって痛い目を見ることにはなっているし、危険なことだということも描かれています。ついつい映画を観ていると、主人公サイドの粗を指摘したくなったりもしますが、人間はそんな聖人君主ばかりではないです。そんな聖人ではないとわかっていながらも、つい自分の起こしてしまったことを、必死に良い方向で取り繕おうとするムーンに対し非難だけするのは間違っているかもしれません。

 『SING/シング:ネクストステージ』では実はあるキャラクターだけが、最終的に制裁されてしまいます。いろんなキャラクターの問題のある言動が詰まった映画ではありますが、この映画でその人だけが唯一決定的な制裁を受けるので、余計にムーンの嘘は良いのか、という気になるのですが、そのキャラクターが制裁を受けるのは、嘘とかハッタリではなく故意に人に危害を加えようとしていることにあるのではないでしょうか。『SING/シング』流の“ここまでは許されることで、ここからは許されないというライン”がもしかしたら引かれていて、ムーンの言動はハッタリとして許されているのかもしれません。

 

 ――なんて散々こねくり回しましたが、そもそもこの映画はそんな善悪の境界がテーマな映画ではありません。多くの人が動物たちのパフォーマンスを観て、興奮しているのではないかと思いますし、かくいう私もパフォーマンスの度に感動して、最後にはホロリとすらしています。

 ただ、もし私のように、ムーンの行動がずっと引っかかっている人がいたとしたら、その解消法としてショムニを見たら良いかもしれないことはお伝えしておきます。もっとすっきりとした気持ちでこの映画を受け取れるかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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