◆異例さは3DCGアニメーションの映像に表れている!
これだけの時間をかけて生まれただけあって『THE FIRST SLAM DUNK』には、ストーリーだけでなく、その映像にも驚きが生まれたわけです。約19年近く練りに練られた成果として、この映画は、観たことがない3DCGアニメーションになったのです。
3DCGアニメーションと言うと、ディズニーをはじめとした海外作品のイメージをもつ人もいるかもしれませんが、今作は手描きのアニメーションに寄せたいわゆるセルルック3DCG作品。実際の手描きのカットも挟みつつ、その多くを3DCGで作成しています。
東映アニメーションといえば『プリキュア』シリーズや『ドラゴンボール』シリーズなどでも、セルルック3DCGに注力しており、すでに高い技術を披露してきていました。それらの仕上がりをそのまま『スラムダンク』に流用することでも、『スラムダンク』の3DCGアニメーション化はできたと思うのですが、『THE FIRST SLAM DUNK』では、それらともまた違ったルックを再現しに来ているのが驚きです。
『THE FIRST SLAM DUNK』では、原作者の井上雄彦氏の作品を思わせるタッチであったり、淡い色合い、さらには細かな汗にいたるまでのディティールを採用しており、これまでの東映アニメーション作品でも見たことのない表現となっています。そして、それは世界的に観ても例のない表現となっていました。
実際に、ビジュアルに井上雄彦氏自身が手を加えていることは公言されているので、原作者のタッチが残っているのは、当たり前といえば当たり前なのですが、それ以上に作品の方針が原作者の描くビジュアルに寄せようとしているのは明確であり、漫画を3DCG化する、という課題の一つの正解を観たように思えます。
実際の人間がバスケットボールをプレイしている動きを収録して、データ化(モーションキャプチャ)することで、複雑なスポーツの動きを再現することができたり、カメラワークの角度や動きなども練り直しがしやすいので、バスケットコートという限られた範囲でドラマが描かれる『スラムダンク』はよくよく考えると、3DCGこそ映像化には最適とも言える作品でした。
ただ、『THE FIRST SLAM DUNK』ではそれだけに甘んじず、いかにして井上雄彦氏のビジュアルに寄せるかに挑み、それを19年煮詰めた結果が、本作を未知の映像表現に到達させたといえます。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi