1965年にイギリスで、翌1966年には日本でも放送が開始され、英国テレビ界の名匠ジェリー・アンダーソン氏の代表作にして、スーパーマリオネーションと呼ばれる独自の撮影手法を駆使した特撮人形劇の最高傑作として名高いテレビシリーズ『サンダーバード』。
その『サンダーバード』だが、当時音声だけのいわゆるオーディオドラマが3話作られており、音があるならそれに実写をつけようという試みのもと、イギリスの『サンダーバード』ファンによって、クラウンドファンディングでオリジナルの撮影手法を完全再現した新たなエピソードが3話作成された。
日本では、『サンダーバード』が放送から今年で55周年となる。それを祝した「サンダーバード55周年プロジェクト」が発足。その企画目玉として『サンダーバード55/GOGO』の公開が決定した(2022年1月7日(金)劇場上映開始/1月8日(土)オンライン上映開始)。
日本公開用に構成を担当するのは『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督。3つのエピソードはそのままに1本の劇場用公開作品にするという試みがなされ、現在鋭意作成中だ。
そして『サンダーバード』がイギリスで放送スタートした日として制定されている9月30日(木)、スペースFS汐留にて『サンダーバード55/GOGO』ファンイベントがオンラインにて開催され樋口真嗣監督と、イギリスで本作を制作した監督兼プロデューサーのスティーブン・ラリビエー氏、司会として笠井信輔氏が登壇した(※ラリビエー氏はイギリスからリモート登壇)。
イベントは『サンダーバード55/GOGO』のメイキング映像が流れスタートする。
メイキング映像は、CGを使わず昔の技術を使った初出の映像が盛りだくさん。公開前から期待感を煽る内容であった。
メイキング映像が流れたあとは、ラリビエー氏がイギリスからリモートで登壇。ラリビエー氏は「私は『サンダーバード55/GOGO』の監督とプロデューサーのスティーブン・ラリビエーです。5年前に3本新しいエピソードを作りました。よろしくお願いします」と日本語で挨拶。ラリビエー氏は日本に住んいたことがあり、その間日本語学校に通っていたそうだ。そのため、日本語が堪能であった。
今回の新作は、サンダーバードの音声ドラマの発見が大きかったという。この点に関してラリビエー氏は「発見したというよりはイギリスではもともと音声ドラマが存在していて人気もありました。私はいつか誰かこれも映像化してくれないかなと思っていたんですけど誰もしてくれなかったってこともあって自分で作りました」とコメント(※ここからラリビエー氏は英語で話し、日本語通訳が入る)。
また、司会の笠井氏の「撮影技術が発達してCGも発展している中で、これを昔ながらの技術、ミニチュアを復元しようというとてつもないことをどうしてやろうと思ったんですか?」という質問に対し、ラリビエー氏は
「サンダーバードといえば、もうこの映像の撮り方なので、私の中では人形を使わないメカを使わないで撮るという選択肢はありませんでした。日本語に吹き替えてしまうと関係ない話になってしまうのですが、私達にとってもう一つ嬉しかったのはやはり昔の音声や、昔の役者さんの演技に合わせてこの映像作ることができるということでした」
と語った。
さらにラリビエー氏は、撮影していてとても大変だったところや、やってみて気づいたこと、そしてとても楽しかったことという質問に対して「まず第一に昔ながらの方法で作っていくというのは大変な作業であるというのも間違いありません。もちろん、人形を使って、映画を作る映像を作るということは楽しかったです。そして、爆発物を爆発させるというのも楽しかったですね。気がついたことは、人形が結構重たいことです。だから人形を持ってみて操作するのが大変だということがよくわかりました。
メカだったらフレームに入れて動かす。メカって動きがシンプルなんですけれども、人形を思った通りに動かすのはとっても難しく、微妙な動きを必要とするので、とても大変でした。うまくいかなかったらもう一度やらなければならないんですけど、腕がものすごく疲れます」と撮影を振り返りながら話す。
ラリビエー氏がコメントしたのちに、ここで、日本公開用に構成を担当する樋口真嗣監督がマリオネットの動きを真似たぎこちない動きで登壇。会場に笑いが巻き起こる。
樋口氏は、『サンダーバード55/GOGO』の劇場版の構成を担当しませんかとオファーを受けたときの心境についてこのように語った。
「すでに完成してる3本があるので、そのままでいいんじゃないかなっていうのも正直なところです。よくあるじゃないか、昔のアニメ劇場版で日本の映画監督が勝手に編集しちゃって、ふざけんなみたいな(笑)。当時、口の悪い中学生はそんなこと思ったものですよ、まさか自分がその立場になろうという……。
なるべく基本的にはラリビエーさんたちが作られた素晴らしいものをどうやって劇場に届けるかということを第一に考え、そしてやはり、東北新社といえば日本語版。昔からいろんな洋画劇場見るたびに、日本語版制作と東北新社と。本当に日本語吹き替え版というのをどこまで今の時代に作れるかという一つのテーマだったんじゃないかなと思います」
そして彼は『サンダーバード』の魅力という質問に対して爆発だと語っていた。
樋口氏の爆発が魅力という言葉を受け、笠井氏はラリビエー氏に「大豪邸を大爆発していますけども、楽しかったですか? 大変でしたか?」と質問を投げかける。その問いに対し、ラリビエー氏は
「豪邸の爆発シーンなんですけど、もちろん楽しかったです。爆発のシーンっていうのは基本的に楽しいです。失敗すればもう1回やればいいっていうのが通常なんですけれども、今回の場合は模型が一つしかなかった。3週間かけて作った模型が一つしかなかったので一発勝負でした」とコメント。さらに彼は、「爆発シーンというのはシステムとしては二つうまくいかなければならないことがあって、同時に二つ起動させるんですけれども、一つは炎はなくてとにかくその模型をバラバラにするという衝撃を与えるもの。それとは別に、炎を上げて見た目を派手に見せるというものがあるんですけれども、この両方がうまくいかなくてはならない。例えば壊す部分が一部だけ壊れてしまったらもうこれはやり直すためにどれだけのお金がかかるのか、もうできないかもしれないっていう心配はありました」
と、爆発シーンを撮影する際の苦労話を語っていた。
そして話題はラリビエー氏、樋口氏、ともに聞きたいことという話に移る。
樋口氏は、ラリビエー氏に、どうやってITVに『サンダーバード』の制作許可を得たのかという本質的な質問をする。その質問の裏には、『ゴジラ』や『ウルトラマン』を新たに撮るのに日本のクリエイターたちが40年以上かかったことが関係している。だからこそ、樋口氏は『サンダーバード』がどのようにしてITVから制作許可が下りたのか知りたかったのであった。
ラリビエー氏は樋口氏の質問に対し「はっきり自信を持った答えではないんですけど、2014年にスーパーマリオネーションに関するドキュメンタリーを作りました。そこでもペネロープが出てきたりとかしたので、その実績があったというのが一つだとおそらく思います。サンダーバードの50周年にITVから何か企画の提案はないかって聞かれたときに残ってる音声でエピソードを作ったらどうかっていったらそれが通ったんですね」
彼は続ける「私は昔からこのスーパーマリオネーションという映像制作技術というのは未来のあるものだと確信していました。ITVとしてもそういうふうに復活させて作ったら『サンダーバード』ファンも喜ぶだろうっていうのは思っていたと思うのですけれども、実際作ってみたらそれ以上の効果、大成功で、スーパーマリオネーション自体がちょっと復活の盛り上げを見せているっていうのがITVも予想外だったと思います」
今度はラリビエー氏が樋口氏へ「演劇の構成は、どのような構想で考えていますか?」と質問する。
樋口氏は、その質問に対してこのようにコメント。
「僕は、皆さんがこの映画を作りたいと思ったことが一番素晴らしいと感じました。それが一番感動しました。だから皆さんが、なぜこの映画を作るのか、そしてそれを作るために、昔のスタッフを集めたりとか、昔と同じやり方にこだわってそれを作っていったっていうプロセスをお客さんにぜひ見てほしい。そこから始めるのが僕は一番肝なのかなと思いまして、言ってしまえば、ラリビエーさんたちの物語として映画が出来上がるように今構成しているところです」
その答えに対しラリビエー氏は「本当にありがたいことです。嬉しいです。自分たちもとても苦労して一生懸命作ったものなので、いろいろ考えて構成してくださって大変嬉しく思います。ありがとうございます。」と感謝の気持ちを樋口氏に伝えていた。
そしてここで、『サンダーバード55/GOGO』の劇場公開日が2022年1月7日(金)に、その翌日1月8日(土)には、オンライン上映開始が決定したことや、日本版ポスタービジュアルが解禁され、日本を代表するロボットアニメ『機動戦士ガンダム』のメカニックデザインを担当した大河原邦男氏が手掛けたことなどが発表された。
<本イベントで解禁された日本版ポスタービジュアル>
その後話題はファンの方々からの質問コーナーに移る。
ゼロから『サンダーバード』のオリジナルエピソードを作るとしたらどんな話を作るのかというファンの質問に、樋口氏は「本当に、ラリビエーさんがご存知かどうかわからないんですけど、サンダーバード1号と、何かタコみたいな怪獣が絡まっている写真が昔あって、あれやりたいですよね。あとドラゴンと向き合っているサンダーバード2号っていう写真もあるんですけどそれもやりたいです」と回答。
また、今回の新作エピソード用に、もし新しくメカをデザインしていたとしたら、その際苦労した部分を教えてほしい、という質問に対して、ラリビエー氏は「キットバッシングっていって、例えば飛行機のプラモデルがあったとしたら、飛行機を作らずに、そのパーツだけをいくつか取ってまた他のキットと合わせて別の何かを作ってしまうというようなプロセスがあるんです。今回、スキーコプターというのが新しくデザインされたんですけど、『サンダーバード』のシリーズってメカが当時の最先端なんです。なので何をしたかというと80年代のオスプレイを参考にして昔の60年代の人たちは、80年代の未来を見越してこんなふうにデザインしたんじゃないかなっていうのをイメージして作りました」とコメントして会場を驚かせた。
そしてイベントは、ラリビエー氏の「コロナウイルスでどうなるかわかりませんが、日本で映画が公開するまでに、ぜひ、日本に行きたいと思っています。日本のファンのみんなに直接に会いたいと思っています。よろしくお願いします」というメッセージと、樋口氏の「本当に自分の人生の中で『サンダーバード』と関われるというようなことがあるとは思いませんでした。
本当にこれもラリビエーさんたちの頑張りおかげだと思います。本当にラリビエーさんありがとうございます。
『サンダーバード』ファンの皆さんに本当喜んでもらえるような映画をまとめあげていこうと思っております。よろしくお願いします」というメッセージで幕を下ろした。
映画『サンダーバード55/GOGO』は2022年1月7日(金)劇場上映開始、1月8日(土)にオンライン上映が開始される。
〈取材・文・撮影 /水野ウバ高輝〉
◆作品情報
映画『サンダーバード55/GOGO』
2022年1月7日(金)劇場上映開始/1月8日(土)オンライン上映開始
■プロデューサー:スティーブン・ラリビエー
■監督:ジャスティン・T・リー、スティーブン・ラリビエー、デヴィッド・エリオット
■脚本:アラン・フェネル、デヴィッド・グラハム、デスモンド・サンダース
■特殊効果監督:ジャスティン・T・リー、スティーブン・ラリビエー、デレク・メディングス
■音楽:バリー・グレイ スーパーバイザー:デヴィッド・エリオット
■オリジナル製作:ジェリー・アンダーソン、シルヴィア・アンダーソン
■原題:THUNDERBIRDS THE ANNIVERSARY EPISODES(「INTRODUCING THUNDERBIRDS」, 「THE ABOMINABLE SNOWMAN」, 「THE STATELY HOMES ROBBERIES」)
■製作国:英
■配給:東北新社/STAR CHANNEL MOVIES
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