目の障害から左目の視力を失い、今は義眼姿。右目もいつかは視力を失うと宣言を受けている。それでも、自分の生き甲斐や表現者としての可能性を信じて、活動を続けているのが、和太鼓奏者・パーカッショニスト・ダンサー・パーソナリティ・シンガー・役者と多彩な活動を行っている富田安紀子

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 NHKラジオ全国放送、視覚障害ナビラジオ「リンク・スクエア」のレギュラーパーソナリティは5年目になり、リスナーの視覚障害者からは絶大な人気を得ている。また、白杖捜査官を描いた「ラストマン-全盲の捜査官-」で白杖がクローズアップされたことで、白杖シンガーとして富田安紀子にも注目が集まっている。

 富田安紀子は先日、もう見ることもないと思っていた星を、とある旅行をきっかけに約20年ぶりに見たときの感動を、大切な人を思う気持ちに重ねて表現した『星は、なにいろ?』を配信リリース。その歌に感銘を受けた人たちから今、多くの”心を励まされた”声が彼女の元に届いている。少し長くなるが、『星は、なにいろ?』が生まれる背景を語った富田安紀子の言葉に目を通していただきたい。

「この歌詞が生まれた背景にあるのは、わたしが小学校1年生のときに目の病気になり、一度、両目とも失明寸前にまでなったことがきっかけでした。最初は、今の病名まで診察してもたどり着けず、進行がだいぶ進んだときに、ようやく病気が判明しました。そのうえで手術を行った結果、左目の視力は失いましたが、右目は少し良くなり、手術前よりも見えるようになりました。それでも、進行性の病気ということで、いつかは右目の視力も失われてしまうのですが…。その手術をした頃からわたしは、星空を見ることは出来なくなりました。まだお月さまはなんとか見えていますけど、その頃から星空がわたしの視界に映ることはなくなりました。

 あの当時からずっと星空を失った生活の中、今から約3年前、親友と宮古島に旅行に行きました。そのときに、わたしは親友が申し込んだ「星空フォトツアー」に参加。それは、星空と一緒に写真が撮れるという内容でした。わたし自身は星が見えないのはわかっていたので、親友と行った記念として。そのうえで、写真に映っている星空の下に自分がいたんだと思えるだけでも嬉しいなと思って参加をしました。

 あのときは、深夜の3時に集合。撮影のためのセッティングを終えた中、パッと夜空を見たときに、わたしの目にたくさんの飛行機が飛んでいる様が見えたんですね。だから親友に、「こんな時間なのに、たくさん飛行機が飛んでいるんだね」と言ったら、親友が「安紀ちゃん、あれは星だよ」と教えてくれました。その言葉を聞いて、わたし「えっ?!星なの??」と驚いた声を上げていました。

 当時のわたしにしてみれば、もう20年近く星を見たことがなかったし、もう見れないと思っていました。なのに、星空を見れたことでめちゃめちゃ嬉しくて感動すれば、右目はもちろん、義眼の入っている左目からもたくさんの涙が零れていました。

 この命が尽きる前に、もう一度、この目で星空を眺めたいと思っていた願いが、あのときに叶いました。だからこそ、そのときの思いや感動をどうしても形にして残したくて。当時のわたしは、詩として書き記しました。その気持ちを和太鼓の師匠に伝えたときに、「じゃあ、この思いを歌にして残そう」ということから作曲をしていただき、『星は、なにいろ?』が生まれました。

 『星は、なにいろ?』に書いたのは、わたし自身の経験の話。ここへ至るまでのわたしの背景や、そのときのエピソードを知らない方が聴いたら、ただただ星が見えて感動したという歌にしか聴こえないから、きっと感情移入はしにくいだろうなと思いました。だからこそ歌詞をメロディーに乗せるときに、その相手が恋人や家族、今はあえたなくなった大切な人、片思いの相手など、大切な人のことを歌詞に重ねながら思い浮かべられるような内容に変えて書きました」

 富田安紀子の手元には、『星は、なにいろ?』を聴いた人たちから多くの感動の声と同時に、同じ障害者の人たちや、その家族、心の病を抱えた人たちから、いろんな相談事も寄せられるようになった。

 今、富田安紀子は、“自分に絶望し心を閉ざしていった人たち”や、“自分自身を素直に肯定できない、気持ちが後ろむきな人たち”の、“生きる希望”になっている。理由は、彼女自身が障害者である自分を誇りに、本気でみずからを輝かせようと、日々様々な活動をしているからだ。最後に、ふたたび富田安紀子の言葉を届けたい。

 「わたしは今、CoCo Diversity Entertainmentが毎月第三日曜日の14時から開いている「ダイバーシティ・カフェ品川」にせも参加しています。ここには,いろんな障害を持った方々が集えば、健常者の人たちも普通に訪れています。そこにいる人たちは、障害であることを隠すことなく自分を堂々と出していれば、健常者の方々だって、普通にみんなと接している。だからといって気を使っていないわけではなく、たとえば車椅子の方がいたら、当たり前のように後ろから押して手伝うなど、相手が障害者だとわかっているからこそ、当たり前のように自然体でサポートもしてくださる。わたしだって、目が見えなくて困っているときは、当たり前のようにみなさんが支えてくださいます。そういうやりとりが自然と生まれているのが、あの場です。もちろんわたしを含め、当事者は障害者であることを自覚していますけど、そこへ引け目を感じる意識さえ忘れてしまえるといいますか、障害者健常者という意識など気にすることなく接していられるのが、あの空間なんです。次の開催が5月21日になります。そこへわたしも参加すれば、ミニライブという形で、配信したばかりの『星は、なにいろ?』を歌います。

 『星は、なにいろ?』のタイトルに「なにいろ?」とわたしは名付けました。わたしがその色を発見するまでのストーリーはもちろん。「出来ない」ではなく、無理だと思っていたわたしにだって星が見えたように、何事でも、挑戦していくことで可能性の扉が開いていくんだということを感じていただけたら嬉しく思います。実際に、歌を聴いて「勇気をもらった」という言葉を耳にするたび、わたし自身も勇気をいただいています。

 これは事務所の社長が言ってくださった言葉でしたけど、わたしが今の活動を積極的に行うことで、同じ障害を持った、事務所に所属している同じ立場の人たちが、わたしの行動を励みにしながら、同じように積極的に行動すれば、わたしを、活動してゆくうえでの心の指針にもしてくださっていると聞きました。それは、事務所所属の人たちのみならず、同じ障害者を抱えている人たちや、そのご家族の方々も、「富田安紀子のような(積極的に挑戦していく)人になりたい」と指針にしてくださっています。わたしが何かしら行動をすることで、それがみなさんに勇気や希望を与えていけることになるのなら、これからもわたしは積極的に活動を広げていきたい。そう思っています。

 最後に、改めて『星は、なにいろ?』のお話になりますけど。わたしは、星を、大切な人に例えて書きました。聴いてくださる方々も、自分が大切にしている方への思いと重ね合わせて聴いていたたけたらなと思っています。良ければ、聴いた感想を聞かせてください。そして、直接、わたしの歌を聴きに来ていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします」

〈取材・文/長澤智典〉

◆インフォメーション

▼《義眼シンガー》富田安紀子の配信楽曲「星は、なにいろ?」がリリース

https://linkco.re/TBHsx9e8

▼NHKラジオ第二放送【視覚障害ナビ・ラジオ/リンク・スクエア】

https://www.nhk.or.jp/heart-net/shikaku/

▼富田安紀子「星は、なにいろ?」配信デビュー記念ミニライブ

  • 日時:5月21日(日)14時~17時
  • 場所:ダイバーシティ・カフェ品川
  • 住所:東京都品川区北品川1-23-24 上矢ビル

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