私は何を観せられていたんだろう――。
映画を観終わった後も繰り返し頭の中で考えてしまう、そんな映画がこの春、公開されています。それが2022年3月18日(金)より劇場公開をスタートした『映画おしりたんてい シリアーティ』です。『映画おしりたんてい』シリーズはこれまで東映まんがまつりという、短編の併映作品として劇場版が製作されてきましたが、今年はついにシリーズ初の単独長編が公開されることになりました。
今作ではゲスト声優にまさかの福山雅治さんを迎えていることでも話題になっており、おしりたんていのことをよく知らないという人の中にも、今年の映画が気になっている人も多いのではないでしょうか。
そこで、おしりたんていをよく知らないという人にも、「おしりたんていってなんだよ」って話と、この『映画おしりたんてい シリアーティ』がどれだけ度肝を抜く映画なのかをお教えします。
◆「おしりたんてい」とは?
「おしりたんてい」はもともと、株式会社トロルと株式会社FLAMAが共同で2011年に絵本アプリとしてリリースしたキャラクターでした。
どうぶつの住人たちが暮らす世界に住んでいる、なぜか顔面がおしりの探偵“おしりたんてい”。奇抜な見た目に反して、性格は紳士的で冷静沈着。街の住人からの依頼や事件に遭遇しては、得意の推理で解決していくことで、人望も厚いです。
そんなおしりたんていを主人公に、子供達が触って遊べるインタラクティブな絵本として登場し、翌年には早くも実際の絵本シリーズの刊行がスタートし瞬く間にブレイク。2017年時点で累計150万部を超えるほどの人気作へと成長し、ついにこの年にYouTubeで先行してアニメ化を果たし、翌年2018年5月からは、NHK EテレにてTV放送をスタートします。
このTVアニメ化が決定的な大ヒットへと結びつき、毎年アニメの新シリーズが作られたり、映画が複数本製作されるにまで至ります。
◆アニメ「おしりたんてい」は何が面白いのか?
アニメ「おしりたんてい」シリーズの面白さは大きく分けて2つあります。
まず1つ目は、元となった絵本アプリ同様、アニメシリーズにもインタラクティブな要素を取り入れている点。迷路であったり、おしりマーク探しであったりと、謎解きやクイズが物語と並行して登場します。ただ、物語を追わせるだけでなく、探偵ものらしく頭を使わせるギミックが設けられています。
そして2つ目がシュールなギャグ。
大人からしたら、おしりたんていだなんて、出オチじゃないの?と思ってしまうところなのですが、見た目だけでなく言動で見事にじわじわと笑わせてきます。事件で怪しい場面に遭遇すると「においますね」というお決まりのセリフが用意されていたりと、直接作中でおしりであることのおかしさにツッコミは入らないのに、おしりであることはやたらイジり続けるスタイルなのです。
挙句の果てには、おしりたんていが犯人を追い詰める時に必殺技を使うのですが、その必殺技というのがなんと放屁なのです。「失礼こかせていただきます」と呟いたかと思えば、急に顔が劇画調になって、ものすごい風圧の放屁らしきものを顔面から放ちます。これを放つと、敵味方関係なくその悪臭によって、おしりたんていと同じく劇画調になるというのがお決まり。その悪臭の強烈さを言葉などで語らせず、顔で語らせるという、下品なのか上品なのかよくわからない独特の演出を持ち味としています。
◆『映画おしりたんてい シリアーティ』は恐ろしい映画だ
そんなアニメシリーズを踏まえて、今回満を持して登場した長編『映画おしりたんてい シリアーティ』は、面白さの2つ目であるシュールなギャグを、徹底的に研ぎ澄ました作品となっています。
タイトルにもなっているシリアーティとは、この映画で初めて登場となる“最強の敵”。世界中で事件を起こしている冷酷な犯罪者であり、おしりたんていが住む街にある「お・パーツ」を盗むべくやってきます。
シリアーティが付けている覆面が明らかに下着にしか見えていなかったり、見た目ですでに妙なオーラを放っているのですが、スペックもかなり高めです。おしりであるが故なのか、なんとおしりたんていが得意とする放屁攻撃をシリアーティも使えるのです。怪獣同士が口から熱線を吐いてぶつけ合うが如く、おしりたんていとシリアーティが放屁をぶつけ合う姿はまさに映画。未だかつてこんな対決シーンがあっただろうかと、興奮と困惑が入り混じった未知の感覚がわきあがります。
そして極めつけが、よりにもよってこのシリアーティ役を演じるのが、冒頭でも紹介した福山雅治さんなのです。見た目はどう見てもおしりでしかないマヌケなキャラクターなはずなのですが、福山さんの良い声が乗ることで、威厳やカリスマ性、色気が増して、しっかりカッコいいキャラクターになってしまうのだから恐ろしい!
このシリアーティというキャラクターの異常性はポスターや予告編を観ても一目瞭然なはずなのに、映画を観るとさらにその異常性が増幅させられていて、それでいて作中では一切ツッコミが入らないという違和感に、大人ほど衝撃を受けることでしょう。
そしてツッコミ不在であるがゆえなのか、この映画のラストシーンは行くとこまで行って、妙なカッコ良さが染みるまさかの着地を迎えます。しっかり「これは確かに映画だ」という余韻を残すまさかの着地に、きっと多くの人が言葉を失うか、もしくはあなたがツッコミを入れるのではないでしょうか。この『映画おしりたんてい シリアーティ』という存在が、本当に事件となっています。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
©トロル・ポプラ社/2022「映画おしりたんてい」製作委員会