今年も夏がやってきました! といってもこの記事を書いているのはまだ7月の初旬。人によっては、夏を感じるタイミングではまだないのかもしれません。
皆さんが夏を感じるのはどのタイミングでしょうか。熱い日差しを感じたら? 夏休みが始まったら?私が夏を感じるタイミングはいずれでもありません。私が夏の到来を感じるのは劇場版アンパンマンが始まったら!
というわけで今年も初夏恒例の映画アンパンマンの公開がスタートしました。30作目となるアニバーサリー作品、2018年の映画アンパンマンは『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』です。
アニメーション映画大好きな私は、今年もキッズたちとそのお母さんお父さんで賑わう中、アラサー男性一人で劇場へ乗り込んで参りました。そんなわけで今年のアンパンマンがどんな作品だったのかを紹介します。
Back to the Basic アンパンマン
『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』がどんな映画かなのかを一言でいうとアンパンマンの原点に立ち返るような物語。
アンパンマンのルーツである“いのちの星”をテーマにした物語となっている他、主題歌の「アンパンマンのマーチ」の歌詞にもある“何の為に生まれて何をして生きるのか”という問いに対してアンパンマンにとっての答えを描いていくような物語となっています。
アンパンマンってどういう人物だったのか。アンパンマンがどういう魅力を持っているのか。ゲストキャラクターのクルンの目線から、アンパンマンという物語の根源的な部分を改めて体験するような物語でした。
“ばいきんまん”は何の為に生きるのか
そして今年の映画のもうひとつのポイントが“ばいきんまん”です。
ゲストキャラクターのクルンは、アンパンマンだけでなく、ライバルのばいきんまんの人となりも体験するシーンが用意されています。
ここで浮き彫りになるのがアンパンマンとの違い。アンパンマンと同じくばいきんまんにとっての“何のために生まれて何をして生きるのか”が描かれるのですが、文字通りその身を捧げてまで人を助けるアンパンマンに対して、恨みでも快楽でもなく、ひたすら義務としてアンパンマンを倒すことが生きる目的となっていることがばいきんまんの口から明言されます。
なんだか、アンパンマンに比べて浅いような気がするばいきんまんの生きる意味。ですが面白いのが、一見短絡的にも思えるばいきんまんの生きる意味を、今回の映画では説教臭く否定はしないのです。
ばいきんまん自身がストーリー中、一瞬自身がなぜそこまでアンパンマンを毛嫌いするのかを自問する程度で終わるところが、押しつけがましくなくて気持ちのいいバランスとなっています。
ばいきんまんはかけがえのない存在?
そんなばいきんまんの目的を足蹴にしない展開はもしかしたら、制作陣も意図的だったのかな? と思ったりもします。というのも、アンパンマンの作者であるやなせたかし先生は自著『人生、90歳からおもしろい!』(新著文庫)にてこう語ってます。
生きるということはバイキンとの戦いを避けて通ることは不可能!
それではバイキンを全滅させればいいのかといえば、その時は人間そのものも死滅してしまう。パンも酵母菌、イースト菌がなければつくれない。しかしインフルエンザ菌とかいろいろ怖いバイキンもいて戦わなくてはいけない。健康であるということは善玉菌と悪玉菌のバランスが良好な状態。
これは国家の成立についてもいえることで、独裁、専制はファシズムの危険がある。
だから、アンパンマン対ばいきんまんの戦いは永久にくりかえされるわけで、そこにバイタリティーが生まれる。
実はばいきんまんがアンパンマンと戦う存在である、という宿命に対して、しっかり意味が乗っていることを先生は見出しておりました。ばいきんまんは元からそういう意図で生み出したキャラクターではないことも本では語られているのですが、先生が見出したばいきんまんの存在意義からすると、ばいきんまんはアンパンマンを倒すという目的を失ってはいけない存在であり、また、アンパンマンとばいきんまんは戦い続けなければいけない宿命にある存在なのです。
つまり、ばいきんまんが特に具体的に理由もなくアンパンマンを倒すことに執着していることにも、実は意味があり、その執着が“生きる”ことにつながるのがアンパンマンという物語なのです。
まさに根本的なアンパンマンの世界観を描いている作品として、『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』は30作目という節目の物語としてふさわしい一作なのかもしれません。そしてそんな相容れない存在として生まれてしまったアンパンマンとばいきんまんの関係を改めて思うと、『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』のクライマックスはより深みが増します。
相容れない存在であるはずの二人ですが、この映画の終盤では、ばいきんまんがアンパンマンにある形で歩み寄る瞬間が用意されているのです。
戦い続ける運命にあるアンパンマンとばいきんまん。そんな二人でも共に喜びを感じられる瞬間があるのかな……なんて思える今回の映画は、二人が仲良く手を取りある瞬間を求めているアンパンマンファンであり、ばいきんまんファンでもある私としては、どこか愛おしさも感じてしまいます。
ぜひ、クライマックスでばいきんまんがどんな行動を起こすのかを楽しみに劇場へ足を運んでみて欲しいなぁと思います。
――大人になるとアンパンマンの映画を見に行くなんてことはなかなかハードルが高いのですが、改めてアンパンマンという存在を感じる作品として、今回の映画は大人でも見応えがあるのではないでしょうか。
暑い夏。一層疲れが増す季節ではありますが、アンパンマンとばいきんまんが今回の映画で、“生きる元気”をかつて子供だった私たちにも与えてくれますよ。
(Edit&Text/ネジムラ89)
2018年えいが 『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』公式サイト
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