<この記事にはTVアニメ『阿波連さんははかれない season2』のネタバレが登場します。ご注意ください。>

 新シーズンを迎えて新展開を経ていく作品は多々あれど、TVアニメ『阿波連さんははかれない season2』が絶妙な変化を遂げています。

 2022年に第1期が放送されたときには、思い込みが極端なライドウと人との距離感が掴めない阿波連(あはれん)れいなの同級生の二人が仲良くなっていく“ラブコメディ”として展開されてきた作品でした。

 しかし今季より放送の『season2』では二人の恋愛だけを描くだけでなく、そもそもタイトルにある阿波連さんの“はかれなさ”に変化が生まれてきています。阿波連さんが全然“はかれ”ているのです!

◆2人の物語から「みんなの物語」へ広がってきて、もはや別物に?

 第1期では本編への登場の割合からしてもTVアニメ『阿波連さんははかれない』はライドウと阿波連さんの二人だけの物語でした。しかし、放送中の『阿波連さんははかれない season2』では主軸こそ二人の物語ではありつつ、二人の周囲にいる友人たちも含んだ物語へと変わってきています。

 『season2』の特徴として、第1話から新キャラクターの転校生として玉那覇りくが登場しています。恋愛が軸だった作品ならライバルなどが登場したりといった展開は定番ですが、本作ではまったくそんなことはなく、実は友達づくりに不器用なりくが疎遠になっていた阿波連さんと再び親しくなっていく……、という友人関係を広げるようなキャラクターの役割を担っていきます。それどころか、りくもまた人との距離感に不器用で“はかれなさ”では阿波連さんを食うほどの活躍をしています。

 りくの登場だけでなく第1期から登場していた石川や佐藤といった、二人の周りのモブキャラクターとしての扱いが多かった二人もこの『season2』では、実は二人の間にも“片思い”が生まれていたというドラマが発覚したりと、第1期ではやって来なかったことへと踏み込んでいきました。

 これまでは“ラブコメディ”だったストーリーが、『season2』では二人以外のキャラクターの物語へと広がっていくという珍しい変化を遂げています。恋愛は順に進展していくものなので、友情という軸から恋愛の軸へとスライドしていく例は多々あれど、その逆の傾向が強まっていくのは珍しいです。

 これはおそらく製作陣も意識的にやっていることで、オープニング映像の演出からも第1期からの変化がはっきりと出ています。

 第1期ではライドウと阿波連の二人にスポットが当たった恋愛作品としての色が強い映像だったのに対して、『season2』のオープニング映像では二人だけでなく周囲の友人たちがそれぞれ迷いながらもみんなのもとに集っていくというというストーリーがほのかに描かれていて、意図的に“友情色”が強まっていくことが示唆されています。

◆阿波連さんの描かれ方にも実は変化が? 人間関係がどんどん器用になってきた!?

 このような『阿波連さんははかれない』が独特な変化を遂げているのは、ライドウと阿波連さんの二人の関係にライバルが現れたり、破局しかけたりといった恋愛物では“あるある”のドラマが用意されていない、というのが大きいでしょう。

 「じゃあ二人の恋愛の進展はないのか」といわれればそんなこともなく『season2』でははっきりと二人……、特に阿波連さんの描かれ方に変化が生まれています。これまでは人との距離が“はかれ”ていなかった阿波連さんが全然“はかれ”てるのです。

 第1期では物理的な意味でも距離感の詰め方が極端だった阿波連さんの“はかれなさ”と、それを独自の思い違いで受け止めていってしまうライドウの妙なパズルのピースのはまり方が恋愛としてもギャグとしても面白いものになっていました。

 しかし『season2』ではそんな阿波連さんの“はかれなさ”はむしろ定番となるどころか、前述のような転校生のりくの登場により、周囲との距離感のはかり方がむしろ上手くなってきます。

 その結果、第1期では先にやっていそうな体育祭や文化祭といった学校イベントを描いた回がやっと『season2』で登場します。阿波連さんがはかれだしたことによって、ある種どんどん正統派な学園モノ作品になってきます。

 決定的なのが第11話「文化祭じゃね?」で、このエピソードではこれまでの主人公二人の思い違いコメディとははっきりと別展開を迎えています。

 うっかりバスで寝過ごして学校から遠くへやってきてしまった阿波連さんが、改めて人との距離感がはかれていないと省みるところへライドウが「そんなことない」と示してくれたり、阿波連さん自身もライドウだけでなく周囲と友人を映像作品にして友情を確かめ合ったりと、この回では“コメディ”要素が薄まり、真面目に阿波連さんが“はかれだしている”ことがはっきりする回でした。

 タイトルとは裏腹に『season2』は結局阿波連さんがひたすらにはかれている作品だったのだと、終盤を前に思い知ります。

 

 ──いわゆる“●●さん”系と呼ばれるような特徴的な性格の男女二人のラブコメディ作品はもはや一ジャンルとしてたくさん登場していますが、それらとの差別化でギャグに比重をおきつつ正統派な恋愛へと紡いでいったのが第1期だとしたら、この『season2』は恋愛コメディの体裁を取りつつ、むしろ王道の学園友情モノへと紡いでいく作品だったのです。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

 

※サムネイル画像:https://aharen-pr.com/より 『TVアニメ「阿波連さんははかれない season2」キービジュアル ©水あさと/集英社・BILIBILI』


TVアニメ『阿波連さんははかれない season2』
©水あさと/集英社・BILIBILI

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