『週刊少年ジャンプ』のバトル漫画では、『幽☆遊☆白書』の浦飯幽助のようにものすごい修業をして強くなるも、実は親がエリートだったという設定の主人公が多いです。

 次の4人の主人公は親が強キャラという設定がないにもかかわらず、強くなったキャラクターたちです。彼らが強くなれた要因は、いったいどのようなものだったのでしょうか?

14歳から人斬りの道を歩み始めた緋村剣心──『るろうに剣心』

 緋村剣心は幼少期から天涯孤独の身で、人買いに捕まったうえ山賊に襲われて、1人生き残ったところを後の師匠となる比古清十郎に救われました。剣心は剣術の素質は高かったものの、彼の親が優れた剣士だったという設定はありません。

 両親についての情報はほとんどなく、当時の流行り病コレラで他界したということです。剣心は清十郎のもとで飛天御剣流の修業を受け、世の中の動乱を終わらせるため山を下り、14歳で人斬りとしての道を歩み始めます。

 もし親が有名な剣士であったなら、剣心の人斬りとしての名声が高まる過程で大久保利通ら幕末の重鎮から「●●の子」として認識されていたハズ。そういったやり取りが作中になかったということは、剣心が強くなれたのは良い師匠に巡り合い、命を賭けた斬り合いの中で技を磨いたからでしょう。

 剣心は当初30歳だったものの、担当編集から「少年漫画で三十路の主人公は……」と言われて、28歳という設定になりました。つまり、清十郎のもとを去ってから14年間、命の奪い合いが当たり前の時代をがんばって生き抜いたわけです。

 ただ、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』がスタートした時点で、剣心は既に幕末最強と言われる伝説の人斬りとなっていました。剣心のこういった努力は、物語が始まる前の設定になります。

 そのため、再び清十郎のもとに戻って飛天御剣流の奥義を習うまでは、神谷道場で買い出しや家事をこなす涙ぐましい努力のほうが目立っていたかもしれません。

◆攘夷戦争で白夜叉と恐れられた坂田銀時──『銀魂』

 坂田銀時の経歴は緋村剣心と似ている部分が多く、本人曰く「家族はいない」そうです。天涯孤独の身だった幼い銀時は吉田松陽に拾われて育てられますが、銀時の強さは親譲りではなく、やはり良い師に拾われたことが大きいでしょう。

 坂田銀時のモデルと言われている坂田金時は、早くに父を亡くしており、母息子で暮らしていくも母も幼い頃に亡くなりました。そのため、銀時も両親を早くに亡くして、戦場で死体の持ち物をはぎ取りながら生活していたと思われます。

 また、銀さんが松陽と初めて会ったのが、無数の死体が転がる戦場でした。そのため、両親は戦争で亡くなった可能性もあります。いずれにしろ、両親を早くに亡くしており、松陽のもとで勉強や剣術を学びました。

 そして、幕府に捕まった松陽を救出すべく、桂小太郎・高杉晋助とともに攘夷戦争に参加。敵味方から「白夜叉」と呼ばれ、恐れられるほどの存在となりました。

 剣心と同じように、命のやり取りが日常茶飯事の状況で育った銀時も生き抜くために必要とされた努力は並大抵のものではなかったでしょう。ただ、銀時も物語が始まる前の設定となり、『銀魂』がスタートした時点ですでに27歳でした。

 万事屋としての銀時は、基本マイペースで面倒くさがり、努力とは無縁の性格です。しかし、守るべきものを守るために必死な姿を見せるところが魅力で、決めるところはビシッと決めてくれます。

◆紛争地帯でゲリラ兵として育った冴羽獠──『シティーハンター』

 冴羽獠は飛行機の墜落事故によって、幼い頃に紛争地帯に投げ出されています。その事故で失った両親の素性は謎であり、内戦国のジャングル地帯で海原神に拾われてゲリラ兵として育て上げられました。

 時代は違えども銀時と同じく戦場で育ち、もはや努力の域を超え、生き残るために必死に戦っていたのだと思われます。兵士としての師匠であり、父親のように慕っていた同じ日本人である海原に出会えたことが、獠の強さに繋がったといえるでしょう。

 その後、アメリカに渡って世界一のスイーパーと謳われるほどになりました。ただ、これも『シティーハンター』が始まる前の設定となります。

 墜落事故が物心つく前であったため獠は自分の年齢を知らず、20歳だと言い張っていました。さすがにそれでは香よりも若くなってしまうということで、作中で獠の誕生日を祝う際に年齢を決めて30歳(仮)という設定に。

 獠は普段おちゃらけた感じで女性ばかりを追いかけていますが、射撃練習はよくやっており、香がいないときには筋トレもしています。あまり描かれていませんが、スイーパーとして体を鍛える努力を怠ることはありません。

◆努力で突き進むペンチメンタル三雲修──『ワールドトリガー』

 三雲修の母・香澄は姉と間違われるくらい外見が若いものの、中学生の息子を持つどこにでもいるような普通の母親であり、父親は海外に単身赴任中で橋を造る仕事をしています。

 修はボーダーの戦闘員として重要なトリオン量・身体能力が低く、戦闘センスもないので間違いなく才能には恵まれていません。

 実際に戦闘では弱く、ボーダー部隊のB級以上の隊員で11で勝てる相手は少ないです。三雲の強さはこうと決めたら何としてでも突き進む頑固さと、自分の弱さを知っていることでしょう。

 同じ玉狛支部の烏丸京介が直接の師匠ですが、強くなるために必要と判断すればシューターランク2位の出水公平、オールラウンダーの嵐山准、同い年の木虎藍など誰にでも教えを請います。

 また、未来予知のサイドエフェクトを持つ迅悠一、何かと三雲のことを気にかけているアタッカーランク2位の風間蒼也からも度々アドバイスを受けています。

 相手の言っていることが正しくても「それはそうなんですが……」とゴネて、自分が強くなるために必要な方策を押し通そうとします。これは一見相手を肯定しているようですが、「あなたの言うことは正しいですが、自分は全く意見を変える気はありません」という三雲の強い意志が込められています。

 そして、ボーダーの入隊試験で不合格になった際は、基地まで乗り込んで直談判しようとペンチで有刺鉄線を切断して警戒区域に侵入しました。ファンの間でペンチメンタルと呼ばれ、このすさまじいほどの頑固さと行動力は恐れられています。

 また、自分の弱さを自覚しているからこそ知恵を絞り、工夫をこらすことを怠りません。その成果もあって、ボーダーのランク戦ではトリオン量が少ないことを逆手にとってシューターランク1位の二宮匡貴を出し抜き勝利しました。

 ボーダー本部がある三門市は、ネイバーから侵攻されれば戦場と化します。ネイバーとの戦いで命を落とすこともあり、実際に三雲は死にかけました。

 やはり三雲も戦場を身近に感じる状況で育っており、命を失うかもしれない修羅場を経験しています。ただ、才能に恵まれていない三雲が、現在進行形で強くなれている最大の要因は『ワールドトリガー』独自の戦闘システムにあるでしょう。

 トリオン体で戦っていればダメージを受けても、本人は死んだりケガをしたりすることはありません。そのため、ボーダー隊員同士で命をかけた模擬バトルを繰り返しでき、弱い隊員でも何度もやり直しが可能です。

 このシステムがあるからこそ、三雲のような戦闘の才能に乏しい主人公でも強くなれているのでしょう。ただ、そんな三雲も親から譲り受けているものがあります。

 三雲の母は彼曰く「母よりプレッシャーのある女の人には会ったことがない」ほどの女性です。旦那(三雲の父)とは大学卒業と同時に結婚、彼女のほうから猛烈にアタックし続けた結果でした。

 死にかけた息子がボーダー隊員を続けたいと言っても、「好きにやりなさい。あなたの人生だもの」と言ってのけるメンタルの強さです。そのため、三雲の頑固さは、親から引き継いでる可能性が高いと思われます。

 両親の登場は少ないので、今後明らかになる事実もあるかもしれません。しかし、現時点で三雲はものすごい努力と行動力で結果を出しているといえるでしょう。

 三雲もこれからネイバー遠征に行って戦闘経験を積めば、剣心たちと同じようにアラサーになるころには最強キャラになっているかもしれません。

 

 ──取りあげた4人には『僕のヒーローアカデミア』の緑谷出久、『呪術廻戦』の虎杖悠仁のように、能力を引き継いだり取り込んだりした設定もありません。そのような親が強キャラ設定じゃない主人公が強くなるためには、戦場で育って来たという環境が重要のようです。

 また、三雲以外は少年漫画にしては年齢が高いアラサー主人公であり、強くなるためには努力に費やす月日と経験が必要なのかもしれません。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。

 

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