4月を迎えて今季のTVアニメも着々と放送が始まっていますが、この春アニメとして名を連ねているはずの『僕のヒーローアカデミア』や『鬼滅の刃』などの長期シリーズタイトルは本格的な放送が実は始まっていません。近年の長期シリーズ作品の戦略性がこれらのタイトルから見えてきます。

◆『ヒロアカ』や『鬼滅』は遅れてスタート その理由とは?

 今やTVドラマのように3ヵ月単位の枠での展開が当たり前のようになってきたTVアニメですが、長期のシリーズアニメーションの『僕のヒーローアカデミア』や『鬼滅の刃』がそれらとは違った特殊なペースでの放送をしようとしています。

 今回で7期目を迎えようとしている『僕のヒーローアカデミア』は、4月より放送枠こそ獲得しているのですが、本格的な新エピソードの放送は5月4日からの放送を発表しています。

 4月中は『僕のヒーローアカデミア Memories』と題して、7期をより深く楽しめるようにこれまでのエピソードに新規シーンを交えて、今後の活躍に注目のキャラクターを振り返る特別版を放送しています。

 また『鬼滅の刃』についても、『竈門炭治郎立志編』、『無限列車編』、『遊郭編』、『刀鍛冶の里編』に続く第5シリーズ目として『「鬼滅の刃」柱稽古編 』を5月12日から放送開始を発表しています。

 『刀鍛冶の里』での戦いを経て、禰豆子の変化や痣の謎などが明らかになり、鬼との決戦を目前とする鬼殺隊の様子が描かれるシリーズです。

 今季のアニメーションの大半がいずれも4月には放送を開始しているのに、これらの長期シリーズが息を合わせたようにひと月近くズラして新シリーズを放送します。

 これは『僕のヒーローアカデミア』の原作漫画が現在、作品そのもののクライマックスを迎えていて区切りが難しかったり、既に原作漫画が完結していて最終決戦目前の展開まで迎えている『鬼滅の刃』にとっては、物語の完結までを見据えた放送のペース配分を取っている可能性があります。

 もしかするとどちらの作品も遅れて放送開始となった分、従来の放送シリーズよりも幾分か放送回数自体が少ないものになるかもしれません。

◆『ジャンプ』漫画出身のTVアニメが長年抱えていたジレンマの解消法

 そもそも『ドラゴンボール』や『SLAM DUNK』など『週刊少年ジャンプ』の漫画原作からTVアニメ化を果たした作品は、人気を獲得し放送が長期化する反面、長年ある問題を抱えていました。

 それはアニメ化するための原作のエピソードを放送し尽くして、原作漫画にアニメーションの内容が追いついてしまうという問題です。

 多くのジャンプ作品はこの問題に対してオリジナルエピソードを挿入していくことで間をつなぐといった対策を立ててきました。

 TVアニメ『銀魂』では、この原作に追いついてしまう問題をそのままギャグとして作中で明言するなど自虐的に表現したり、長期放送作品を多く輩出してきたジャンプ漫画原作ではすっかりよくある悩みの種となっていたわけです。

 そんな風潮が改善されたのが2010年代です。2010年代以降、人気作品でもTVアニメをシリーズごとに分割して放送することが多くなっていきます。

 まさにこの頃にスタートした『ジャンプ』出身のTVアニメ化作品の『僕のヒーローアカデミア』や『鬼滅の刃』などはどれだけ人気であっても一定の期間で放送をいったん終えて、TVアニメを1年以上放送しない期間を作っていました。このインターバルが生まれることで、かつてあった「原作に追いついてしまう問題」は解消されていきます。

 唯一例外として、継続して放送枠を維持し続けているのが『ワンピース』です。かつては原作内容に迫ってくる度にTVアニメオリジナルのシリーズなどを放送していた『ワンピース』ですが、近年の原作内容を重視する傾向に合わせてなのか、最近は以前のようなオリジナルエピソードの放送回を減らし、その分総集編回を定期的に放送したり、本編とは異なる解説コーナーを設けることで原作漫画に追いつきすぎないようにしています。

 

 ──作品自体のクライマックスを迎え、区切りの難しいタイミングとなっている『僕のヒーローアカデミア』と『鬼滅の刃』。

 新シリーズの放送開始が他のTVアニメと比べて遅れているのはファンにとっては残念ですが、原作漫画の今後の展開を加味して、気持ち良いペース配分になるようにきっと調整しているのでしょう。今回のシリーズが絶妙な体験となるように考えてくれていると期待して、もう少しだけ放送の開始を待ちましょう。

〈文/ネジムラ89〉

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《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレターを配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『アニプレックス チャンネル』より

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