『ガンダム』も『ドラえもん』も放送された当初から、人気があったわけではなく、まさかの放送打ち切りの目にあっていました。
そのため予定の話数が制作されませんでしたが、今では国民的アニメとしての地位を確立しています。根強い人気によって、打ち切りというどん底から復活した作品たちの魅力とは……。
◆『機動戦士ガンダム』──主人公が戦死する予定だった!?
シリーズとして45年も続いている『機動戦士ガンダム』(以下、ガンダム)ですが、放送中に打ち切りが決定した作品として有名です。
2019年にNHKのBS1スペシャルで初回放送された『ガンダム誕生秘話 完全保存版』 での制作スタッフたちの証言によると、制作現場は人手が足りず、おもちゃなどの関連商品の売れ行きも悪かったとのこと。そして視聴率も苦戦したことが、打ち切りの原因のようです。
その後、再放送をくり返すたびに視聴率は上がっていき、再構成した劇場版が作られ、現在まで続く大人気シリーズになっていきました。
『ガンダム』は52話で最終回を迎える予定でしたが、実際の放送話数は43話。富野由悠季監督が構想していたメモによると未登場のMSなども用意されていたようです。
さらにメモによると最終回ではアムロが命を落とすことも示唆されており、もしも本来の話数である52話で作られていたら、その後に続くシリーズはまったく違ったものになっていた可能性もあります。
アムロが一年戦争の最後に命を落とす展開は富野監督が書いた小説版の『機動戦士ガンダム』でも描かれており、アニメで実現していたら主人公が最後に脱落する衝撃的な作品になっていたことでしょう。
◆『宇宙戦艦ヤマト』──25話かけてイスカンダルへ行ったのにたった1話で帰還
『宇宙戦艦ヤマト』も視聴率がふるわず、打ち切りが決定した作品です。本来の予定話数は39話で、実際に放送されたのは26話でした。
そのため25話かけてイスカンダルに到着して、残りの1話で地球にとんぼ返りする急展開。
裏番組に『アルプスの少女ハイジ』や『SFドラマ 猿の軍団』があったことが苦戦した原因でしょう。そして『ガンダム』同様に再放送で視聴率を伸ばして、再編集版の劇場版が上映されます。
東映株式会社代表取締役会長の多田憲之 さんは北海道支社で働いていた当時、テレビでの商業的な失敗によって打ち切られ、劇場版の『宇宙戦艦ヤマト』の配給先がなかなか決まらない中、東映が配給に踏み切ったことをふり返っています。
驚くべきはセル画のプレゼントを目当てに、徹夜組のファンが行列を作るという日本初の事態が起こったことです。
特典や初日舞台あいさつによるキャンペーン、ラジオの『オールナイトニッポン』で宣伝するメディアミックスなど、集客についても先がけ的な取り組みをして、再放送によって火がついたブームをしっかり軌道にのせた好例と言えます。
◆『宇宙戦士バルディオス』──まさかの人類滅亡エンド!?
『宇宙戦士バルディオス』(以下、バルディオス)は打ち切りにより、壮絶な結末を迎えたロボットアニメとして知られています。
全39話の放送を予定していましたが、アニメ雑誌での露出の少なさやスポンサーの経営悪化の影響で苦戦し、31話の放送で打ち切りとなりました。
地球が水没して人類が滅亡したかに見える場面で、「完」の文字が出る演出はトラウマ物で、放送終了直後から問い合わせが殺到。
一方最終回の放送に先がけて、近代映画社のアニメ雑誌、『ジ・アニメ』1981年3月号 VOL.17では、『バルディオス』の打ち切りによって未放映になってしまった39話までの内容をダイジェストで特集しています。
ファンの不満をすっきり解消とはいかなくても、記事自体の評判はよく、この号の『ジ・アニメ』はよく売れたそうです。
『バルディオス』は、近年ではゲームの『スーパーロボット大戦』シリーズに参戦するなど、脚光を浴びる機会も増えています。
◆日本テレビ版『ドラえもん』──再放送は絶望的!?
現在放送されているテレビ朝日系の『ドラえもん』が始まる前に放送された、日本テレビ版『ドラえもん』。こちらも視聴率に苦戦して打ち切りが決まった作品です。
放送時間が『マジンガーZ』と重なっていたことも分が悪かったのでしょう。
ドラえもん役は『平成天才バカボン』のバカボンのパパ役でおなじみの富田耕生さん。2クール目からは、『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空などで知られる野沢雅子さんでした。
放送中にドラえもんを演じる役者が性別まで変わるという、なかなか聞いたことのないテコ入れが起きています。富田耕生さんは『マジンガーZ』で敵役のDr.ヘルの声だったので、ドラえもんのイメージにさわりがあったのかもしれません。
『ドラえもん』は1974年から単行本が刊行されて読者層が広がり、1977年に創刊された『月刊コロコロコミック』によって安定した人気を持つ作品になりました。
日本テレビ版の『ドラえもん』については当時の制作主任だった下崎闊さんが、真佐美ジュンの名前で公式サイトを開いています。2クール分のアニメのデータが書かれているこの公式サイトは、ネット上の誤情報を訂正する意図も込めて作られた模様です。
再放送については絶望的な状況で、『ドラえもん』の著作者である藤子・F・不二雄先生が日テレ版を好ましく思っていなかったこともあり、再放送の許可を出さないまま他界されました。
一方で藤子先生は自作品についても、単行本への収録を拒否したままのものがあります。しかし近年の全集にそれらの作品が収録されていることを考えると、日本テレビ版の『ドラえもん』が再放送される可能性もゼロではないかもしれません。
──本来予定されていた結末とは違う終わり方をしたとしても、たくさんのファンがいたから、今の時代にも語りつがれています。これから放送されるアニメの中にも、ファン・視聴者によって将来名作となる作品が生まれるはずです。
〈文/雨琴 編集/諫山就〉
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