昭和の時代から令和の時代へのタイムスリップを題材とした、ドラマ『不適切にもほどがある!』が話題を呼びましたが、TVアニメ『アストロノオト』は、『めぞん一刻』などのオマージュが見られ、X(旧Twitter)などのSNSで話題となっています。
昭和を思わせるアニメは、『アストロノオト』だけでなくほかにも存在し、中には出演声優が懐かしの「あの曲」を歌うなど、昭和の時代に青春を過した人にはたまらない演出がなされた作品もあります。
◆『アストロノオト』──降幡愛さんのMVは昭和のオンパレード
降幡愛さんが歌う『アストロノオト』のオープニングテーマ「ホホエミノオト」のMVは、昭和の歌番組やお料理番組のパロディがふんだんに盛り込まれています。
画面のサイズや、時刻表示、テロップの字体に料理番組の段取りなど、昭和の時代を知っているのなら「そうそう、そうだった!」と懐かしさを感じてしまうはずです。
さらに、コンロがガスコンロではなく、電気コンロというのも懐かしさを匂わせています。
この主題歌の作詞は、『ドラゴンボールZ』の「CHA-LA HEAD-CHA-LA」やシブがき隊の「Zokkon命-Love-」など、数々のアイドルソングやアニメソングを手がけた森雪之丞さんによるもの。
『アストロノオト』のキーワードを散りばめた宇宙的な歌詞は、さながら谷川俊太郎さんの『二十億光年の孤独』を思わせる期待感があり、今後の展開を暗示しているようです。
◆『かんなぎ』──中山美穂さんの「あの曲」のオマージュ
『かんなぎ』のオープニングテーマ「motto☆派手にね!」は、中山美穂さんの「「派手!!!」」のオマージュだと考えられます。
「「派手!!!」」は中山美穂さんが中山美穂役で出演したドラマ『ママはアイドル!』(TBS)の主題歌で、歌詞の内容も派手すぎて悪目立ちすることをたしなめるような、ひめやかに愛を育むことを応援する歌です。
一方で『かんなぎ』の主題歌「motto☆派手にね!」は、タイトル通り内気で地味になりがちな人に対し、もっと派手にアプローチしていくことをすすめる内容なので真逆のアプローチになっています。
曲調も80年代アイドルソングらしい仕上がりで、山本寛監督が直々に作詞するだけのこだわりが反映されているといえるでしょう。
もちろんオープニングの映像でも監督のこだわりをうかがい知ることができ、アイドルを取り巻く芸能界の風景を描いています。
のちに『Wake Up, Girls!』でアイドルアニメを作ったことや、川島海荷さん主演の映画『私の優しくない先輩』を撮ったことなども考えると、山本監督にとってアイドルがとても大切な存在ということが伝わってくるのではないでしょうか。
◆『夏のあらし!』──あの懐メロを声優が歌唱!
『夏のあらし!』のオープニングテーマ「あたしだけにかけて」は、全13話の間に毎回サビ以外の部分の歌詞が変わる13番まである曲です。
その変化する歌詞の中には、昭和の歌謡曲や懐メロを思い起こさせるキーワードが散りばめられています。
歌っている面影ラッキーホール自体が、昭和歌謡のパロディソングを作っているバンドでもあるので曲のクオリティーも非常に高いです。
映像も実在するレコードジャケットのポーズをキャラクターたちが次々に再現していくもので、網羅的にすべての元ネタを発見できる気がしないほど多数の構図が登場しています。
また、タイムリープ物でもあるので、各回のサブタイトルが懐メロの曲名になっていたり、挿入歌として、山本リンダさんの「どうにもとまらない」や、チューリップの「心の旅」、山口百恵さんの「プレイバックPart2」を出演声優が歌ったりするなど、昭和を思わせる試みが作中ふんだんに盛り込まれています。
──10代・20代の間で、「昭和レトロ」や「ネオ昭和」、2000年代のトレンドを取り入れた「Y2Kファッション」(Year2000)などが流行っていることや、『チェンソーマン』のオープニングテーマ「KICK BACK」に、モーニング娘。の「そうだ! We're ALIVE」の歌詞がサンプリングされていることから、昭和・平成の文化が注目される機会が増えています。
昭和・平成の流行が、今の10代・20代にとって新鮮に映る一方で、かつてアイドルや歌謡曲などに魂を救われた人たちが作り手の側に回り、大切にしていた作品をオマージュの題材に使っていることを考えると、今の令和の文化もオマージュの一つとして数十年後のアニメに取り入れられるかもしれません。
〈文/雨琴 編集/乙矢礼司〉
※サムネイル画像:©アストロノオト/アストロノオト製作委員会