コンプラのゆるかった昔の漫画では、現在では信じられないようなとんでもない問題発言をしていることがあります。特に、優しいイメージのあるキャラクターの毒舌は心にも残りやすいです。
次の4人は、実は暴言や問題発言が多い意外なキャラクターたちです。
◆のび太を幸せにする使命はどこへ──『ドラえもん』
原作ではドラえもんがたびたび暴言を吐くシーンがあり、「そりゃ、のび太の頭はもともとからっぽだもの」「モテない男が気休めに使う、みじめな道具だけど、それでも使う?」など、特にのび太への毒舌はすさまじいです。
ドラえもんは未来を変えてのび太を幸せにする、しずかちゃんと結婚させるという目的があるはずですが、とてもそれを果たそうとしているとは思えません。
未来を変えようと過去に来たものの、のび太のダメっぷりが予想以上に酷くて随所に本音が出てしまっているのでしょうか。「のび太の脳みそは進化がおくれているらしい」「男は顔じゃないぞ!中身だぞ!!もっとも、きみは中身も悪いけど…」と、現代の教育においては完全にアウトな発言を繰り広げています。
また、「のび太一人をよってたかってわらいものにいするなんてゆるせない!!しかもこんなよわい者を、あわれな者を、おろかな者を…」と、味方の振りをしながらのび太をとことん貶めていく高等テクニックも使っています。
逆にいえば、ドラえもんの暴言にも全然メゲない、のび太ののんきさやメンタルの強さは賞賛に値するでしょう。もしかしたら、ドラえもんはのび太のメンタルを鍛えることで、未来を変えようとしているのかもしれません。
しかし、ドラえもんは「ぜんぶ燃やしてしまえばかたづく」「じゃ、ミサイルでもうちこんでやるか」など、のび太以外にも過激な発言をしています。
現在のアニメのドラえもんのイメージからは信じられないですが、原作のドラえもんはのび太に悪影響を与えている可能性も十分考えられるでしょう。
◆元太をいじりまくる歩美──『名探偵コナン』
吉田歩美といえばかわいらしく、性格の良い女の子というイメージを持っている人も多いですが、たまにボソっと辛辣な言葉を浴びせます。特に小嶋元太へのいじり、毒舌は今後の人間関係が壊れないのかと心配になるほどです。
アニメ第212・213話「きのこと熊と探偵団」では、マツタケが知識の実であるという話を聞くと歩美は「知識の実なら元太君いっぱい食べたほうがいいよ!」と言い放ちました。また、アニメ第242話「元太少年の災難」ではアイスクリームを食べる元太に対して「またおデブになっちゃうよ」と体型いじりをしています。
そして、アニメ第12話「歩美ちゃん誘拐事件」では、かくれんぼをしていた際に公園のそばに停めてあった車のトランクの中に隠れますが、そこで血まみれの女の子の首を発見して号泣。探偵団バッジで通話していたコナンに、「泣かないように楽しいことを考えろ」と言われた歩美は、元太が階段から転げ落ちてタンコブを作ったときの顔がクマさんみたいだったと大爆笑します。
さらに、劇場版『名探偵コナン 迷宮の十字路』では肩に乗せたシマリスを親友と紹介する綾小路警部に、「人間のお友達少ないの?」と失礼過ぎる一言を浴びせました。
元太に対する歩美の当たりのきつさは本当は嫌っているのかと思えるほどですが、笑顔で言っていることから悪気はないようです。頭が悪いとは思っているようですが、太っていることに関しては食べ過ぎを心配している可能性もありますし、元太のことをおもしろキャラとして認識している節もあります。
とはいえ、あのかわいらしいキャラクターというフィルターがなければ、普通にキレられてもおかしくないのもまた事実。歩美には大人になるまでに、思いついたことをすぐ口に出すのではなく、一旦考えてから言葉にする術を身に着けてほしいところです。
◆園児に女の姿を見せるよしなが先生──『クレヨンしんちゃん』
やさしい保母さんのイメージがあるよしなが先生は、原作ではたびたび園児の前でいやらしい一面を見せています。しんちゃんにスカートの中に入られて、「ああっいい~」と感じたり、しんちゃんが粘土でよしなが先生の恋人の陰部を作ったときには、そんなに小さくないと思わずムキになってツッコんでいました。
また、よしなが先生は園長先生の怖い顔を見て、「ソープに売るのだけはかんべんして~」と叫んだこともあります。なお、今ではすっかり組長のイメージの園長先生ですが、原作の初期では地上げ屋さんと言われていました。
アニメではまつざか先生の強烈なインパクトと比べると、よしなが先生はキャラクターが薄い印象です。それは原作において彼女の最大の特徴ともいえる下ネタ要素が、アニメでは削られた経緯があったからだと思われます。
『クレヨンしんちゃん』が連載されいてのは『漫画アクション』という双葉社が発行する青年漫画雑誌でした。そのため、下ネタや社会派の毒舌ネタが多いのは不自然なことではなく、むしろ子ども向けのアニメにしようと考えた発想がすごいといえるでしょう。
ライツ事業部クレヨンしんちゃん編集室室長の鈴木健介さんのインタビューによると、ホームドラマテイストにしたことが大ヒットに繋がった要因だそうです。
また、女子高生をきっかけに人気に火が付いたとのことですから、親世代からのクレームはあったものの子供に受ける要素は備わっていたのかもしれません。
◆男にやたらと厳しい栗田ゆう子──『美味しんぼ』
『美味しんぼ』の良心と呼ばれることもある栗田ゆう子ですが、キツイ言葉を放つことも多いです。特に男には容赦ない傾向があり、山岡士郎が去勢された牡牛であることを見落として、海原雄山にやり込められて落ち込んでいたときには、「ま、あんなことをいつまでも気にかけているようでは去勢された牛ね」と言ってのけました。
結婚してからもこの毒舌ぶりは健在です。妊娠中につわりが酷かったときには、彼女の体調を心配して山岡が作ったカリフラワーのグラタンを口にして、「なんだか不潔な雑巾のような匂い」と言い放ちます。
つわりで大変だったとしても、せっかく作ってくれた食事なのだからもう少し言い方を考えないと、夫婦仲が致命的なダメージを受ける可能性も大きかったでしょう。
また、山岡がマタニティドレスで会社に行くのかと余計な指摘してしまったことを反省して食事の用意をしたときにも、ゆう子は「用意した料理が、美味しければ許す。まずかったら死刑」と、冗談だとしても酷過ぎる提案をします。
山岡の作る料理に全幅の信頼を置いており、2人の距離感あってこその発言とも取れますが、ゆう子は義理の父にもとんでもない暴言を吐いています。
雄山に頼みごとをして断られたときには、「山岡さんは素晴らしい人ですが、海原さんの血を引いている。冷酷で思いやりがなくて身勝手でわがままで愛情のかけらもない。そんな海原さんの性格が隔世遺伝で出たら大変なので」と人格否定をしたうえ、子作りしない宣言。山岡の間接的なとりなしと海原の度量の広さもあって関係が決裂することはなかったですが、普通なら関係修復不可能な暴言でしょう。
その雄山も渋滞にハマったときには「馬鹿どもに車を与えるなっ!」と怒鳴ったり、山岡に対して「貴様などせいぜいのところ、路傍の石にへばり付いたクソ虫にすぎん!!」と言ってのけています。
息子である山岡も初対面の京極万太郎に「これくらいのことでヘソを曲げるとはケツの穴の小さいじいさんだ」と暴言を吐いていました。
そのため、雄山や山岡の家族になるには、ゆう子くらいの度胸と毒舌がなければ無理なのかもしれません。逆にゆう子からのとんでもない暴言も、雄山や山岡からすれば許容範囲だったのでしょう。
──大人気の国民的アニメでも、意外に倫理的にアウトなセリフが多いことに驚きます。しかし、本音や本当の姿を見せられるというのは、それだけ相手に心を許している証拠……なのだと思いたいです。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。
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