“偽物”だからこそ、本物以上に胸を打つ瞬間があります。血のつながらない家族、借り物の理想を追う少年、そして偽物をめぐる言葉が物語の核心になる作品。アニメの中には、偽物であることを弱さではなく、むしろ強さとして描いた名場面があります。
◆かりそめの家族が見せる本物以上の温かさ──『SPY×FAMILY』
『SPY×FAMILY』のフォージャー家は、最初から本物の家族として始まったわけではありません。ロイドは任務のために父親となり、ヨルは周囲に怪しまれないために妻となり、アーニャは新しい居場所を求めて娘になりました。さらに、ボンドも加わったことで、秘密だらけの“仮の家族”が形作られていきます。
ロイドはスパイ、ヨルは殺し屋、アーニャは人の心を読める少女です。互いに大きな秘密を抱えたまま、周囲には仲のよい家庭に見えるよう振る舞っています。水族館へ出かけたり、ユーリの前で夫婦らしく見せようとしたりする場面は、いかにも偽装家族らしい緊張感と笑いを生んでいました。
しかし、フォージャー家がもっとも家族らしく見えるのは、誰かをだますために演じている瞬間ではありません。ヨルが家族のために料理を覚えようとする姿、ロイドが母親として悩むヨルを気遣う姿、アーニャが不器用ながらも家族を守ろうとする姿には、任務や利害を超えた温かさがあります。
本来は別々の目的で集まった3人と1匹です。それでも、日々を重ねる中で相手を思いやる気持ちは確かに育っています。だからこそ、ファンの間でも「かりそめなのに家族愛が深い」「本当の家族より家族らしい」と語られるのでしょう。偽物として始まった関係が、本物のような絆へ近づいていく過程こそ、本作の大きな魅力です。
◆借り物の理想でも貫けば届く──『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』
『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』で描かれる衛宮士郎の戦いは、“偽物”という言葉と切り離せません。彼が目指す「正義の味方」は、自分の中から自然に生まれた夢ではなく、養父・衛宮切嗣から受け継いだ理想でした。
士郎は大災害から救われた経験をきっかけに、誰かを助ける存在になろうとします。しかし、その願いは純粋な憧れであると同時に、強迫観念にも近いものでした。自分自身の幸せよりも他人を救うことを優先する姿は、アーチャーから見れば危うく、空虚なものでもあります。
アーチャーが士郎を“偽物”と断じるのは、彼の理想が借り物だからです。それでも士郎は、借り物であっても、その願いが間違いだったとは認めません。偽物であることを理解したうえで、それでも進むと決める姿に、彼ならではの強さが表れています。
その象徴となるのが、英雄王ギルガメッシュとの戦いです。士郎は複製した武器を並べる固有結界で、あらゆる宝具の原典を持つギルガメッシュに挑みます。本物を持つ王に対し、偽物の剣を積み重ねた少年が食らいつく構図は、作品全体のテーマを凝縮した場面でした。
本物に届かないはずの偽物が、信念を貫くことで本物を脅かす。そこにあるのはたんなる逆転劇ではなく、偽物だからこそ積み上げてきた意地です。ファンの間でこのルートが熱く語られ続ける理由も、士郎の戦いが“偽物の肯定”として強い説得力を持っているからではないでしょうか。
◆偽物だからこそ価値があるという逆説──『偽物語』
『偽物語』は、タイトルの通り“偽物”そのものを物語の中心に置いた作品です。阿良々木暦の妹である火憐と月火を軸に、本物とは何か、偽物とは何かという問いが繰り返し描かれます。
上巻「かれんビー」では、正義の味方を名乗る火憐のあり方が問われます。彼女の正義は未熟で、危うさもあります。それでも誰かを助けたいという気持ちは本気であり、単純に偽物と切り捨てられるものではありません。
下巻「つきひフェニックス」では、月火の存在そのものが大きなテーマになります。しでの鳥に成り代わられた月火をめぐり、彼女は本物なのか偽物なのかという問いが突きつけられます。しかし、家族として過ごしてきた時間や、暦が彼女を妹として守ろうとする感情は、理屈だけでは否定できません。
この作品で特に印象的なのが、偽物を自称する貝木泥舟の言葉です。詐欺師であり、偽物の怪異を扱う彼が語る“偽物の価値”は、どこかうさんくさくありながら、不思議な説得力を持っています。
本物になろうとする意志がある分、偽物のほうが本物よりも本物らしい。そうした逆説的な考え方は、火憐や月火だけでなく、何かになろうともがく人間そのものにも重なります。偽物という言葉に込められた弱さや後ろめたさを、別の角度から肯定してみせた点が、『偽物語』の深さにつながっているのでしょう。
──美術品やブランド品の世界では、本物に高い価値が置かれます。しかし物語の中では、偽物だからこそ努力し、偽物だからこそ誰かを思い、偽物だからこそ本物に近づこうとする姿が描かれます。
血のつながらない家族が本物以上の温かさを見せることもあれば、借り物の理想が英雄を超えることもあります。偽物であることは、必ずしも劣っていることを意味しません。本物になろうとする意志がある限り、偽物はときに本物以上の輝きを放つのかもしれません。
〈文/秋山緑 編集/相模玲司〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「SPY×FAMILY ANIMATION ART BOOK」(出版社:ウィットスタジオ)』

