<この記事にはTVアニメ、原作漫画『忘却バッテリー』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>
アニメオリジナルシーンは原作を変えてしまうことがあり、批判を招くこともあります。一方、原作に忠実ながらも補完するようなアニオリは、「解像度が高まる」と受け入れられることもあるようです。
いま放送中の高校野球を舞台とした『忘却バッテリー』でも、ファンをうならせるアニオリ描写や表現が描かれ、話題になっています。
◆怪物コンビに敗れるライバルたち「第1話 思い出させてやるよ」より
第1話の冒頭では、怪物バッテリーの要圭と清峰葉流火に敗れるライバルたちが登場しましたが、アニメでは原作よりもライバルの人数が増えています。
原作ではシニア時代の要・清峰バッテリーに、同じくシニア時代の山田が挑む姿が描かれました。当時、弱小シニアのお山の大将だった山田は、この怪物バッテリーの圧倒的な強さの前に挫折をして野球を辞めてしまいます。そして、野球部がない都立小手指高校へ入学して、同じく小手指高校へ入学していた清峰と記憶喪失になった要と再会しました。
一方、アニメでは山田に加え、藤堂・千早・国都といったライバルたちが怪物バッテリーに敗れて絶望するシーンが追加されています。豪快なバッティングが持ち味の藤堂は三振を取られ、盗塁の技術が卓越した千早は盗塁死し、のちに名門校・帝徳の1年レギュラーとなる国都は打ち取られて崩れ落ちました。
要と清峰は各チームを背負う強者を抑えても嬉しそうな表情を浮かべず、淡々としています。無感情にライバルたちを奈落に突き落とす姿は、まさに「怪物」の名にふさわしいでしょう。見事に怪物バッテリーのおそろしさを描いたアニオリ描写でした。
この描写にはネット上でも「3話で登場する国都を1話で登場させて伏線にしているのすごい」「みんなの過去の絶望をていねいに描いている」と、好評の声が上がっています。
◆有名な『ジャンプ』作品のパロディを再現「3話 だから、なんだ」より
第1話では怪物バッテリーの強さを際立たせるアニオリが描かれていましたが、第3話ではギャグシーンにさまざまなパロディが盛り込まれるアニオリが描かれ、視聴者を笑いに誘いました。
たとえば、第3話で要に代わって山田が藤堂と千早を親睦会へ誘うシーンは、原作では話しかけて誘いますが、アニメでは平成に流行したイラスト「一期一会」風の紙芝居を用いて藤堂と千早を親睦会へ誘っています。
また、清峰・山田・藤堂・千早の4人が親睦会で要の家を訪れて母親に遭遇したときも、思わず「大丈夫?」と心配になるパロディが盛り込まれていました。
山田・藤堂・千早は初対面の要の母親に礼儀正しい子たちと歓迎され、「社交的で素敵なお母さん」という第一印象を抱きます。
しかし、その直後に母親は「みんなチェリーボーイちゃんなのかしら?」と、クセが強すぎる一面を見せて要がブチギレました。
原作では、要は怒りの声を上げて服がはじけ飛び、髪が逆立ってオーラをまとっています。『ドラゴンボール』を彷彿とさせる描写ではあったものの、はっきりとは描かれていません。
しかし、アニメではしっかりと鳥山明先生風の絵柄で描かれ、視聴者からも「ドラゴンボールが始まって草」と、声が上がり爆笑する人が続出しました。なお、このパロディはちゃんと公式から許可を取ったうえで描かれたことがX(旧Twitter)で語られています。
このほかにも、帝徳との練習試合で要と清峰が国都と再会したときには、猫ミームを取り入れたアニオリが描かれました。要と清峰は国都と再会したものの彼のことを忘れており、話しかけられたときにキョトンとします。このときに原作では背景が描かれなかったのに対し、アニメでは背景に有名な猫ミームの宇宙猫が描かれました。
これらのパロディはSNSでも評判となり、「3話の視聴中は笑いっぱなしだった」「パロディや下ネタで笑いをとりつつも、決めるところはしっかり決めて銀魂みたい」といった声が寄せられています。
◆シリアスな空気を一気に笑いへ変えたアニオリ「第7話 面白いやつら」より
このようにさまざまなアニオリが描かれていますが、中でもファンから絶賛されたのが7話の要の性格を表現したシーンです。
藤堂はシニア時代に怪物バッテリーがいる宝谷シニアと試合をしたとき、エラーをしてチームが負ける原因を作ってしまいました。このことが原因で藤堂はイップスを発症し、一塁へ送球できなくなってしまいます。
原作ではこの経緯が描かれた後、場面は学校へ切り替わりイップスを克服する練習が始まりますが、アニメでは藤堂からイップスと告白された後の要・清峰・山田・千早の姿が描かれました。
このシーンではイップスが分からない要のために千早が説明し、帝徳との試合で捕球できなくなった要も軽いイップスだったと伝えます。
要は練習して捕球できるようになったため、すぐ治ると楽観的に受け止めますが、藤堂はそんな簡単に治らないと言い、一同は重苦しい雰囲気に包まれました。
すると、要は「イップスマウント、っスか?」と的外れなことを言いだし、流れを変えます。そして、要は謎の煽りをして、煽られた藤堂は諦めていたイップスを克服する練習へ参加することにしました。
この一連のアニオリはアホらしくも憎めない要の性格をよく表現し、彼のそんな性格に周囲の人は救われているのがよく分かります。
重苦しい雰囲気を一変させたこのアニオリはネット上でも「要くんの明るさに救われる」「ギャグが少なめになると思っていたけど、原作補完のアニオリがすばらしい」と絶賛されました。
——このアニメにはこのほかにもさまざまなシーンでアニオリが追加されており、キャラへの解像度が上がるとファンから好評を受けているようです。本作のようなアニオリが好評を受けているアニメは、原作とアニメを見比べると新たな発見があってより作品を楽しめるでしょう。
〈文/林星来 @seira_hayashi〉
《林星来》
フリーライターとして活動中。子供の頃から培ってきたアニメ知識を活かして、話題のアニメを中心に執筆。アニメ以外のジャンルでは、葬儀・遺品整理・金融・恋愛などの記事もさまざまなメディアで執筆しています。
※サムネイル画像:https://boukyaku-battery.com/story/03.html より
TVアニメ『忘却バッテリー』公式サイト
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