『ドラえもん』のひみつ道具には、便利で夢のあるものだけでなく、使い方や状況によっては恐ろしい結果を招くものも存在します。ときに人の心や行動を試すような意図が感じられるものもあれば、偶然の出来事から予期せぬ危険が広がることもあります。また、のび太たちの遊び場である裏山も、時に穏やかな風景が一変し、ホラーさながらの緊張感に包まれる舞台となります。作品のユーモラスな表情の裏に潜む、もう一つの顔に触れると、『ドラえもん』の奥行きが見えてきます。
◆『ドラえもん』のアブないひみつ道具
22世紀の技術で作られたひみつ道具は、便利で面白いものばかりと思いきや、使い方を間違えると大変なことになるものもたくさんあるようです。
●悪魔のパスポート──ドラえもんの知られざる所持理由
悪魔のパスポートは、なんらかの悪事を働いたとき、相手にこのパスポートをかざすだけで、罪を許されてしまうというものです。
てんとう虫コミックス13巻でのび太はこの道具を悪用。ママの財布からおこづかいを無断で前借りしたり、カンニングやスカートめくりをしたりと、思いつく限りの悪行をします。
しかしもともと心根のやさしい少年なので、のび太は自主的にドラえもんに返し、取り返しのつかない事態にはなりませんでした。
ドラえもんは作中で、言い訳っぽくこの道具を処分し忘れていたと発言しています。22世紀の未来では、悪行をいくらでもできてしまう道具を、子守り用ロボットが持ち歩いて問題ないのでしょうか。そもそも、何のためにドラえもんがこの道具を持っていたのか疑問です。
『続ドラえもん全百科』でドラミは悪魔のパスポートについて、「冤罪を晴らすためだけに使うこと」と説明しています。ドラえもんは何か冤罪をかけられる心当たりがあったのでしょうか。
もしくは過去に干渉して、のび太の未来を変えることで、タイムパトロールに捕まえられる危険性を考えて持っていたのかもしれません。
●どくさいスイッチ──ひみつ道具による教育的指導
どくさいスイッチは、スイッチを押すと気に入らない相手を消すことができるというシンプルなひみつ道具です。
たんに消えるわけではなく、はじめからこの世界に存在していなかったことになる道具で、のび太がジャイアンを消したことをしずかちゃんに告げたときも「ジャイアン? 誰のこと?」という反応でした。
のび太はジャイアンを消したあとも、いじわるをしてきたスネ夫を消し、良心がとがめて悪夢を見た末に「誰もかれも消えちゃえ!」とどくさいスイッチで、全人類を消してしまいます。
静かになった町をタケコプターで飛んで人を探すのび太でしたが、誰も見つけることはできませんでした。はじめのうちは漫画やお菓子を独占して一人の世界を満喫しますが、夜になっても明かりがつきません。
発電施設を動かしている人たちもまた自分が消してしまったのだと気づいて、のび太は改めて1人では生きていけないことを知ります。
するとどこからともなくドラえもんが登場。どくさいスイッチは、身勝手な独裁者をこらしめるために作られたひみつ道具であることを明かします。
ドラえもんが消えていなかった理由は明言されていませんが、どくさいスイッチの用途が元々教育的なものなので、監督者であるドラえもんには例外的な効果が出るものだったのかもしれません。
詳しく読む⇒『ドラえもん』4つの危ないひみつ道具 「これはヤバいクスリ?」「地球が滅ぶきかっけに!?」
◆『ドラえもん』 裏山にまつわるホラーエピソード
『ドラえもん』にたびたび登場する「裏山」は、のび太たちが自然と触れ合える貴重な場所ですが、数あるエピソードの中にはホラーさながらの恐怖回があります。豊かな自然とのどかな雰囲気は一変し、登場人物全員が身の危険にさらされる展開まで……。
●石にされた先生の姿が、そして…… 『ドラえもん』屈指のホラー回──「ゴルゴンの首」
『ドラえもん』の数あるエピソードの中でも、屈指のホラー回といえるのがコミックス20巻の「ゴルゴンの首」です。
学校でしょっちゅう廊下に立たされるのび太は、足が疲れない道具をドラえもんに頼みます。そこで出てきたのが「ゴルゴンの首」でした。
「ゴルゴンの首」は、目から出した光線で筋肉をこわばらせ、石のようにしてしまうひみつ道具で、見たものを石に変えてしまうという「ゴルゴン3姉妹の“メデューサ”」の伝説が元ネタと思われます。
この「ゴルゴンの首」は、人を石にする際「ウオーン」と奇妙な声を発し、見た目はメデューサを模してか、古代の石像から蛇のようなものが生えており、非常に不気味です。
また、まるで意志を持っているかのように自ら這いずり回り、近づいてきた人を瞬時に石にしてしまうという、何とも恐ろしいひみつ道具でした。
翌日、のび太は「ゴルゴンの首」を学校でうまく使いこなすも、タケコプターで家に帰る際にうっかり裏山に落としてしまいます。
のび太はドラえもんとともに慌てて裏山へ捜索に向かいますが、そこには既に石にされた先生の姿が……。その後も、空を飛んでいる鳥、さらにはドラえもんまでもが石になるという恐ろしい展開が続きます。
1人ではどうしようもなくなったのび太は、ジャイアンとスネ夫に助けを求め、2人を連れて再び裏山へ入りますが、それでもまた1人、また1人と石にされていき、窮地に立たされます。
最終的には、木の上で石になったジャイアンが、偶然にも「ゴルゴンの首」の上に落ちたことで、事態は収束することになりますが、もしのび太まで石にされてしまっていたら、いったいどうなっていたのでしょうか……? 考えるだけでも恐ろしいエピソードです。
●裏山を愛しすぎたのび太は、危うく世捨て人になりそうに!? ──「森は生きている」
現代社会に生きる人間として、“ある意味恐ろしい回”だったのが、コミックス26巻の「森は生きている」です。
嫌なことがあると裏山ですごしていたのび太は、ポイ捨てされたゴミを片付けるなど、思いやりのある行動をとっていました。そんなのび太に感心したドラえもんは、裏山とのび太が心を通わせることができるひみつ道具「心の土」を出してあげます。
「心の土」の効果により、のび太が裏山に来ると、山はのび太のために木の葉でベッドを作ったり、おやつを落としたりして歓迎します。その結果、裏山はのび太にとってさらに快適な場所になっていきました。
ところが、それが裏目に出て、のび太はそれ以降ますます裏山に籠るようになり、ドラえもんや両親の忠告も聞かず、ついには学校にも行かずに裏山でずっと暮らすことを決意してしまいました。
裏山は「のび太をこれ以上近づけないでほしい」というドラえもんの頼みを聞き入れ、最終的にのび太を無理やり山から追い出すことに。裏山としては、のび太の将来を思っての苦渋の決断だったことでしょう。
詳しく読む⇒「裏山=トラウマ!?」 『ドラえもん』 裏山にまつわる3つのホラーエピソード
〈文/アニギャラ☆REW編集部〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「どらえもん」第17巻(出版社:小学館)』