『葬送のフリーレン』では「アウラ、●●しろ」というアウラ構文など、さまざまなセリフが人気を博しています。

 その中でも、人気を博しながらも作中で重要なセリフとなっているのが、「ヒンメルならそうした」というヒンメル理論(ヒンメル構文)です。X(旧Twitter)などのSNSでもよく見かける言葉ですが、作中でどのような役割を果たしているのでしょうか。

◆ヒンメル理論が作中で登場したのはいつ?

 まず、作中でヒンメル理論が登場したシーンを振り返っていきましょう。

 最初に登場したのは、「第2話 僧侶の嘘」です。この話ではフリーレンがハイターのもとをたずねてフェルンと出会いました。

 フリーレンは戦災孤児だったフェルンをハイターが救ったことを聞き、「らしくないね。進んで人助けするような質じゃないでしょ。ヒンメルじゃあるまいし」と、言います。

 このときのハイターはフリーレンの言葉に笑みを浮かべるだけで、否定も肯定もしません。しかし、その後に死が迫るハイターへフリーレンがフェルンを救った理由をたずねると、彼は「勇者ヒンメルならそうしました」と口にしました。この彼のセリフがヒンメル理論の始まりです。

 その後はたびたびフリーレンがヒンメル理論を口にします。たとえば、魔族がヒンメルの幻影を見せたときには、自身を撃てというヒンメルに対し、フリーレンは「そうだね。ヒンメルならそう言う」と言い、攻撃をします。

 また、ザインを仲間に誘う理由や構う理由をたずねられたときには、「勇者ヒンメルがそうしたように」「勇者ヒンメルならそうしたってことだよ」と、答えていました。

 これは自身が旅立つきっかけをヒンメルに与えられたように、自身に似ているザインへ旅立つきっかけを与えようとしたようです。

 ほかにも、かつてヒンメルと一緒に旅をしたアイゼンが弟子のシュタルクから自身を拾った理由をたずねられたとき、「勇者ヒンメルならそうしたからだ」と答えています。

 このように、かつてヒンメルと旅をしたものたちは彼から多大な影響を受け、ヒンメルならどうするかというのが、一つの行動の指針になっているようです。

◆作中の「ヒンメルならそうした」の意味とは?

 このようにかつての仲間たちは「ヒンメルならそうした」と口にしていますが、それぞれがどのような意味でこの言葉を言っているのでしょうか。

 まず、ハイターが言った「勇者ヒンメルならそうしました」の意味は、彼とフェルンの出会いに隠されているでしょう。

 ハイターはフェルンに出会ったとき、ヒンメルのことを「困っている人を決して見捨てないような人間でした」と語りました。

 そして、自身がこのまま死んだらヒンメルから学んだものが失われると言い、自殺しようとするフェルンに対して同じように大切な思い出があるなら死ぬのはもったいないと説きます。

 両親との幸せな思い出を抱えていたフェルンはハイターの言葉に救われ、彼のもとへ身を寄せるようになりました。

 この出会いではハイターから見たヒンメルの人間像が見えてきて、何かしなければヒンメルから学んだものが失われると彼が考えていることが分かります。

 おそらくハイターはヒンメルのようにフェルンを救い、ヒンメルから学んだものがこの世から失われないよう、後世へつむいでいこうと思ったのかもしれません。

 一方、フリーレンが言う「ヒンメルならそうした」は、違う意味があるように思えます。彼女がヒンメルの幻影と対峙してヒンメル理論を口にしたときには、彼への信頼がうかがえました。また、ザインを仲間へ誘ったときも、彼女自身がヒンメルにきっかけを与えられたように、ザインへきっかけを与えたかったように見えます。

 ふたりが口にするヒンメル理論の意味合いの違いは、ふたりの寿命の違いから生まれているのではないでしょうか。

 ハイターは普通の人間なので、フリーレンのように千年以上も生きられません。そのため、ヒンメルから学んだことを残すには誰かに伝えていく必要があります。

 しかし、フリーレンは長寿のため、自身が覚えていれば彼女のなかで思い出が失われることはありません。このふたりの寿命の違いから、それぞれの意味が違ってきたのではないでしょうか。

◆ヒンメルの影響を受けたほかのキャラたち

 これまで作中でヒンメル理論を口にしたキャラをあげましたが、口にせずとも彼から影響を受けたキャラがいます。

 たとえば、一級魔法使い試験編で登場したヴィアベルは、作中でヒンメルから影響を受けたと語っていました。

 幼い彼は華々しいヒンメルの冒険譚が好きでしたが、彼の村の老人たちはヒンメルが商人を護衛してくれた話や荷物運びをしてくれた話など、幼い彼にとってつまらない話ばかり嬉しそうに語ります。

 しかし、ヒンメルの死後、再び魔物が暴れるようになり、彼は生活を守るのに精一杯な村では、華々しい冒険譚は役に立たないことを悟りました。そして、幼い彼がつまらないと感じたヒンメルの冒険譚こそ、村を救っていたのだと気づいたのです。

 彼はこのことをきっかけに、困っている人がいたらなるべく手を差し伸べるようになったと語っています。ヒンメル理論こそ口にしていませんが、彼が「ヒンメルならそうした」の精神にのっとり行動しているのがよく分かるでしょう。

 

 ──SNSでは自信がないときや背中を押してもらいたいときにヒンメル理論が使われています。作中でも多大な影響を及ぼしている言葉ですが、現実でもさまざまな人に影響を与え、一歩を踏みだす勇気を与えているようです。

〈文/林星来 @seira_hayashi

《林星来》
フリーライターとして活動中。子供の頃から培ってきたアニメ知識を活かして、話題のアニメを中心に執筆。アニメ以外のジャンルでは、葬儀・遺品整理・金融・恋愛などの記事もさまざまなメディアで執筆しています。

 

※サムネイル画像:Amazonより


アニメ『葬送のフリーレン』公式サイト
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

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