『ガンダム』シリーズでは、強化人間は死亡したり、重度の後遺症を背負ったりするなど幸せにはなれないというジンクスがあります。

 たとえば、『機動戦士Ζガンダム』のフォウ・ムラサメや、『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』のマリーダ・クルスなどがそれにあたりますが、最近の『ガンダム』シリーズでは、強化人間のジンクスを破り、作中で救われたキャラクターもいます。

◆主人公に叱責され生きる道を選ぶ──『ガンダムX』よりカリス・ノーティラス

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 大人の身勝手な都合で戦わされていたカリスは、これまでの強化人間のように悲劇的な結末を迎えると思われましたが、主人公のガロードに救われるような形で生存します。

 カリスは「人工ニュータイプ」と呼ばれる強化人間で、理想のため自ら望んで強化されました。

 最初はガロードと敵対していますが、自分は市長の復讐の道具にされているにすぎないということに気づいてからは自分の在り方に少しずつ疑問を覚えるようになります。

 彼は、ガロードと一騎打ちをしましたが、人工ニュータイプでありながらガロードに敗北してしまったことや、そもそも死ぬつもりで挑んだ戦いであったため、ガロードにわざと撃たれて死のうとします。

 しかしガロードから「生きろ」と叱責され生存します。そこからは、ガロードたちと共闘することもありました。

 カリスは人工ニュータイプの弊害である「シナップス・シンドローム」という発作が月に1回起こる体質で、そのたびに激痛に苦しめられています。作中ではカリスは死ぬまでこの後遺症と付き合うことが示唆されています。

 しかしカリス自身はそれを「自身の背負った十字架」として受け入れており、あくまで前を向いて生きようとしています。

 『機動新世紀ガンダムX』以前の『ガンダム』シリーズの強化人間は、命を落としてしまったり重大な後遺症を負ってしまったり、悲劇的な結末を迎えることがほとんどでしたが、カリスはシリーズで初めて生きのびた強化人間でした。

◆当初は死亡する予定だったけど……──『ガンダム00』よりルイス・ハレヴィ

画像引用元:Amazon.co.jpより

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 ルイスは復讐に取り憑かれ、心身ボロボロになっていくことから『機動戦士ガンダム00[ダブルオー』放送当時、常に死亡フラグが立っていました。そんな彼女ですが、無事に生存した強化人間の一人です。

 ルイスは物語の序盤では民間人でしたが、『ガンダム002ndシーズンから復讐のためにアロウズに入隊し強化人間となります。

 ルイスに施された強化は、「ナノマシン」を投与し老化を抑え、イノベイドに近い存在にするというもので、作中でも脳量子波を心身ともに大きな負担をかけるものでした。

 その代償は大きく、アニメの続編にあたる『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』では、アロウズ時代のことがフラッシュバックして苦しむような描写が見られます。

 しかし、さまざまなものを失ったかと思われたルイスにも、恋人の沙慈の存在があり続けたことは大きいでしょう。

 沙慈は、ルイスが強化人間となってしまっても懸命に救おうとし、彼女が療養生活を送る中、ずっとそばにいました。

 当初、ルイスは沙慈をかばって死亡する予定でしたが、それだと美談になってしまうため罪を償わせる形にしたと、『ガンダム00』の監督を務めた水島精二監督は、『アニメージュ』20095月号のインタビューで語っています。

 このようなことからも、ルイスは救いのある結末を迎えられたといえるでしょう。

 ほかにも『ガンダム00』にはアレルヤやマリーなど、救われたといえる強化人間がほかのシリーズに比べ多く登場しています。

◆『ガンダム』シリーズで最も救われた強化人間?──『水星の魔女』エラン・ケレス(5)

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<画像引用元:https://g-witch.net/story/22/より © 創通・サンライズ・MBS>

 4号は悲惨な最期を迎え、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の放送当時に話題になりましたが、5号は無事生存しています。

 何よりエラン5号の特筆すべき点は、最終的に強化人間としてのさまざまなしがらみから解放されたことです。

 ペイル社のパイロットだったエランでしたが、最終話では自分を縛る場所から離れ、旅に出ていくという描写があり、もうパイロットとして戦うことも、エラン・ケレスの影武者として振舞うことも求められなくなりました。

 生存できたとしても、さまざまなものを失ってしまう『ガンダム』シリーズの強化人間たちと比べると、後遺症が残っているような描写も見られないことから、エランは最も普通の人間に近い形で生存したキャラクターといえるでしょう。

そんなほかの強化人間と比べても悲劇度合いの低く見えるエランですが、ノレアを失ってしまったことは悲劇といえるかもしれません。

 

 ──『ガンダム』シリーズの強化人間は悲劇的な最期を迎えることが多いため、TVアニメ放送当時、作中に強化人間が登場するたびに、複雑な思いを抱いた人も多いでしょう。

 しかし強化人間たちは、作中で過酷な運命に翻弄され苦悩しても、そこから懸命に生きようとしていることは、忘れてはいけないのかもしれません。

〈文/michel 編集/乙矢礼司〉

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