『ガンダム』シリーズでは、さまざまな思想のぶつかり合いが見られ、たとえ最初は正義でも徐々に過激化していって多くの命を奪うこともありました。
次の4人のキャラクターは危険な思想を持ち、主人公たちの前に立ちはだかりました。
◆優秀だからこその選民思想──『機動戦士ガンダム』ギレン・ザビ
ギレンは優れた人類だけを生存させようという究極の選民思想を持っており、さらには人口までもコントロールしようとしました。
この思想は「優性人類生存説」という論文としても発表しており、ベースとなったのはダイクンの提唱したジオニズムという思想ですがこれを歪めてより過激にしたものです。
これは一年戦争や人類の半数もが犠牲になったコロニー落としの正当化に用いられ、非人道的な行いをしているにも関わらず圧倒的なカリスマ性で国民の支持を集めます。
このような選民思想の強さは父、デギンから「ヒットラーの尻尾」と呼ばれるほどで、IQ240という高すぎる知能を持つギレンは自分が優れている側の人間であるという自負も自身の思想を強めたのでしょう。
このように危険きわまりない思想ではあるものの、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場するデラーズが紛争を起こすなど後世にも大きな影響を与えました。
◆騎士道精神が行き過ぎた結果?──『新機動戦記ガンダムW』トレーズ・クシュリナーダ
トレーズは平和を望む人物ですが、人間誰しもが持っている闘争本能に向き合わずして真の平和は得られないという考えを持っています。
戦争は人間同士で行うことに意義があると考えており、人間は人の死や敗北を通して成長するものだという独特な思想を見せました。
そうした考えから無人兵器であるモビルドールに反対していたり、戦争の悲惨さを市民に知らしめるため周囲を戦火に巻き込んでもよいという考え方も持っていたりします。
トレーズ自身はというと自分が悪である自覚を持っており、それでも自分の信念に付き従って進む意志の強さと多くの部下に慕われるカリスマ性を放ちました。
人の死という現実から目を背けてはいけないという考えには一理ありますし、99822人という自分のもとで戦死した死者の数や名前をはっきりと覚えているというトレーズなりの優しさともいえるような面も持ち合わせています。
そうした面にも目を向けると善か悪か断ずることが難しい思想ではありますが、やはり人命を危険にさらしかねないという意味では危険思想といえるでしょう。
◆環境について深刻に考えすぎた結果……──『機動武闘伝Gガンダム』東方不敗マスター・アジア
東方不敗は環境問題について深刻に考えるあまり、その元凶を人類とみなし人類の滅亡を目論みました。
彼はガンダムファイト第12回の優勝者でネオホンコンの代表でしたが、自分が打ち込んできたガンダムファイトにより地球が朽ち果ててしまったという現実を目の当たりにして絶望し、地球の環境について深刻に考えるようになります。
ガンダムファイトは格闘大会の体を成した代理戦争であり、そこでは誰も責任を負うことがありません。これを正すことはできないと確信した東方不敗は、結果として環境破壊の元凶は人類と見なし人類抹殺をもくろむようになります。
そしてデビルガンダムと出会った東方不敗は、エラーにより奇しくも自分と同じ人類抹殺という目的を持ったデビルガンダムを利用するようになります。
一応エコ思想ではあるものの、そのために人類をすべて滅ぼそうと考えているのはかなり先鋭化した危険思想といえるでしょう。
◆平和主義も行き過ぎると……──『機動戦士Vガンダム』フォンセ・カガチ
カガチは平和な世界を実現したいという一見、真っ当な思想の持ち主ですが、その原因を人類とみなし東方不敗と同じく人類の滅亡をもくろみます。
木星帰りである彼は、地球圏に帰ったときに支配力が弱くなったことで荒れ果てた地球圏に深く絶望しました。
そんなときにマリアの宗教コミュニティに目を付け、ザンスカール帝国を築き上げマリアを女王の座に就かせます。
そうして実質的な国のトップの座に就いたカガチは反乱分子にギロチン制裁を行うなど独裁的な政治を強めます。
そしてきわめつけが、その思想を実現させるためのエンジェル・ハイロゥという装置を有していることです。
この装置は2万人ものサイキッカーたちが冷凍睡眠状態で格納されておりその時点で非人道的さがうかがえますが、さらにそのサイキッカーと女王マリアの能力によって人々の争う意志を取り除き幼児退行させ最終的に衰弱死させるというおそろしい仕組みが隠されています。
カガチは「平和を願う究極の姿は赤子であろうが」と語っており、平和を願うあまり人々の争う意志どころか命さえも奪ってしまうのは危険思想といえるでしょう。
──『ガンダム』シリーズにおいて危険思想を持つ人物に共通するのは、はじめは世界をより良いものにしたいという理想からスタートしていることです。
彼らの思想は手放しで賛同するべきものではないですが、根っこには世直しをしたいという意図があるからこそ、作中の人物たちも視聴者も彼らに魅了されてしまうのではないでしょうか。
〈文/michel〉
※サムネイル画像:Amazonより