死ぬつもりで挑んだ戦いで、主人公に「生きろ」と叱責されて思いとどまる──。『ガンダム』シリーズを語るうえで欠かせない「強化人間」たちは、長らく「死か廃人か」という過酷な末路をたどり続けてきました。ところが、作品を重ねるごとに、そのジンクスを打ち破るキャラクターが少しずつ現れ始めています。悲劇に彩られた強化人間の歴史の中で、なぜ彼らは生き残ることができたのか。3つの作品にわたるケースを振り返ってみます。
◆「生きろ」の一言が運命を変えた──『ガンダムX』カリス・ノーティラス
「人工ニュータイプ」として大人たちの意思のまま戦い続けたカリス・ノーティラスは、当初から悲劇的な結末が予感されるキャラクターでした。自らの意志で強化改造を受けながらも、やがて自分が市長の復讐劇に利用されているだけと気づいたとき、その心には深い虚無感が広がっていきます。
主人公ガロードとの一騎打ちに臨んだカリスは、勝つためではなく死ぬために戦場へ赴きました。強化人間でありながらガロードに敗れたことで、彼はわざと撃たれて死のうとします。しかしそこでガロードが放ったのは銃弾ではなく、真正面からの叱責でした。
その後カリスはガロードたちと肩を並べて戦う場面も見せ、かつての敵対関係から一転して共闘する展開は視聴者に強い印象を残しました。ただし、完全に救われたとは言い切れない部分もあります。強化改造の後遺症である「シナップス・シンドローム」は月に一度の激痛発作をもたらし、作中ではそれが生涯続くことが示唆されているからです。
それでもカリスは、その苦しみを「自身の背負った十字架」と受け止め、前を向いて歩もうとしています。『機動新世紀ガンダムX』以前のシリーズにおいて、強化人間が命を持って物語を終えた例はほとんどなく、カリスはそのジンクスを初めて打ち破ったキャラクターとして、シリーズ史に名を刻む存在です。
◆脚本段階では死亡予定だった彼女が生き残れた理由——『ガンダム00』ルイス・ハレヴィ
『機動戦士ガンダム00』2ndシーズンで視聴者を最も心配させたキャラクターのひとりが、ルイス・ハレヴィでしょう。序盤は普通の民間人だった彼女は、復讐心に突き動かされる形でアロウズへ入隊し、強化人間へと変貌していきます。ナノマシンによる老化抑制でイノベイドに近い能力を得る一方、脳量子波の使用は心身に深刻な負荷をかけ続けました。
放送当時、復讐に駆られ心が崩れていく描写が続いたことで、「死亡フラグが立っている」と感じたファンは少なくなかったはずです。その予感を強めたのが、制作サイドの証言でもあります。水島精二監督は『アニメージュ』2009年5月号のインタビューで、当初ルイスは沙慈をかばって命を落とす展開が想定されていたと明かしています。しかし「それでは美談で終わってしまう」という判断から、罪を償いながら生きる道が選ばれました。
劇場版『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』でも、アロウズ時代の記憶がフラッシュバックする苦しい描写は残っています。それでも、どんな状況でも傍らにいた沙慈の存在が、ルイスを繋ぎ止めた最大の要因であったことは間違いないでしょう。なお、『ガンダム00』にはアレルヤやマリーなど、救われたといえる強化人間が他シリーズと比べ多く登場している点も特筆すべきです。
◆しがらみを全て断ち切って旅立った——『水星の魔女』エラン・ケレス(5号)
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』において、エラン・ケレスという名を持つパイロットは複数存在しました。4号が衝撃的な最期を遂げたことで視聴者の不安を高める中、5号は全話を通じて生き延びることになります。
最終話での描写は、これまでの強化人間キャラクターと一線を画すものでした。ペイル社のパイロットとして戦い続け、他者のなりすましを強いられてきた5号は、すべての束縛から離れて一人旅へと踏み出します。もはや兵器として戦う必要も、誰かの影武者として振る舞う必要もない──そんな自由を手にした姿は、シリーズの強化人間史の中でも異質なほど穏やかです。
後遺症を感じさせる描写がほぼないことも、エランをシリーズ随一の「救われた強化人間」たらしめる理由の一つです。肉体的にも精神的にも、もっとも普通の人間に近い形で物語を終えた強化人間といえるでしょう。ただ、ノレアを失った喪失感だけは、彼の胸にしこりとして残っているかもしれません。
──『ガンダム』シリーズにおける強化人間たちは、長年にわたって死と隣り合わせの存在として描かれてきました。作中で強化人間のキャラクターが登場するたびに、その行く末に胸を痛めたファンは多かったはずです。
それでも3人の事例が示すように、過酷な宿命の中でも前へ進もうとする姿勢は、作品を越えて一貫しています。悲劇の象徴として語られてきた存在が、少しずつ「生を選ぶ者」へと変わっていく。その変化もまた、『ガンダム』という長い物語が穏み重ねてきた歴史の一つではないでしょうか。
〈文/最上明夫〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「アニメ系CD Taja/LOVE TODAY 機動戦士ガンダム00 挿入歌」(レーベル:Flying Dog)』

