※本記事にはTVアニメ・小説『機動戦士ガンダム』の内容が含まれます。ご注意ください。
小説版の初代『ガンダム』は、アニメ版を知っている人ほど別の物語に見える内容です。富野由悠季監督自身が手がけた小説版では、アムロの運命、シャアとガルマの関係、ララァの扱いまで大きく変わっています。アニメでは一年戦争を生き抜いたアムロが小説版では終盤で命を落とし、シャアもガルマを単純に裏切る人物としては描かれていません。そこには、映像作品とは違う形で『ガンダム』を描こうとした、もう一つの一年戦争がありました。
◆アムロはなぜ一年戦争で退場したのか 小説版に描かれたもう一つの最期
『機動戦士ガンダム』の主人公といえば、一年戦争の英雄として知られるアムロ・レイです。一年戦争後も地球圏を脅かす組織と戦い続けたものの、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、シャア・アズナブルとの戦いの末行方不明となりました。
しかし、小説版におけるアムロは、なんと一年戦争終盤で命を落としてしまいます。小説『機動戦士ガンダム Ⅲ』終盤、ア・バオア・クーにおける戦いで、アムロはシャア率いるニュータイプ部隊と接敵。
しかし、当時のシャアはギレンを倒すため、アムロと協力しようとしていました。そのため、部隊の1人シャリア・ブルが、アムロとサイコミュで交信しようとしますが、直後にソーラ・レイが発射され多くの命が失われます。
そのショックでアムロは錯乱、サイコミュで交信しようとしたシャリアを撃ってしまいました。しかし、昇天するシャリアの意識を感じ取ったことで、アムロは正気を取り戻します。その直後、ハヤト・コバヤシがシャアに討たれますが、これを経てアムロは完全に覚醒。
シャアの意思を理解し、ペガサスの面々にシャアと協力し、ア・バオア・クーから脱出するよう呼びかけました。しかし、シャアの部下ルロイ・ギリアムが、仲間に呼びかけ気を逸らしたアムロを背後から撃ってしまいます。
こうしてアムロは命を落としますが、アムロの意識は戦場に広がり、残ったペガサスのクルーに伝わりました。そして、シャアとの遺恨は忘れ、彼と協力してギレン・ザビと戦うよう呼びかけます。
そして、アムロの意思を汲み取ったペガサスの面々は、ギレンを討つためシャアと共闘。これによりザビ家の独裁からジオンを解放し、戦争終結のきっかけを作りました。
ちなみに、この戦いの中でカイ・シデンがニュータイプとして覚醒し、脱出しようとするギレンを見つけ出すなど、大金星をあげています。
◆シャアは本当にガルマを裏切ったのか 小説版で変わる“坊やだからさ”の意味
アムロのライバルであるシャアも、アニメ版と小説版では性格が大きく異なっています。最大の相違点は、ガルマ・ザビとの関係でしょう。
アニメにおけるシャアは、ザビ家への復讐を果たすため、友人であったガルマを罠にかけ命を奪います。しかし、小説版では罠にかけるどころか、むしろガルマに強い友情すら感じていました。
実際、小説『機動戦士ガンダム Ⅰ』では、シャアは友情に報いるため、ペガサスに肉薄しガンダムと交戦しています。さらに、ガルマの特攻シーンでは、「ガルマ! よせ!」とガルマを必死に止めようとしていました。
しかも、ガルマが散った後も、必死にガルマはザビ家の一員であり、命を落としたのはむしろ僥倖だと言い聞かせています。かの有名なセリフ「坊やだからさ」も、どこか悲しげな印象を受けるセリフに様変わりしていました。
ちなみに、書籍『機動戦士ガンダム大事典 一年戦争編』(出版:ラポート、1991年6月1日出版)によると、元々アニメでもシャアが裏切るプランはなく、安彦良和か氏ら出たアイデアを富野監督が採用したものだったようです。
安彦氏曰く、富野監督の書いた構成案は、間が詰まりすぎてて分かりづらく、安彦氏ですらシャアとザビ家の関係をはじめ、あまり設定の詳細を把握できていませんでした。それでも、安彦氏はシャアとガルマの2人が尋常ではない関わり方をする様から、シャアはガルマを謀ってしまうのではと感じ、富野監督に話します。
すると、富野監督がストーリー展開に、シャアがガルマを謀る展開を盛り込んでくれたようです。
◆ララァの役割はなぜ違うのか アムロに影響を与えたクスコ・アルの存在
アニメでアムロとシャアが、ニュータイプという存在を、強く意識させるきっかけを作ったララァ・スン。亡くなったあとも、彼女の存在は彼らに影響を与え続け、シャアは隕石落としをする凶行にまで至りました。
まさに、『機動戦士ガンダム』を語るうえで、欠かせない存在であるララァ・スンですが、小説版では第1巻であっさりと退場してしまいます。しかも、アムロとララァの邂逅は一瞬だったため、ララァが亡くなったあとにそこまで感慨に浸ることもありません。
シャアはララァに対して多少の愛情を抱いていたようですが、アムロを生涯憎むほど入れ込んでいたわけではなかったようです。しかも、ララァ退場後に、よりアムロに影響を与える女性ニュータイプが現れます。
それがクスコ・アルです。作中ではエルメスと相打ちになり、コア・ファイターで宇宙をただよっていたアムロを救助する形で接触。彼女との接触を経て、アムロはニュータイプという存在を本格的に知ることになります。その後、クスコとの戦いを経て、アムロはニュータイプとして進化していきました。
──小説版『機動戦士ガンダム』は、アニメ版の物語をそのまま文章に置き換えた作品ではありません。アムロの死、シャアとガルマの友情、ララァの早期退場、そしてクスコ・アルの登場。どれもアニメ版の印象を知っているほど、強い違和感を覚える変更点です。
しかし、その違いはたんなる別展開ではなく、小説という媒体で一年戦争とニュータイプの物語を描き切るための再構成だったとも考えられます。アニメではその後のシリーズへ続いていくアムロとシャアの因縁も、小説版では別の形で決着へ向かいます。だからこそ小説版を読むと、初代『ガンダム』という作品が持っていた可能性の広さが見えてきます。アニメ版とは違う“もう一つの一年戦争”として、あらためて振り返る価値があるのではないでしょうか。
〈文/北野ダイキ(ガンダム担当ライター)〉
《北野ダイキ》
『Real Sound』などで、アニメ・漫画を中心に執筆するライター。『アニギャラ☆REW』では、『ガンダム』シリーズの宇宙世紀作品をはじめ、モビルスーツの設定、外伝作品、関連書籍などを踏まえた解説記事を担当。定番の人気機体からマニアックな機体まで幅広く取り上げ、作品を見返すきっかけになるような情報整理を得意としている。
※サムネイル画像:Amazonより 『「機動戦士ガンダムⅢ」(出版社:KADOKAWA)』


