何でも力でねじ伏せるイメージ強い拳王こと「ラオウ」ですが、実は作中でたびたび“拳王らしからぬ”臆病な行動をとっています。

◆サウザーを心底恐れて自分で戦うのを避けていた!?

 南斗鳳凰拳の使い手である聖帝・サウザーは、「北斗神拳では倒せない」と言い伝えられており、名だたる将からも恐れられた存在でした。作中でもサウザーの手下から「聖帝とはあの世紀末覇者拳王すら戦うのを避けた男!!」と、ケンシロウに明かされています。

 聖帝十字陵なる権威の象徴となる建造物を造り、まさに帝として君臨していましたが、そんなことラオウが黙っているはずがない! と思いきや偵察しただけで帰っています。

 その後、南斗白鷺拳のシュウや彼が守る村人たちを助けるため、ケンシロウがサウザーに挑みますが敗退。シュウの息子・シバの捨て身の陽動で命からがらケンシロウは逃げますが、途中で意識を失います。

 そこへ駆けつけたラオウは、ケンシロウを抱え上げ兄らしく助けるのかと思いきや「おまえにはこの拳王のためにサウザーの謎を解いてもらおう!!」と、まさかの弟を実験台にする目的で救出しています。

 向かうところ敵なしの世紀末覇者のはずが、「勝てない試合はしない」という何とも慎重で臆病な一面が垣間見える一幕でした。

◆ケンシロウとの初戦後はおとなしく引き下がっている

 レイがラオウに新血愁を突かれたところに駆けつけたトキ、ケンシロウは逆上してラオウと一戦交えます。連闘のすえケンシロウに重症を負わせながらも、自身も瀕死の状態となったラオウはトキから引き下がるように進言されました。

 激高するかと思いきやクルッと体を反転させ、「今日がきさまとおれの戦いの始まりなのだ!」と捨てゼリフを吐いて、そそくさと黒王に跨りおとなしく去っています。

 その後、逃げ出した雑兵たちを引き連れて居城に帰還。部下のリュウガが功績への褒美として「ケンシロウとの対決」を求めたときも、最初こそ怒りを露わにしていたものの、1コマ押し黙ったすえ「よかろう。止める理由はない!」と、まさかの快諾。

 北斗神拳継承者争いの因縁の相手であり、自身を敗北寸前まで追い詰めた宿敵ケンシロウにすら、一度互角の戦いとなり敗北リスクに怖じ気づいたのか、「あわよくば、部下が倒してくれたらラッキー」とでも言わんばかりの判断です。

 もちろん、「部下のリュウガにやられるような男では、拳王自らが再戦する価値もない」と、ケンシロウの力量をはかる意味もあったのかもしれませんが、宿命の相手ならば、ここはリュウガの希望を却下するのが筋だったと言えるでしょう。

◆少年時代に恋したユリアにも世紀末覇者になるまでアタックしなかった!?

 ラオウは少年時代、師・リュウケンとの厳しい修行で深手を負い、倒れているところユリアが現れ優しく傷を拭ってくれたことにより、恋心を抱いていたことが描かれています。

 しかし、ユリアはケンシロウと恋人関係になり、伝承者になると同時に婚約。ラオウは恋心を胸に秘めたまま、ユリアは表向き命を絶ちました。

 時は流れ、世紀末覇者にのぼり詰めたラオウは、ユリアが南斗最後の将として生きていると察すると、一目散にユリアを自分のものにしようと駆け付けています。

 この点からも、少年時代まだ未熟だった自分に自信が持てず、伝承者争いにも敗れて一時はユリアをケンシロウに譲って身を引いたものと思われます。

 ところが、ユリアへの恋心が捨てきれず、覇者となった今なら自信をもってアタックできると踏んだのか、あるいは女は強い男に惚れるものと思い込んでいたのか? 迷うことなく「お前は天を握った男にふさわしい女!!」「迎えにきたのだユリア!」と真正面から告白しています(実際は影武者)。

 ラオウがユリアと出会い、ケンシロウと恋人関係になるまでに、ラオウにはアタックするチャンスは少なからずあったでしょう。作中でユリアがシンに連れ去られたのは、ケンシロウが伝承者に決まり、婚約して2人が旅に出る当日でした。

 つまり、「伝承者こそ一人前の男」であるなら、ケンシロウがユリアと恋仲になった時点でケンシロウはまだ半人前。恋愛に対してはケンシロウの方がラオウよりも積極的だったといえます。ラオウは恋愛に対しても臆病で、いわゆる「奥手」だったことがうかがえます。

 

 ──このように見ていくと、ラオウは手段を選ばず自分の欲しいものを手中におさめることに余念がなかったことは間違いありません。しかし、その根底には小心者で臆病な心があったと想像できます。

 もちろん、この世のすべてを欲しがるほどの強欲だったことも確かですが、「拳王」という通り名は自分を大きく見せるための鎧のようなものだったといえるでしょう。

 ケンシロウやトキのように、仲間をうまく作れず恋愛にも奥手。そんな内気な自分のアイデンティティを表現するため、力に答えを求めたように見えます。だからこそ「世紀末覇者・拳王」という肩書に誰よりもこだわり、作中でもたびたび自称していたのではないでしょうか?

 初戦でケンシロウと引き分けになってその場を去る際、トキは「やつも また孤独……」とつぶやいていますが、誰よりもラオウの人となりを知る実弟の一言こそ、ラオウの本質をついていたのでしょう。

〈文/lite4s〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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