※本記事にはTVアニメ・漫画『北斗の拳』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はTVアニメ・漫画『北斗の拳』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
ザコたちからボスキャラまで、ほかの作品では例をみない敵キャラが数多く登場するのも『北斗の拳』の魅力の一つでしょう。奇抜なファッションに、ケンシロウの強さを際立たせるド派手なやられっぷりは、時に憎むべき相手ではなく愛されキャラとして読者たちの心に刻まれています。彼らはなぜ奇妙な断末魔を上げ、なぜモヒカンを好むのか……、その理由を知ったとき、さらに敵キャラへの魅力が高まるかもしれません。
◆「あべし」の男は本当にザコだったのか 断末魔で見える敵キャラの“格”
『北斗の拳』では各章で強敵となるボス戦の前に、前座となるいわゆる「中ボス」的な立ち位置のキャラが多く登場します。現在放送・配信中の新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』で描かれている“ジャッカル編”でも「中ボス」がいます。
それが、ジャッカルの腹心ともいえるフォックス。しかし、実は中ボス的な存在はフォックスではなかったのかもしれません。結論からいうと、元プロボクサーの男が中ボスだった可能性があるのです。ちなみに彼は、トヨの村でケンシロウとの戦いを避けると判断したジャッカルに対し、唯一反論した人物でもあります。
結果はあっけなくケンシロウにやられてしまうのですが、なぜそんな男が中ボス設定だったと考えられるのか……。実は『北斗の拳』を象徴する「断末魔」が重要な根拠となっているのです。
作中に登場する断末魔は、作品を彩る魅力の1つで、中でも有名なのが、「ひでぶ」「たわば」「うわらば」、そして「あべし」でしょう。特に「あべし」は有名で、『北斗の拳』を題材にしたゲームや回胴遊技機などのシステム名として広く取り上げられています。
そして注目したいのが、2014年4月19日に放送された情報バラエティ番組『ランク王国』に出演した原哲夫先生が好きな断末魔ランキングを紹介した際、「ひでぶ」、「たわば」、「あべし」をTOP3に入れていた点です。
ランキング上位に入れていることからも、少なくとも原先生にとって思い入れのあるキャラに言わせたセリフだったとも捉えられます。事実、TOP5にはアミバの「うわらば」とジャギの「どぉえへぷ」と作中でも有名な悪役の断末魔がランクインしていました。
さて、あらためて断末魔に注目すると、「ひでぶ」といったのはハートで、「たわば」といったのはマッド軍曹です。もちろんハートはKINGの中ボスに位置するキャラクターで、マッド軍曹も立ち位置としてはGOLANの中ボスに当たる存在でした。
つまり、アミバやジャギの断末魔を含めると、原先生が好きな断末魔にはある程度の“格”を持つ敵キャラという共通点があるのです。
そして、かなり有名な断末魔の「あべし」ですが、その叫び声をあげたのが件の元プロボクサー……。つまり、ここまでの法則に当てはめると、彼はたんなるザコキャラではなく、中ボスクラスの役割を担う予定だった可能性が浮上してくるのではないでしょうか。
ちなみにこの元プロボクサー、原作では無名のキャラでしたが、のちにガンホー・オンライン・エンターテインメントが2008年に運営したオンラインゲーム『北斗の拳ONLINE』にて、「スコルピオ」 という名前であることが判明しています。このことからも、彼が意外と公式から大事にされていることが分かるのです。
そんなスコルピオですが、ほかの断末魔メンバーたちに比べて何もできずに負けた印象があります。しかし、少しだけ彼の肩を持つならば、このときのケンシロウはタキの哀しみを背負い、トヨが致命傷を負わされたことへの激しい怒りで覚醒していました。
この影響はかなり大きく、相手をしたタイミングが悪かったともいえるでしょう。
◆なぜザコはモヒカンだらけなのか 世紀末で強そうに見せるための髪型説
『北斗の拳』のザコといえば、モヒカンを思い浮かべる人も多いでしょう。なぜザコたちのヘアスタイルの主流がモヒカンなのかについては、もちろん公式からの説明はありません。
しかし、この理由については、映画『マッドマックス2』の影響が大きいと推察されます。実は『北斗の拳』オフィシャルウェブサイトで2013年に行われた北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー『北斗語り』で、原作者の武論尊先生と作画担当の原先生が、『マッドマックス2』が北斗の世界観に大きな影響を与えたと語っています。
そして、『マッドマックス2』ではウェズという暴走族のリーダーが登場するのですが、その髪型がなんと赤いモヒカンスタイルなのです。百聞は一見に如かずで、時間のある人はぜひ調べてみていただきたいのですが、彼の出で立ちはまさに北斗に登場するザコそのもの……。恐らく、原先生がリスペクトをこめてオマージュして生み出したのが、このモヒカンザコたちなのかもしれません。
とはいっても、あまりにもモヒカン率が多いのは気になるところです。実はモヒカン率の多さについて、『北斗の拳』のアニメにも所縁があるレジェンド声優の千葉繁さんが、2022年1月24日に文化放送で放送されたラジオ番組『くにまるジャパン極』のゲスト出演した際に面白い見解を語っています。
千葉さんの考察によると、「ザコ」といっても昔は普通に日常を送る一般人だったかもしれず、それが核戦争になって仕事がなくなって、やむなくシンやラオウといった強者の下で働いているのかもしれないと、彼らのバックグランドに想いを馳せていました。
さらに「見た目はすっとんだキャラクターに描かれていますけど、強そうに見せないと雇ってもらえないから、ああいう格好をしているんです。」と、モヒカンが、自らを強そうに見せるためのヘアスタイルではないかと推測していました。
実は千葉さんのこの考察は的を射ており、2026年1月に放送されたアニメ『北斗の拳 拳王軍ザコたちの挽歌』第11話でも、似たような解釈がなされています。この回では、主人公のノブが同僚のザコたちと「モヒカンにしている意味」について語り合っていました。
そこに現れたモヒカンの男が、「モヒカンにすれば、身長が高く見えるから強そうに見えるだろ?」と語っているのです。劇中ではあくまでも個人の意見とされていましたが、まさかの威圧目的で流行っていたとも受け取れる発言でした。
ちなみに、この回ではモヒカンじゃなくなると力が出なくなって、その辺の酔っ払いにすら負けてしまうようになっていました。逆にモヒカンに戻すと従来のパワーが出るようになり、モヒカンには威嚇以外の別の意味も込められていたことがオチとして描かれています。
──モヒカンや断末魔といった印象的な演出も、背景を知るとまた違った見え方がしてきます。『北斗の拳』は、ザコキャラ1人に至るまで強烈な個性と世界観が作り込まれており、あらためてそこに注目してみれば、さらに奥深い作品として楽しめるのではないでしょうか。
〈文/fuku_yoshi〉
《fuku_yoshi》
出版社2社で約10年にわたり編集業務に従事した元編集者。男性向けライフスタイル誌やムック制作のほか、漫画編集者としての経験も持つ。現在はフリーライターとして、映画・アニメ・漫画などサブカルチャー領域を中心に記事を執筆。漫画考察記事では、元編集者の視点を活かし、作品内の描写や設定を論理的に読み解く記事制作を得意としている。
※サムネイル画像:『北斗の拳 拳王軍ザコたちの挽歌』公式Webサイトより 『「北斗の拳 拳王軍ザコたちの挽歌」第1話 場面写真 (C)武論尊・原哲夫/コアミックス 1983, (C)ザコたちの挽歌製作委員会』


