『HUNTER×HUNTER』のキャラクターや組織の名前は、原作者の冨樫義博先生が好きなものからネーミングしていることも多いです。その中にはキャラクターの性格や念能力に関する秘密が隠されていたり、組み合わせると意味を持つものもあります。

◆変化球の名前がつけられた本当の意味──ナックル・シュート・パーム

 ナックル・シュート・パームは、いずれも野球の変化球を由来とするネーミングです。冨樫義博先生が野球好きなのもありますが、変化球の名前がつけられているのは、彼らの性格と能力がストレートに結びついていないからだと思われます。

 パームの性格は惚れっぽく、ストーカー体質です。そのため、念の系統は強化系ですが、水晶を通して対象の動向を観察できるストーカーにうってつけの能力となっています。これは当然、強化系の能力を十分に発揮できてはおらず、むしろ戦闘向けのものではありません。そういう意味で、パームの能力は性格に引っ張られた変化球といえるでしょう。

 実際、キメラアントに捕まって蟻化されてから目覚めた能力、暗黒の鬼婦神(ブラックウィドウ)は強化系の特性を思う存分発揮。キルアの50キログラムあるヨーヨーを砕いたり打撃戦で圧倒したり、驚くべき攻撃力を見せています。

 ナックルは喧嘩上等のいかにもなヤンキータイプで、短気で直情的な性格です。念能力の天上不知唯我独損(ハコワレ)は具現化系ですが、相手にオーラを貸し付けるため殴り合いが前提の能力となっています。本来、近接戦闘を得意とするのは強化系なので、具現化系としてはアンバランスな能力です。

 こんな能力になっているのは、ナックルの性格と目的が大きく影響しています。彼がキメラアント討伐に参加したのも、化け物だからといって問答無用で退治するのを良しとせず、対話することを大切に考えているからです。

 そのためには相手を無力化する必要がありますが、力で相手をボコった後では対等な話し合いはできません。殴り合いが前提ながら、自分も相手も傷つかず絶状態にできる天上不知唯我独損(ハコワレ)は、ナックルの思想を具現化した変化球な能力といえるでしょう。

 シュートは普段冷静な反面、慎重かつ弱気な性格です。戦闘にも消極的なため、傷つけても構わない相手だけに能力を使うようにしています。

 そのため、暗い宿(ホテル・ラフレシア)の発動条件は、相手を傷つけること。一定のダメージを与えると標的そのもの、もしくはダメージを与えた部位を閉じ込められます。

 操作系はキスをする、針を刺すなどダメージを与えなくても相手の命や意志を奪えるのが最大の特徴です。そのため、シュートの暗い宿(ホテル・ラフレシア)も本来の操作系の特徴からすると、かなり変化球な能力といえるでしょう。

 なお、ジャイロも野球のジャイロボールという変化球からネーミングされています。彼はほかのNGLの住人と同じように女王蟻に食べられて、兵隊蟻として生まれ変わりました。しかし、強靭な精神力によってただ1人、女王蟻の支配から逃れて旅立っています。変化球の名前を冠するのに、ふさわしい変わり種といえるでしょう。

 『レベルE』をはじめ冨樫先生の作品には野球ネタが多く、『幽☆遊☆白書』の桑原和真は、KKコンビと呼ばれた桑田真澄さんと清原和博さんを組み合わせた名前だといわれています。ナックルたちも、原作者の好きが具現化されたネーミングといえるでしょう。

◆あの往年の名ギャグが由来──イックションペ

 一ツ星ハンターのイックションペ=カットゥーヂャは、加藤茶さんの「加トちゃんペ」とくしゃみの「ヘックション」のアナグラムとなっています。冨樫先生がお笑い好きなのは有名なので、往年の名ギャグから名前にしたのでしょう。

 お笑い芸人についてはウド鈴木さんに外見が似ているウッディー、バナナマンの日村勇紀さんがモデルと思われるマッシュルというキャラクターも登場しています。

 イックションペは廃人ゲーマーで、額に「Pe」の字が書かれた被り物をした電脳世界の住人です。加藤茶さんが長年芸能界で活躍するテレビの中の人ということで、電脳世界の住人という設定になっているのかもしれません。

◆三大マフィアの名前を組み合わせると集英社

 カキン帝国の裏社会を牛耳る3大マフィアの「シュウ=ウ」「エイ=イ」「シャ=ア」は、『週刊少年ジャンプ』を発行する集英社から名づけられています。自身が連載している雑誌の出版社をマフィアの名前にするとは、なかなか肝が座った行為といえるでしょう。

 なお、これらの3大マフィアは、ナスビ=ホイコーロの実子が取り仕切っています。シュウ=ウ一家の組長はタマネギ状の頭をした老人で、その名もオニオール。シャ=ア一家の組長はブロッコリーアフロヘアの男で、名前はブロッコ=リーとそのままのネーミングです。

 ナスビ=ホイコーロ関係のキャラクターは、野菜をモチーフとした名前が多くなっています。なお、エイ=イ一家の新しい組長であるモレナの名前の由来は不明ですが、一応モレーナという植物は存在するようです。

 前述したように冨樫先生は好きな野球やお笑いから、名前を考えていることが多くなっています。そう考えると、集英社のことも大好きということなのかもしれません。

◆連続殺人事件の犯人が由来?──ゾルディック家

 暗殺一家ゾルディック家の名前の由来は、ゾディアックなのではないかとファンの間で考察されています。アメリカで1968年から1974年に起きた連続殺人事件、「ゾディアック事件」を暗殺一家の名前に持って来たのでしょう。

 ゾディアックには英語で「黄道十二宮」や「星座」という意味がありますが、犯人からの手紙で自らのことをゾディアックと名乗っていたため、「ゾディアック事件」と呼ばれています。犯人の手紙によると37人の命を奪ったとされる、アメリカでも伝説的な凶悪事件です。

 この事件は2007年に映画化もされています。ノヴの念能力4次元マンション(ハイドアンドシーク)や窓を開く者(スクリーム)も、映画『ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ』や『スクリーム』が由来です。冨樫先生は名前を考えるときに、映画を参考にすることも多いため、ゾルディック家の由来が「ゾディアック事件」である可能性も大いにありうるでしょう。

 

 ──鳥山明先生が描く『Dr.スランプ』の悪役Dr.マシリトは、当時編集だった「ボツ」が口グセの鳥嶋和彦さんがモデルになっていることは有名です。好きなものだったり、ボツにされてカチンときた人だったり、キャラクターに思い入れのある名前をつけると、きっと漫画を描くモチベーションが高まるのでしょう。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

フリーライターとして活動中。漫画・アニメ・医療・金融などの記事、YouTube用シナリオを執筆・編集しています。

 

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