<この記事にはTVアニメ、原作漫画『鬼滅の刃』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>
『「鬼滅の刃」柱稽古編』がついに最終回を迎え、早くも「無限城編」が劇場版三部作で制作されることが発表されました。もちろんその話題がSNSで話題を席巻するかと思われたのですが、それだけじゃないのがさすがの『鬼滅の刃』。しっかりと最終回のストーリーや演出に対する賛美の声があがりました。
中でもX(旧Twitter)のトレンド欄では産屋敷による家族をも巻き込んだ自爆行為を“産屋敷ボンバー”と称し、衝撃的なシリアスな行為とキャッチーすぎる語感のギャップも相まって一時的な流行語となりました。
そんないろんな話題となった最終回の賛辞についてもう一つ、気になる点があります。そんな産屋敷の自爆描写や、クライマックスの無限城の描写について“作画がすごい”という声が上がっていたことです。実はこの賛辞、気になる人にはどうしても気になってしまう発言なのです。
◆「作画」ってなんだ? 爆発のシーンや無限城の凄さは“ココ”だ!
産屋敷の自爆描写や、クライマックスの無限城の描写は実は、「作画」がすごいだけじゃない、というのが実際のところです。
『鬼滅の刃』に限らずアニメーションの映像がすごいときに「作画がすごい!」という評価の声を聞いたことがあるでしょう。作画とはざっくりいってしまえば、アニメーションの絵を描く工程のこと。その中にも原画や動画といった細かい区別があるのですが、基本的にアニメーションの絵が素晴らしかったときに「作画がすごい」といった声が上がるわけです。
しかし『鬼滅の刃』に関してはシーンによっては“作画”以外の部分が活躍しているシーンも多いです。それが3DCGを利用した場面です。
『鬼滅の刃』は、場面によって3DCGを作画に合成することで迫力のあるシーンを生み出すことが多い作品です。そんな代表的なシーンがまさに前述の、自爆描写であり無限城のシーンです。それらのシーンはキャラクターたちの作画に3DCGで作った炎や背景を合わせることで映像を作り出しています。
見事なのは質感が違う作画と3DCGの2種類の手法を違和感なく合致させている点です。
作品によっては明らかに部分的に3DCGだと素人目にも分かってしまう瞬間がありますが、『鬼滅の刃』ではそういった違和感がノイズにならないよう、作画と3DCGの使い分けや使い所が絶妙なことが分かります。
それぐらい自然に作られているからこそ、今回お披露目となったスローモーションで家屋が爆発していく様子であったり、無限城の中を行き交う鬼殺隊の面々をカメラが高速で追っていく映像の感動に思わず「作画がすごい」という声が上がってしまうのも無理はないのかもしれません。
昔は「作画」という工程しかなかったからこそ、絵に対して単純に「作画」と呼ぶことができたわけですが、3DCGの登場によって厳密には「作画」じゃない絵が登場していたのです。
◆アニメーションの制作工程が昔と違うせいで「作画」の定義も難しい?
最近のアニメーションは3DCGだけでなく、「作画」以外の工程でも絵を作っています。それが「撮影」という“絵を加工する”工程です。
昔の「撮影」という工程は作画した絵をカメラで撮影することでアニメーション化する行為でした。しかし近年はデジタル化によって、絵をパソコンに取り込んだ上でアニメーションの専用ソフトなどを作ってアニメーションに仕上げます。そのため、カメラの必要がなくなったのに、この仕上げの工程は昔の名残から「撮影」と呼ばれています。
現在の撮影の工程では、作画された絵に対して背景をぼかしたり、色合いの調整を加えたり、光や爆発といったエフェクトを加えたりと、作画がよりリッチになる作業が加わっています。
アニメ「#鬼滅の刃」刀鍛冶の里編
vsハーディング その参パッケージ三巻収録・第五話より、鬼滅アクションシーンにおける
ビデオマスター版 vs OA対策版
のバリエーションです。OA用に撮影段階では光源処理自体をオミットし輝度を確保したケースです。ビデオマスター版映像収録の第三巻は… pic.twitter.com/REA03vZOPg
— ufotable (@ufotable) May 29, 2023
そのため最近のアニメーションで絵がすごい時には「作画がすごい」のか「3DCGがすごい」のか「撮影がすごいのか」といろんな可能性があるため、上手いアニメーションほど具体的に評価するのが難しい時代になっているといえます。
ただ忘れてはいけないのは“正しく褒めよう”という話ではなく、すごいアニメーションを観たらぜひとも臆せず「すごかった」と声をあげてほしいところ。
作画なのか3DCGなのか撮影なのかなんて素人目に分かるものじゃないのは当然。ですが「このシーンが良かった」「このシーンに感動した」という声は、きっとその絵作りに参加した人、ひいてはそのアニメーションの制作に携わった人に届けば励みになるのは間違いないハズ。複雑化していくアニメーションの制作に臆せず、どんどん「すごいものはすごい」と声を上げていきましょう。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi