フランスのアニメーション映画『マーズ・エクスプレス』が、2026年1月30日に日本公開されることが発表されました。
<画像引用元:『「マーズ・エクスプレス」キービジュアル © Everybody on Deck - Je Suis Bien Content - EV.L prod - Plume Finance - France 3 Cinéma - Shine Conseils - Gebeka Films – Amopix>
『マーズ・エクスプレス』はカンヌ国際映画祭への公式招待や、アニメーションの世界的なアワードであるアニー賞の長編インディペンデント作品賞にノミネートされたほか、日本でも「新潟国際アニメーション映画祭」でも、制作手法やジャンルなどのさまざまな境界に捉われず、アニメーションの世界に進化を与える作品に与えるとされる“境界賞”を受賞してきた作品です。
今回の公開の発表は、映画の完成から日本の興行までの間が空いた以上に、なかなか上映の機会が焦らされ続けたという背景があります。
◆実は『マーズ・エクスプレス』は日本での公開中止がたびたび起こっていた?
もともと『マーズ・エクスプレス』が日本で初めて上映されたのは、前述の「新潟国際アニメーション映画祭」の第二回目に当たる2024年3月でした。しかし、そこから長らく公開の機会がなかった──というよりも上映の機会が度々中止となっていました。
2024年の11月末には新潟国際アニメーション映画祭のコンペティション作品を東京・ユーロスペースで上映するという企画が開催され、『マーズ・エクスプレス』も当初は上映ラインアップの中に入っていたのですが、早々に諸事情により上映ができなくなったと発表されました。
また、毎年オンライン上でも行われている「マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」が今年1月に第15回目が開催され、その中のプログラムの一つ「Working Class Heroes」のラインナップにも『マーズ・エクスプレス』は選出されました。しかしその当初のラインアップに反して、日本向けには『マーズ・エクスプレス』が配信されていないという事態が発生していました。
二度も公開の機会が中断されているとなると、権利的にも日本の興行が既に決まっているのでは、と予想できるところですが、今回無事にその日本興行自体の実施が明らかになったワケです。
今回の興行には近年海外作品の配給にも取り組んでいるトムス・エンタテインメイトが提供を務め、配給は株式会社ハークがトムス・エンタテインメントと共同で務めます。全国公開して広く観られる環境を設けてくれるのはありがたいことで、ついに『マーズ・エクスプレス』もこの1月にその準備が整うということで楽しみな話です。
◆『マーズ・エクスプレス』は日本の作品の影響を色濃く受け継いだ作品?
『マーズ・エクスプレス』の日本公開に期待がかかるのは、単純な作品としての面白さもそうなのですが、日本作品の影響が色濃く出ているのも理由の一つです。
本作は23世紀の火星で人類とロボットが共存しているという世界観で、私立探偵の女性と、亡くなったかつてのパートナーのアンドロイドのコンビが暗殺者に襲われる学生を追う“SFノワール”とでもいうような作品です。
女性主人公とそれを支える大柄な男性のコンビが犯罪を追うという体裁的にも『攻殻機動隊』シリーズの草薙素子とバトーの二人を彷彿とさせますが、未来的な感覚であったり細部の設定からも、そのエッセンスは感じられるでしょう。
実際に本作を監督したジェレミー・ペラン氏も日本の作品の影響は明言しています。押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はもちろんのこと、大友克洋監督の『AKIRA』や今敏監督の『パプリカ』などのタイトルからインスピレーションを得ているそうですが、中でも海外向けのインタビューでは魅了された作品として1993年に公開された『機動警察パトレイバー 2 the Movie』のタイトルを挙げていて、そのテーマ性やテンポ、ショットなどに感動したそうです。
『マーズ・エクスプレス』はまさにそんな『機動警察パトレイバー 2 the Movie』が持つ哲学的な面への言及などにも踏み込んだ作品となっています。今回のティザーポスターの惹句に使われている「人間が私たちを捨てたんじゃない 私たちが捨てる」のフレーズにもあるようなロボットの人格を問うテーマ性などは、日本のSFアニメの名作たちを観てきている人でも見応えを感じる部分ではないでしょうか。
日本のアニメのエッセンスも多分に含んだ、フランスのアニメーションの堂々の上映ということで『マーズ・エクスプレス』には、来年1月のヒットタイトルとしてぜひ活躍してほしいところです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『「マーズ・エクスプレス」キービジュアル © Everybody on Deck - Je Suis Bien Content - EV.L prod - Plume Finance - France 3 Cinéma - Shine Conseils - Gebeka Films – Amopix