今、映画館ではクリエイターを題材にしたアニメーション映画2作品が同時期に公開されています。それが『ルックバック』と『数分間のエールを』。

 作中で主人公たちが手がけている分野が漫画とミュージックビデオで異なる題材となっていますが、両作品とも創作という点では近いところにあります。しかもおもしろいのが「なぜ作るのか」という同じ課題を描いているのに、状況がまったく対称的だったのです。

◆創作の加害性とは?「届いてしまうこと」を描いた『ルックバック』

 原作漫画が発表された時点で既にトレンドとなっていた映画が『ルックバック』です。本作では、自身が創作したことで起こってしまった事態に後悔し、「なぜ作るのか」という問いにぶつかる物語でした。

 この映画では自身の絵に自信のある主人公・藤野が、同級生で引きこもりでありながらも自身よりも画力があり、それでいて自分を「先生」と慕ってくれる京本と出会ったことで人生が変わっていく行方を描いていく作品です。

 幼い頃から熱を持って絵を描いてきた藤野が漫画家として成功していく末で迎えてしまうある事件。その末で“自身が絵を描かなければこんなことは起きなかったのに”という思いから、“もし絵を描かなかったとしたら”の話を創作ならではの見せ方で描いていき、「なぜ漫画を描いているのか」という答えを見出していく物語となっています。

 悲しいことが起こるなら作らない方が良かったのではないか、という創作の壁にぶつかった人に優しくそんなことはないと導いてくれる──『ルックバック』はそんな創作者の背中を優しく押してくれる映画となっています。

◆『ルックバック』と対称的な創作の世界を描いた『数分間のエールを』

 届いてしまうことを描いたのが『ルックバック』なら、一方で届かないことのやるせない世界を描いたのが『数分間のエールを』です。

 この映画の主人公・朝屋彼方はミュージックビデオの制作に夢中な高校生。同じ学校でバンドをやっている友人のミュージックビデオを作ってあげていたりと、既に評価も受けている彼は、偶然ストリートで弾き語りをしていた織重夕と出会い、その歌声に魅せられて彼女の曲の映像を作りたいと申し出るという内容です。

 そんな夕は過去にどれだけ歌を作っても世間に届かないでいたという背景を持っていました。どれだけ曲を作ってオンライン上にアップしようとも鳴かず飛ばず。その末についには創作の道で生きていくのを諦めようとしていきます。

 そんな中で出会った彼方や、彼方が密かに羨んでいた絵の才能を持った友人の大輔といった人物たちとのドラマが絡み合い、それがあるミュージックビデオへとつながっていくことになります。

 『ルックバック』が努力が実った創作者の物語ならば、『数分間のエールを』は努力が実らなかった創作者の物語です。どれだけ作っても誰かに届かなかった時にぶつかる壁は、『ルックバック』と同じ「なぜ作るのか」という同じ問題だったのは、少し不思議な感じがします。

◆「なぜ作るのか」の壁にぶつかる前にもハードルがある?

 一方は届いてしまったことに悩み、もう一方では届かないことに悩んでいるというまったく対称的な世界を描いていながら、同じ壁にぶつかっているのがとても興味深い点です。

 絵、音楽、映像......自身が創作活動に取り組んでいる人も多いと思いますが、それぞれの立場によってこれらの映画の刺さり方は違うのではないでしょうか。もしかすると、どちらかには「分かる」と思えたり、一方には「うらやましい」なんて思う場合もあるかもしれないです。

 しかし、この両作品を観ての学びは、創作活動がどんな評価を得ようとも“悩みは生まれてしまう”ということかもしれません。創作をしていく人の宿命として「なぜ作るのか」という問題は必ずぶつかるのでしょう。

 そして両作品に言える共通点として忘れてはいけないのが登場人物がみんな「作りあげる」というゴールを何度も迎えていることでしょう。

 創作の世界では誰もが完成にたどりつけるわけではありません。『ルックバック』を観て、そう言えば自分も幼い頃に漫画家を夢見て白帳に漫画を描いていたのに、いつからか漫画を描かなくなった、ということを思い出しました。

 一つの作品を完成させるということだけでも十分に一つの高いハードル。そう思うと「なぜ作るのか」の壁にぶつかる以前の世界もあると思うと、壁にぶつかれられるだけでも創作の世界では一握りなのかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

※サムネイル画像:(C)藤本タツキ/集英社(C)2024「ルックバック」製作委員会

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレターを配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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