2024年末、突如として発表された短い『ポケモン』のクレイアニメーションが世界的なニュースとなりました。

 粘土で作られたモンスターボールと二つの社名。本作は『ポケモン』とアードマン・アニメーションズ(以下、アドマン)がコラボレーションを果たし、共同開発プロジェクトに取り組んでいることを発表した映像です。

 現時点でアニメシリーズなのか、映画なのか、もしくはそれ以外なのかは明かされていませんが、2027年に成果物が発表される予定だと発表されています。

 このニュースは2社の今後の方針が表れているプロジェクトといえます。

◆多岐に渡るアニメーション展開! 『ポケモン』アニメの今

『ポケモン』シリーズのアニメーション制作の方針は数年前から大きく変わっています。

 かつてはTVアニメシリーズを軸として毎年夏に一本の長編映画を公開することでお馴染みでした。しかし2020年代に入り劇場版シリーズの開発が終了。それどころか2023年にアニメシリーズのリニューアルという大転換に舵を切ります。加えてこの頃から軸をTVアニメシリーズに限らず、Web向けに短編アニメーションを発表したり、短期のアニメーションシリーズの制作をするなど大きく変わってきています。

 アニメーションの制作もかつてはオー・エル・エム社が担当していましたが、Webアニメ『薄明の翼』ではスタジオコロリド、Netfixシリーズ『ポケモンコンシェルジュ』ではドワーフスタジオといったようにさまざまな日本のアニメーション制作会社との合作に挑んでいます。

 昨年は中国における帰省のシーズンである春節をテーマとしたスペシャルアニメ『ただいま』を『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』の中国のアニメスタジオ寒木春華(HMCH)社が担当したりと、海外のアニメーション制作会社と本格的な合作を果たしました。

 その流れからついにイギリスの大手アニメーション制作会社であるアードマンとの合作の発表です。わざわざ1年以上前から特報映像を用意するという点からも、スケールの大きなプロジェクトであると推測できます。ポケモンとアニメーションの関係はすっかり5年前とは別物となりました。

◆アードマンは『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』だけじゃない会社を目指している?

 一方、このアードマンというアニメーション制作会社も近年変化が感じられます。

 アードマンといえば『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』で知られるストップモーションアニメーションの制作を主としている会社です。最近では1月3日からNetflixで新作長編作品『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』を世界中に配信開始。早くもイギリスだけに限らずアメリカの映画賞やアニメーション賞で多くのノミネートを果たしています。

 アードマン作品はアメリカでの評価の高さも強みです。米国アカデミー賞の長編アニメ賞を受賞したアメリカ以外の制作会社は、実はスタジオジブリ(『千と千尋の神隠し』・『君たちはどう生きるか』)以外では、アードマンだけ。2005年に『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』が『ハウルの動く城』を下して受賞を果たしています。

 そんなアードマンの設立は1972年。半世紀もの歴史を持つ会社です。しかしその一方で実はキャラクターブランドとして所有しているものは限られています。

 前述の『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』こそ、日本での活躍でも分かる通り世界的に活躍するキャラクターとなっていますが、それ以外となると目立ったキャラクターを生み出せていません。

 そういった理由もあってか、2000年に発表した映画『チキンラン』の続編として『チキンラン ナゲット大作戦』を20年以上経った2023年にNetflix映画として発表。

 さらにはスイス発のクレイアニメーションシリーズ『ピングー』の新作制作に携わることも去年発表されたばかりです。新たなキャラクターブランドとの結びつきを目指している様子が伺えます。

◆『ポケモン』とアードマンのタッグに期待したいのは“映画”

 そんな『ポケモン』とアードマンのタッグ企画ということでやはり期待したいのは、新作アニメーション映画でしょう。

 いくつもの劇場公開作を作ってきた『ポケモン』でしたが、海外に目を向けると第一弾『ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』をピークに大きなヒットを生めないままでした。

 一方のアードマンといえば映画企画の高い評価は受けているものの、『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』の“次”のヒットシリーズを生めないままです。

 そんな二者が手を組むというのならば、やはり期待したいのは映画作品。キャラクターとしての強みを持った『ポケモン』と、海外で広く評価を得ているアードマンであればまさに互いの悩みを解決できるのではないでしょうか。

 年が明けて映画の賞レースシーズンが始まりましたが、近い将来にこの日本とイギリスのアニメーションタッグがこの賞レースの季節に大活躍する一本を生み出していてもおかしくないです。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteではアニメ映画ラブレターマガジンを配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『Aardman』より

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