3月にTVアニメを放送し終えたばかりというタイミングで、ギャグ漫画『スナックバス江』が、4月10日に突如X(旧Twitter)のトレンドの首位になるほどの話題となりました。
なんとYouTubeにTVアニメ版よりも原作に近い内容の自作アニメーションがアップロードされ、それが原作者であるフォビドゥン澁川先生が拡散していることから、原作者自ら自作したのではないかと言われました。
しかし、この出来事はただのサプライズでは片付けられない内容となっています。
◆原作に忠実ではない?放送当時のTVアニメ『スナックバス江』
『スナックバス江』はもともと攻めたギャグとツッコミの応酬を矢継ぎ早に展開していく作品で、TVアニメ化が決まったときには、再現可能なのかといった点でも話題になった作品でした。
この作品は2017年より「週刊ヤングジャンプ」にて連載が始まったギャグ漫画で、スナックバス江のママであるバス江やチーママの明美、そしてそのお店を訪れる変わったお客さんの会話を中心に展開していきます。そのギャグのテンポなども特徴で、TVアニメの評価は原作を再現しきれていないという声も少なくありませんでした。
そんな中でも注目の一つだったエピソードがTVアニメ第8話の冒頭、「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・ タートルズ」のパロディとして登場する“ティーンエイジ・ミュータント・ネコチーム”が登場する回です。
原作では4匹の猫のミュータントに“トミノ、ハヤオ、アンノ、シンカイ”というどこかで聞いたことのあるような名前が付けられていたのですが、TVアニメでは、名前は改変されて鉢巻きのカラーがそのまま名前になっているほか、原作漫画で描かれた本編もバッサリとカットされてしまいました。
人気の回でもあっただけに残念がるファンも多かったわけですが、今回突如としてアップロードされた自作アニメーションの内容はまさにこの本編を映像化するというもの。TVアニメがしなかった原作通りのネコたちの名前で、本編を映像化していました。
◆企業だからできることとインディーズだからできること
今回の自作アニメーションの登場により、TVアニメができなかったことを見事にやってくれたという声が上がる一方で、TVアニメ版が原作の良さを再現できなかったことなど、ややTVアニメ版に対する批判的な意見も加熱することとなりました。
しかし、一方で忘れてはいけないのは、企業が制作する大規模なアニメーションと、個人制作などの小規模に制作されたインディーズアニメーションではできることが違うことです。
大規模な作品だからこそ、随所まで描き込まれた映像にプロの声優さんの声が乗せられたリッチな仕上がりになります。一方で前述のような実在の人物を思わせる名前を引用するようなギャグや既存のキャラクターに似せるといったギャグは、どうしてもクレームなどが発生しないように避けて保守的な内容になりやすいでしょう。
一方で個人制作のような小規模な作品であれば映像のクオリティの高さを再現するのは困難ですが、タイアップなども絡まず何か表現に問題があっても責任を負うべき範囲がはっきりしており、過激な攻めた内容も率先して表現しやすいという利点があります。
結局は原作再現を考えた時にどうしても、攻めた原作漫画の内容を再現できる後者の方が、TVアニメ『スナックバス江』にとっては多くのファンが求めていたものだった──というのが今回の話題の原因と言えるでしょう。
◆実は原作再現だけじゃなかったTVアニメ『スナックバス江』のもう一つの炎上
そしてこれだけTVアニメ『スナックバス江』に対して批判的な声が上がってしまうのも、実は1月時点でも、ネット上でネガティブなニュースがもう一つ発生していたことが要因と言えます。
というのも、TVアニメ『スナックバス江』の監督である芦名みのるさんが自身のXのアカウントで、「これから「いちばんの原因」な連中が、脚本家を攻撃し始めるよ。」と挑発的な投稿をしたことが話題になり、最終的には投稿全般の自粛・縮小を発表していました。
当時、原作サイドと映像制作サイドの乖離の問題が話題になっていた時期でもあり、それに付随した発言ということもあってより多くの人から、批判的な意見が集まってしまいました。
こういったTVアニメの本編とは別の場所での騒動も踏まえ、原作や原作者への同情を感じさせたことが、今回の自作アニメーションに対して「原作者が制作したのでは?」「TVアニメ版への批判的な意味合いがあるのでは?」といった憶測を加速させてしまったと言えます。
いずれにしてもまさかこんな形で話題になってしまうのは、『スナックバス江』のファンの中には複雑な気持ちを抱いている人もいるでしょう。
ただ、原作漫画『スナックバス江』自体は現在も「週刊ヤングジャンプ」で連載中です。
『スナックバス江』ならこんな状況でもさらに笑いに変えてくれるような機転を利かせてくれるのではないでしょうか。事件が起きてしまったからこそ『スナックバス江』という作品の“この後”に注目です。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi