今年もしっかり凄まじいものが用意されていました。

 2022年4月15日(金)に公開された『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』は公開から3日間で、観客動員数132万人、興行収入は19億人に到達するほどの勢いを見せています。

 例年のように大ヒットが報じられている作品なので、もはやこれだけの集客を見せても「当たり前」のような感覚に陥ってしまいますが、劇場版名探偵コナンシリーズは今年で25作品目。四半世紀(厳密には2020年に『緋色の弾丸』の公開を一年延期しているので今年が26年目ですが)にかけて、これだけの高い人気を維持している作品も限られており、興行収入では先行して劇場版シリーズをスタートしている『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』といった作品たちを凌駕する作品になっています。

 そんな長いブランドとなってきただけに、いい加減題材とするネタも枯渇してきてもおかしくはないのに、『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』はこれがまた見事なまでにこれまでの劇場版名探偵コナンシリーズになかった体験が詰まった映画となっていました。

 正直かなり映画化のハードルの高い題材だったはずなのに、それを見事にまとめてきた映画だったのです。

◆高難度?警察学校編の面々の映画で映画デビュー

 近年の劇場版名探偵コナンでは、今までのシリーズでやってこなかった見所を毎年用意してくれることでおなじみです。

 2019年に公開された『名探偵コナン紺青の拳』であれば、シリーズ初の海外舞台作品であることや、コナン・怪盗キッド・京極という三者の共演。2021年に公開された『名探偵コナン緋色の弾丸』であれば、真空超電導リニアが事件の舞台となっていることや赤井ファミリーの集結など、しっかりとその年ごとの色を持った映画を送り出してきています。

 そんな中、今年公開された『ハロウィンの花嫁』は、シリーズでもかなりの高難易度なテーマ。今回は舞台をハロウィンシーズンの渋谷に設定していることの他に、長年本編でその恋模様を追ってきた高木刑事と佐藤刑事に劇場版シリーズでは初めてメインキャラクターとしてスポットを当てています。

 そして、今年はさらにそんな高木たちよりも上の世代となる警察学校編で活躍した安室透の同期の面々にもスポットが当たった作品となっています。

 この警察学校編の面々というのが、とても扱いが難しい人物です。安室透の他に、松田陣平、伊達航、萩原研二、諸伏景光の五人がメインキャラクターとして登場し、ただでさえ数が多いのに、安室以外は現時点では故人となっていて、コナンたちと並べて登場させることができない存在です。死因も各人バラバラで、萩原と松田はそれぞれ別の爆弾事件で、伊達は交通事故で、諸伏は黒の組織に潜入している途中で亡くなっており、個々にまた複雑な事情が絡んでくるという取り上げるには厄介な立ち位置にあります。

◆『ハロウィンの花嫁』の絶妙な采配

 いかにしてこの面々を劇場版で活躍させるのか。そもそも成立するのか。正直鑑賞前は強い不安を抱いていました。では、実際映画ではどうだったのかというと……。

 見事!

 まぁ、見事!

 よくぞまぁ、生きた時代の違う面々の活躍を活かしつつ、コナンたちの現代の事件に落とし込んだ、とその整理力に感心してしまう作品となっていました。

 今回の映画では、現代と過去の二つの時代の出来事が描かれます。すでに萩原が事件で亡くなっており、松田が佐藤とは出会って亡くなる直前という絶妙な期間に起きたある事件と、その事件にまつわる新たな事件が現代で起こるという物語という組み立て方をしています。

 作中では過去のエピソードとして、しっかり警察学校編の面々の活躍を用意しつつ、その事件自体が手がかりとなってコナンの活躍へと意味を持って挿入されているので、「ただ活躍を入れただけ」にならないところが素晴らしいです。

 しかも、過去のエピソードの時点でもすでに亡くなっている設定の萩原研二の活躍のさせ方が特に秀逸。萩原は作中ではひたすら故人としてしか登場しないのですが、終わってみるとしっかり『ハロウィンの花嫁』でも大活躍を果たす役割だったと思える描き方がされています。

 コナンたち現代人の物語を描きながらも、しっかり警察学校編の面々にも花を持たせるこのバランス感は見事としか言いようがありません。

◆新たな監督を取り入れたコナン映画

 この絶妙なバランス感から、随所の細かい要素までよく知っているコナンスタッフが制作した作品なのかと思いきや、本作で監督を務めたのは劇場版シリーズ初登板となる満仲 勧(みつなか すすむ)氏。

 これまでに『ハイキュー‼︎のTVアニメシリーズの監督などで活躍してきた方なのですが、コナンのTVアニメシリーズへの参加がゼロではないにしろ、『緋色の弾丸』の永岡智佳監督のように10年近く劇場版名探偵コナンシリーズに関わってきた方に比べると、対照的な立場からの抜擢となっています。

 実際に劇場販売パンフレットに収録されているインタビューでは、『名探偵コナン』の世界観について製作陣の様々なフォローを経て、今回の映画が出来上がったことが語られていますが、新しい風として劇場版名探偵コナンシリーズの監督に初めて就任した満仲監督の力と監督を支える周囲の力の良い化学変化が生まれた結果が今回の映画だったように思えます。

 境遇や活躍の場が全く違う多数の人物達の“協力”が意味を持つ『ハロウィンの花嫁』がこのような体制で制作されたことを知ると、また一つ本作のクライマックスに対する思い入れが一段階増します

 高かったはずのハードルを見事飛び越える仕上がりを見せた『ハロウィンの花嫁』。ここまでくると、悲願でもあるシリーズ初の日本興行収入100億円到達というハードルを超えられる日が、近々来るかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

©2022 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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