◆「入場者特典」がなくても100億円に到達できたコナンの偉大さ
2010年代前半までは劇場版『名探偵コナン』シリーズは興行収入50億円すら超えられない作品でした。だからこそ、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の興行収入100億円到達はかなり特別な意味があります。
アニメーション映画における興行収入100億円という数字はかつては、軽々と超えられるような数字ではありませんでした。2016年に『君の名は。』が登場する以前は、日本のアニメーション作品でこの水準の成績を残せるのはスタジオジブリ作品に限られていました。
興行収入50億円すら超えられなかった『名探偵コナン』シリーズは、その状態から徐々にキャラクターに着目した作品内容や映画のテーマに合わせた広告戦略などを実施していき、少しずつ成績を上げていきました。
ついに100億円に届くかと思われたタイミングで、新型コロナウイルス感染症の影響なども受け、一時的には右肩上がりだった勢いが止まってしまったものの、感染症の流行も落ち着いた今年、ついに大台の100億円を超えることができたという悲願の記録だったのです。
近年はアニメーション映画が100億円以上の高い興行成績を上げられるようになり、直近でも『ONE PIECE FILM RED』、『すずめの戸締まり』、『THE FIRST SLAM DUNK』など立て続けに興行収入100億円を超える作品が続いています。
もちろんそういった流れも興行を後押ししたとも言えるのですが、『黒鉄の魚影』の恐ろしいところは、それらの作品では当たり前のように実施されている入場者特典を付けていない点。リピーター向けの施策として今では当たり前のように週替わりなどで実施されている入場者特典ですが、『黒鉄の魚影』は公開初週から一切実施していない点が珍しいです。
もし入場者特典をつければ、それを目的に足を運ぶという人も増えていたでしょうが、『名探偵コナン』の劇場版シリーズはこれまでも基本的にそういった施策を行わないという選択を取り続けてきました。
前売り券であるムビチケに特典などを設けることはあれど、初動以降の集客は映画の内容のポテンシャルだけで保っていたのです。「作品内容だけで集客を積み上げる」という、ある意味硬派な姿勢をとってきたコナンが晴れて100億円越えの作品に仲間入りできたことはやはり素直に拍手を送りたくなる結果です。
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』のかつてない大ヒットは偶然の賜物ではありません。挑戦と継続が産んだ必然的なものなのではないでしょうか。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi