まさか日本で劇場公開されるとは思わなかった、珍しい海外映画が現在日本での劇場公開をスタートしました。7月23日(金・祝)より東京にて上映をスタートした中国のアニメーション映画『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』です。

 全国でも順次劇場公開されるということで、近隣でまだ公開されていないという人も。公式サイトなどで、上映予定映画館をチェックしてほしいところです。

 『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』の何がすごいかといえば、中国のアニメーション映画といえば、ファミリー向け作品こそ多数制作されていながらも、中高生やそれ以上の年齢層に向けたアニメーション映画の市場はここ数年でやっと確立してきたばかりです。そんな中で、この映画は2017年時点で、制作サイドから13歳未満の鑑賞は控えるよう自主規制を促すような、映画を作ってきたのだから衝撃的。自粛も納得なように、タイトルにもある“豆人間”が無残にも次々と殺されていく、過激な内容となっています。

 あまり日本人には馴染みのない雰囲気に、そのまま異国の物語と映ってしまうかもしれないのですが、実はこの映画、日本人にも強く刺さる教訓を携えた映画となっていました。

◆『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』のあらすじ

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 『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』の主人公は、“赤いおにぎり”みたいな国に仕える守護者ダフファー。行方不明になった皇太子を探している道中で、挙動のやたら怪しく、見た目がそっくりな人間たちの村に行き着きます。その村は何者かに支配されており、人々は理不尽に惨殺されたりと、ダフファーはその村の異様さを目の当たりにします。
そんな矢先、ダフファーの探していた皇太子をその村の近くで発見し、国に戻るように説得するのですが、皇太子は絵を描くことに夢中でなかなか帰ろうとしないのですが、そんな矢先にダフファーと皇太子は村を支配する吉安やロダンに目をつけられて、村を巡る戦いに巻き込まれていくことになります……。

 殺されていく“豆人間”たちは人間たちとは構造が違うのか、血が青色だったり、頭を撃ち抜かれても脳がはじけ飛んだりはせず、果物が割れたような描写にはなるのですが、それでもバイオレンス描写であることには変わりないので、特に暴力描写が苦手な人やお子さんとの鑑賞には気をつけたほうがいいかもしれません

◆“謎の豆人間”とは何者か?

 物語の主人公はダフファーではあるのですが、この映画のもう一人の主人公と言って良いのがサブタイトルにもなっている豆人間たちでもあります。

 豆人間たちは頭・腕・足が揃っており、子供のようなものも居たりと、一見人間のようではありながらも、手足の形状が人間のそれとは違ったり、残飯らしきものを食べさせられていたり、実はその目や口を仮のものであったりと、映画を観ていくほどに彼らが明らかに人間ではないことがわかります。

 そして、実はこの豆人間たちは、ある病気を発症した場合は、問答無用で処刑されてしまうというルールを持っています。豆人間たちはその病気にかかることに怯え、さらにはその病気に冒された者はその病気にかかったことを隠しつつ密かに暮らしています。

 そんな運命の中で、そんな現状に疑問を持ったり、そもそも自分たちは何者なのかと疑問に持つ豆人間が現れて事態は急転します。果たして、自分たちは何者なのか。なぜ“豆人間”なのか。映画のラストに向けて、それが少しずつ明らかになっていきます。

◆割と日本人にこそ刺さるメッセージ?

 この映画の何にびっくりするかといえば、豆人間たちのドラマは、「みんなに倣うな、自分で考えろ」ということを、観ているこちらに訴えかける物語になっているからです。

 中国における映画の検閲といえば、もちろん過激な暴力描写や淫らな描写がないかといった要素もあるのですが、その他にも反政府的な思想や国益に反するような内容になっていないかといった点も、精査されると言います。例えば中国映画『罪の手ざわり』は、中国で実際に起きた事件を題材に、中国人のスターキャストを揃えている社会派映画で多くの映画賞を受賞していながら、現在も本国中国では上映は実現していません。

 そんな中で、この映画が訴えかけるような、現状に疑問を抱くことを訴えかけるメッセージは、政府的には不都合にも思われかねません。だからこそ、この内容が検閲を通過したことに驚かされます。ダフファーや皇太子が国側の人間という前提はありますが、少なくとも本作が描いているような、国民一人一人が自分で考えて行動を起こしていくことを率先させる映画を検閲側はプロパガンダ的には観ていないようです。

 一方で、作中で描かれる豆人間たちの周囲の人間に同調してばかりの姿は、日本人こそ反面教師として見ていったほうが良い気もします。沈没船のジョークでも、日本人だけを海に飛び込ませるには「もう、みんな海に飛び込みましたよ!」と声をかけるべし、なんて話が有名な通り、世界的に見ても日本人は周りの人間と同じであることに安心感を持ちやすい国民性です。それを思うと、豆人間たちの姿からは日本人も多くを学ぶことができるはずです。

 

 ――新型コロナウイルス感染症対策もしながら、東京オリンピックも開催しなければいけないという難題が、現在進行形で日本に迫られています。今一度国民主権であることを思い出し、できること・これからやらなければいけないことを、一人一人が考えて実践していかなければいけない、このタイミングで『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』が日本上映を果たしたことは、ある意味ラッキーだったのかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』(https://note.com/nejimura89/m/mcae3f6e654bd)を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』公式サイト

ⒸEnlight Pictures. ⒸFACEWHITE PICTURES.

2017|中国語音声・日本語字幕|5.1ch|DCP|97分

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