◆宮崎駿監督の引退発言は「これが最後」という覚悟の現れ

 『崖の上のポニョ』の「母」や「死後の世界」といったテーマを振り返ると、実は『崖の上のポニョ』は最新作の『君たちはどう生きるか』と近い題材の作品であったことも分かります。

 『崖の上のポニョ』の発表時も、宮崎駿監督は「これが最後の長編」と謳って映画を送り出してきました。結局その後に『風立ちぬ』『君たちはどう生きるか』と制作は続くわけですが、そこにはただ口先だけで引退をほのめかしたわけではなく、年齢的にいつまで制作できるか分からないという思いもあったのでしょう。その時、その時の“最後の作品”という意識が、たび重なる引退宣言の真意なのでしょう。

 思えば『風立ちぬ』もはっきりと死後の世界が描かれた映画でした。この映画の主人公の堀越は飛行機作りにのめり込むわけですが、夢の世界ですでに故人であるはずのカプローニに何度も出会ったり、映画の最後では妻の菜穂子がそこが生と死の境界であるかのようなメッセージを残す場面が登場します。

 自身のキャリアをふまえた上で制作された宮崎駿監督の近年の監督作品は、はっきりと死後の世界を意識した映画となっているのです。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレターを配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi

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